第14話 正確には腕挫十字固
「両者ガッチリ組み合って力比べの体勢に入りましたが、明らかに体格差がある! これはユーキ選手、圧倒的に不利だー‼︎」
「でもユーキさんには肉体強化魔法がありますよね⁉︎」
「その筈なんだけど……」
「パティさん?」
エル・マーナが徐々に押し込んで行くが、それを何とかブリッジで耐えるユーキ。
フッとブリッジを解き、両手を組んだまま両足でエル・マーナを蹴り上げ、その勢いを利用して起き上がるユーキ。
ヘッドバットに来たエル・マーナの頭をスッとかわし、脇の下に頭を潜り込ませたユーキが、そのまま後方に投げ飛ばす。
素早く起き上がりラリアットを放って来たエル・マーナの右腕を取り、脇固めを仕掛けるユーキ。
しかし体を回転させて腕を外し、素早くユーキの背後に回り込みスリーパーホールドを掛けようとするが、スッと体を沈み込ませ、オーバーヘッドキックのようにエル・マーナの頭を蹴りつけるユーキ。
そして、お互い距離を取って起き上がり、再び構える2人。
「こ、これは⁉︎ プロレスだー‼︎ 完全にプロレスの試合だー‼︎ 力で押すエル・マーナ選手に対し、巧みに技で応戦するユーキ選手! 体格差を全く感じさせない素晴らしい攻防だー‼︎」
「正に一進一退の攻防ですね……でも、ユーキさんだってストレングスを倍がけすれば、充分力でも対抗出来る筈なのに……」
「出来ますよ〜、出来ますけどマナちゃんはやらないでしょうね〜」
「どういうこと? レナさん」
「実戦ならともかく、こういう試合においてはマナちゃんは、相手と力量を合わせようとするんです〜」
「え⁉︎ 何でわざわざそんな事を?」
「戦いというのは、互角の者同士が戦うのが1番面白いって言うのが、マナちゃんの持論ですから〜」
「それはまあ、分かりますけども……」
「勿論、相手が余りに格下の場合は圧倒する事もありますが〜、実力が近い相手の場合は、勝つ事よりも楽しむ事を優先するんです〜」
「そうか……マナさんの記憶が戻った分、それがより顕著に表れてるんですね」
「やるな! 少女よ!」
「父様もね! 腕は鈍ってないみたいね⁉︎」
「日々トレーニングを積んでいる、鈍るものか! だが私は君の父ではなく、愛のマスクマン! エル・マーナだがな‼︎」
「まだそんな事言ってんの⁉︎」
お互い走り出し接近した所で、エル・マーナがフライングニールキックを放つが、素早く側転でかわすユーキ。
起き上がろうとするエル・マーナにミドルキックを放つユーキだったが、その足を掴まれてしまう。
しかし、足を掴まれたまま体を回転させて、そのまま左足でエル・マーナの側頭部に蹴りを放つユーキ。
「ぐあっ‼︎」
倒れ込んだエル・マーナに走り込んでシャイニングウィザードを放つユーキだったが、クロスアームブロックで防ぎ切るエル・マーナ。
完全にブロックされた事により体勢を崩し倒れ込んだユーキに馬乗りになり、殴りつけようとするエル・マーナ。
しかし素早くその腕を取り、エル・マーナの首に足をかけて、腕ひしぎ逆十字固めに極めるユーキ。
「し、失礼しました! 余りに素早い攻防だった為に、実況が追い付きませんでした! ええーっ、様々な攻防があった後、現在はユーキ選手がエル・マーナ選手に腕十字を決めている状態です! この技は完全に決まってしまえば、体格差は関係ありません! これはユーキ選手の勝利確定かー⁉︎」
「完璧に決まってるよ! 早くギブアップしないと腕が折れちゃうわよ⁉︎ 父様!」
「フッフッフッ! 甘いな、少女よ! 私は今法悦の境地に居る」
「なあに? 余裕のつもり?」
「事実を述べているのだ! 何しろ今こうしてお前の胸の感触を、腕全体で味わっているのだからな!」
「んなっ⁉︎」
顔を真っ赤にして技を解き、素早く距離を取るユーキ。
「こ、このエロオヤジ‼︎」
「ああーっと⁉︎ どうしたユーキ選手? 勝利を目前にして、いきなり技を解いたぞー⁉︎ エル・マーナ選手、ギブアップをしたのかー?」
実況者がレフェリーを見るが、首を横に降るレフェリー。
