第15話 自作自演で得た人気ほど、虚しいものはない

「まず決勝トーナメント進出を決めたのは、みんなのアイドルユーキちゃん!」

「アイドルゆ〜な!」

「ユーキ選手はそのままトーナメント表、Aの枠に入りますので、5日後の本戦第1試合に出場となります! ただ今から15分の休憩を挟みまして、予選Bグループの試合を行います! 食事、トイレ、おタバコ、下駄箱など、今のうちに済ませておいてください!」

「下駄箱って何だよ!」


 アナウンスにツッコミを入れながら、パティ達の居る特別席にやって来たユーキ。


「お疲れ様! ユーキ!」

「お疲れ様です、ユーキさん!」

「決勝トーナメント進出おめでとう、ユーキ君!」

「うん、ありがと! 何とか勝てたよ」


「やっぱりユウちゃんはぁ、強かわいいですぅ」

「強かわいいって何だよ⁉︎ キモかわいいみたいにゆ〜な!」


「ヤマト兄様もカッコよかったよ」

「ありがと、ネム」


「正に両刀使いなのです!」

「いや、それ違う意味に聞こえるから!」


「怪我は無いか? マナ!」

「うん、大丈夫! ちょっとセクハラされただけ」


「うちの人がごめんなさいね〜、マナちゃん」

「大丈夫だよ母様! ちゃんとぶっ飛ばして来たから」


「あ! 噂をすればです」


 頭を抑えながら、マルス国王がやって来る。


「父様! 頭、大丈夫?」

「いや〜、ついさっき転んで思いっきり頭を打ってしまってな……セラちゃん、治療してもらえるかな?」

「了解ですぅ」

(え⁉︎ この人、しらばっくれるつもりなのか?)


 そこに居る誰もがそう思ったが、誰も深く追求する事はしなかった。

 みんな、気持ちは良く分かるから……。


「ねえ父様! あんなマスク、どこで買ったの?」


 ただ1人、ユーキを除いては。


「マ、マスク⁉︎ マスクとは何の事だ? マナよ」

「さっき被ってたプロレスのマスクだよ! 昔はあんなの持ってなかったでしょ?」

「い、いや、だから何の事を言ってるのか分からないぞ⁉︎ マナ!」

「……まだとぼけるんだ……?」


「と、とぼけるもなにも、本当に心当たりが無いし……」

「あ〜あ! 久しぶりに父様と闘えて楽しかったのに、そんな事言うんだ⁉︎ じゃあいっぱいセクハラもされたし、もう父様の事嫌いになっちゃおうかな〜?」

「ま⁉︎ 待ってくれマナちゃん‼︎ エル・マーナの正体は私だ! 色々言った事は謝る! ただ久しぶりにマナちゃんと本気で闘ってみたかっただけなんだ! だから嫌いにならないでくれええええ‼︎」


 謝りながら、深く土下座するマルス国王。


「じゃあお詫びに、僕の欲しい物何でも買ってくれる?」

「買う! 何でも買います! だから許して〜‼︎」

「やった! じゃあ許してあげる!」

「良かったわね〜、マナちゃん」


「ユーキが悪女になって行く……」



 そして、Bグループの予選が始まる。


「みなさん、お待たせ致しました! ただ今より、予選Bグループの試合を行いたいと思います!」

「始まった! BグループにはBL隊のメンバーは誰も出てないんですよね?」

「BL隊ゆ〜な!」


「ああ、だが後々闘う事になるだろうから、見ておいて損は無いだろう。特にユーキ君は本戦トーナメントで最初に対戦する相手が決まるんだからね」

「うん、そだね」


「さあ、このBグループ1番の注目選手は何と言っても、トゥマール王国騎士団副団長にして、団長のアイバーンと互角と言われる実力の持ち主! ゼッケン200番、ブレン・プロージュだー‼︎」


「王国騎士団副団長! ブレン・プロージュとは、俺様の事だー‼︎」


 両手を上げて叫ぶブレンに、大歓声が沸き起こる。


「おおおおお‼︎」

「ブレン様ー‼︎」

「頑張ってください、ブレン様ー‼︎」

「キャー! ブレン様カッコイイー‼︎」


「ああそう言えば、あの暑苦しい奴が居たな……」

「でもブレン様、ユーキさんに負けないぐらい、凄い人気ですよ?」

「よく見ろメルク! あれは皆ブレンの部下達だ」

「ええ⁉︎ そうなんですか⁉︎」

「大方ユーキ君の人気に負けまいと、予め部下達に大げさに応援するよう命じていたのだろう」

「自作自演、ですか……嘆かわしい……」


 アイバーン達がブレンの裏工作に嘆いていると、Bグループの試合形式が発表される。


「予選Bグループの試合形式はー! 借り物競争だー‼︎」

「いや、運動会かよ!」


「それでは、ルール説明をさせて頂きます! 全員が一斉にスタートしてボックスの中から紙を取り出します! 選手はその紙に指示されたものと条件が一致する物をこの闘技場内から探し出し、共にゴールを目指します! そして1位から10位までの選手にポイントが与えられ、それを3レース行い、その合計ポイントで優勝者を決定致します!」


「3レースもやるんだ?」

「なるべく引っ張って、間を保たせようとしてるんでしょ⁉︎」

「そっか……まあ、1レースじゃすぐ終わっちゃうもんね」


「1位の選手には10ポイント。順位が下がるごとに、ポイントも1つずつ減って行きます! もし最終的に、獲得ポイント数が同率で1位の者が複数居た場合は、直接バトルで優勝者を決めたいと思います!」


「なら最初からバトルでいいじゃん」

「そう言わないでくれたまえ、ユーキ君。我々だってこのイベントを盛り上げようと、色々考えているのだよ。それに、これだって勿論普通の借り物競争ではないのだよ」


「なお、もし借り物が人だった場合怪我をする可能性が大いにありますので、自信の無い方は例え選手に誘われても、全力で拒否してください!」


「ああ〜、つまり妨害自由って事ね……」

「ユーキ! もし借り物が美少女だったら、絶対あたし達の所に来るから準備しておいた方がいいわよ!」

「ええ〜⁉︎ 来るかな〜?」


「まあ、悪魔みたいな女性という条件ならば、間違いなくパティ君を誘いに……ぐふっ‼︎」

「アイ君⁉︎」

「アイバーン様ー‼︎」


 刹那、パティの光速ボディブローがアイバーンの腹に突き刺さっていた。


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