「いや、エル・マーナ選手はギブアップはしていないもようです! では何故技を解いたんだ? ユーキ選手ー⁉︎」
「どうしたんでしょうか? ユーキさん……」
「あのオヤジ、ユーキに何か言ったわね? まあ、大体想像はつくけどね」
「フッ、この程度で技を解くとは……まだまだ甘いな、少女よ!」
「うう〜っ」
「さあどうする⁉︎ この体格差では打撃技は私には殆ど効かない! かといって、投げ技や関節技を仕掛ける為には私に密着しなければならない! だがそうなれば、私はお前の体の感触を堪能させてもらうだけだがな‼︎」
「もうっ! 父様のバカ‼︎ 痴漢‼︎ 変態‼︎」
イヤラシイ手つきをしながらユーキに迫るエル・マーナと、顔を赤くして胸を隠しながら後ずさりするユーキ。
「な、何だか様子が変ですよ?」
「マナちゃんの顔が前面に出てますねぇ」
「さあ少女よ! 私の胸に飛び込んでおいでー‼︎」
「いいっ⁉︎ や、やだー‼︎」
エル・マーナの異様な雰囲気に身の危険を感じ、逃げ出すユーキ。
「ああっとお! 逃げるユーキ選手をイヤラシイ手つきで追いかけるエル・マーナ選手! これはさながら、少女を追い回す変態だー‼︎」
「これは後でお仕置きですね〜」
(くっ、どうする? 打撃技以外で、体を密着させないで出せる技なんて……あっ!)
何かを思い付いたユーキが逃げるのをやめて、エル・マーナに向かって走って行く。
「私の胸に抱かれる気になったか⁉︎ 少女よ!」
「お断りよ! フラッシュボム‼︎」
「ぐあっ! 目くらましか⁉︎」
一瞬怯んだエル・マーナの背後に回り込み、胴に腕を回しロックするユーキ。
「いいのか⁉︎ 少女よ! それではお前の胸の感触を堪能する事に……」
(ん⁉︎ 胸が、無い?)
「いいぜ! 好きなだけ堪能しな!」
「何いっ⁉︎ お、お前はあああっ! がはあっ‼︎」
豪快な投げっぱなしジャーマンでエル・マーナを後方に投げ飛ばしたのは、ユーキが変身したヤマトだった。
「出たああああ‼︎ ユーキ選手のもう一つの顔! 超絶イケメンのヤマトだあああ‼︎」
「キャー‼︎ 待ってましたー‼︎
「ヤマト君カッコイイー‼︎」
「ユーキちゃんもかわいいけど、ヤマト君も好きー‼︎」
「そうか! ユーキさんにはこの能力もあったんですね!」
「そういえば、魔装しなくてもヤマト君に変身出来るようになってた事、すっかり忘れてたわ」
「これで力負けする事は無くなりましたね⁉︎ てか、もうさっきの投げ技で決まったかも?」
しかし、フラつきながらも起き上がって来るエル・マーナ。
「くっ! かつてのマナには無かった能力なので油断した……」
チャンスと見たヤマトがすかさずブレーンバスターの体勢を取り、エル・マーナの体を持ち上げる。
「さ、さすがに変身したらパワーも増すようだが、普通のブレーンバスターでは大したダメージにはならんぞ‼︎」
「普通の、だったらな! 死ぬんじゃねーぞ、オヤジ!」
「なんだと⁉︎」
持ち上げてお互いの体が一直線になった状態からジャンプして、そのまま真下に落下させてエル・マーナの頭を舞台に打ち付けるヤマト。
「がはああっ‼︎」
大の字になって倒れ込む、エル・マーナ。
「強烈ー‼︎ そしてエゲツないー‼︎ ヤマト選手、垂直落下式ブレーンバスターでエル・マーナ選手の頭を固い舞台に打ち付けたあああ‼︎ 今レフェリーがカウントを数えます!」
「ワーン! ツー! スリー!……」
しかし、尚も立ち上がろうとするエル・マーナ。
「お、俺のオヤジは化け物か⁉︎」
「わ、私だって……マナちゃんに勝って……マナちゃんと結婚、したかっ……た……ガクッ」
エル・マーナが崩れ落ちると同時に、テンカウントが数えられる。
「エル・マーナ選手立てないー! ユーキ選手、いや、ヤマト選手の勝利でーす‼︎」
ポンッとユーキの姿に戻るヤマト。
「親子で結婚出来る訳無いでしょ⁉︎ バカ……」
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