第13話 耳がいい人は歌も上手いはず
「見た目だけで、安易に人を判断するなと言っている! 見た目など、幻術でいくらでも偽装出来るんだからな!」
「ああ、なるほど〜」
「大体お前達は、相手との力量差も分からないのかっ⁉︎ まあ、マナちゃんと結婚したいという気持ちは、痛い程に分かるがな‼︎」
(ん⁉︎ あのマスクマン、今マナって言った? それにさっきのプロレス技……まさか、正体って……)
「ああっとぉ⁉︎ エル・マーナ選手、何やら他の選手に説教を始めたぞー⁉︎」
「ふうっ、やっと辿り着けましたね〜、マナちゃんの試合に間に合わないかと思いましたよ〜」
「レナさん⁉︎」
パティ達の居る特別席にやって来たのは、ユーキの母親のレナであった。
「レナ様、お一人なんですか? マルス様は?」
「え⁉︎ メル君、それ本気で言ってるの⁉︎」
「え⁉︎ どういう意味ですか? パティさん」
「ま、まあいいわ……見てれば分かるわよ」
「はあ……」
依然、説教を続けているエル・マーナ。
「本来ならば、正々堂々1対1で戦うのが男というものだが、今回のような場合は……」
「ねえ!」
しびれを切らしたユーキが口を挟む。
「む⁉︎ 何だね? 少女よ」
「いつまでも何やってるの? 父様!」
「んなっ⁉︎ な、ななななな‼︎ 何を言っているのかね? 少女よ! 私は君の父などではない! 私は愛のマスクマン、エル・マーナだ‼︎」
「マナちゃ〜ん‼︎ 頑張って〜‼︎ あなた〜‼︎ あんまりマナちゃんをイジメたらダメですよ〜‼︎」
「客席に居る僕の母様が、あんたの事あなたって呼んでるんだけど?」
「ち、違う‼︎ あれは私にではない‼︎ 彼等の中の誰かに言ったのだ‼︎」
「ああ⁉︎ あんなオバハン知らねーぞ⁉︎ 凄く綺麗な人だけど……」
「年増には興味ねーし! 凄く綺麗な人だけど……」
「人妻はちょっとなー! 凄く綺麗な人だけど……」
「む⁉︎ 君等! 僕の母様の事を悪く言ったらゆるさ……」
「貴様等ーっ‼︎」
ユーキが文句を言い終わる前に、既にエル・マーナが暴言を吐いた男の1人にドロップキックを炸裂させていた。
「ぐはあっ‼︎」
そのまま場外に弾き飛ばされる男。
「散々好き勝手言いおってー‼︎」
「ち、ちょっと待てよおっさ……がはあっ‼︎」
「貴様等にレナの何が分かるー‼︎」
「おい! 俺達は味方じゃなかっ……ぐあっ‼︎」
「少々天然な所もあるが、とても可愛くて優しくて常にポジティブで‼︎」
「お、落ち着けっておっさん‼︎ 相手がち……があっう‼︎」
「私には勿体無い程の、素晴らしい女性だあああ‼︎」
「ごめんなさ〜い‼︎」
ようやく動きを止めたエル・マーナにユーキが声をかける。
「フフ、数を減らしてくれてありがとう父様! 助かったよ」
「何⁉︎ 何を言って……」
エル・マーナが辺りを見回すと、自分とユーキ以外誰も舞台に残っていない事に気付く。
「ああっと凄まじい‼︎ エル・マーナ選手、怒涛の攻撃で次々に他の選手を場外へ叩き落としたー‼︎ これで今舞台に残っているのは、謎のマスクマン、エル・マーナ選手とー! 超絶美少女魔法使い、ユーキちゃんの2人だけとなったー‼︎」
「がああっ、しまったあああ! あいつ等を巧みに操ってマナちゃんを絡め取る作戦が、怒りに我を忘れたあああ‼︎」
頭を抱えて激しく後悔するエル・マーナだったが、スッと真顔になり。
「フッ! やはり勝負というのは、正々堂々1対1じゃないとな!」
「いや、今思いっきり後悔してたよねー⁉︎」
「私は後悔などしないっ‼︎」
開き直り、ユーキに向かって走って行くエル・マーナ。
「あんな無防備で突っ込んで行ったらいい的よ」
「いいえ〜、マナちゃんは魔法は撃てませんよ〜」
「え⁉︎ どういうこと? レナさん」
レナの指摘した通り、魔法を放つ事なくガッシリ両手で組み合うユーキ。
「本当に撃たなかった⁉︎ 何で?」
「それはあの人の魔装具にあるんです〜」
「魔装具? でもマルスさんは魔装具は具現化してないんじゃ?」
「マルス……? ええ⁉︎ あのマスクマンってマルス様なんですかー⁉︎」
「え⁉︎ メル君、今頃?」
「だって……え⁉︎ みなさん分かってたんですか?」
「当たり前でしょ⁉︎」
「名前の時点で気付くだろう!」
「名前って……エル・マーナ……マーナ……マナ⁉︎」
「そういう事ですぅ、マーナはマナちゃん。エルはおそらく、LOVEの頭のエルから取ったんでしょぉ」
「そうか……つまりは、愛するマナって事だったんですね⁉︎ ネムちゃん達も気付いてたんですか?」
「も、勿論だよ」
「す、すぐ分かったのです! 直感ロロなのです!」
「そっかー、分かってなかったの僕だけだったんですね……」
実はネム&ロロも気付いてなかったが、あえて口にしないのだった。
「ああもう! メル君のせいですっかり話が逸れちゃったけど、マルスさんの魔装具って?」
「あの人の魔装具はナックルタイプ。だからとっくに展開して両腕に装着しています〜」
「だけど、だからって何でユーキが魔法を撃てない事に……まさか⁉︎」
「気付きましたか〜? そう、あの人の魔装具は特注品で、魔法を弾く特殊な術式が組み込まれているんです〜。もっとも〜、術式を展開している間は装着者自身も魔法が使えないから、必然的に格闘戦になるんですけどね〜」
「そっか、魔装具の事は当然ユーキも知ってるから、それで魔法を撃たなかったのね……」
「あ、でも! ユーキさんには例のエターナルマジックがあるんですから、魔装具で覆われていない部分に直接触れれば、魔力を吸収してマルス様の力を弱らせる事が出来るんじゃ?」
「そうなんですよ〜、それでいつも私達はマナちゃんに負けるんです〜」
「だったらもう、勝負は見えてるじゃないですか⁉︎」
「いや! 今大会でユーキ君がエターナルマジックで魔力吸収をする事は無い!」
「え⁉︎ どういうことよ? アイ君」
「私がユーキ君に使用を控えるように言ったからだ」
「んなっ⁉︎ 何であんたはそんな余計な事言うのよ〜‼︎」
アイバーンの両頬を、思いっきり左右に引っ張るパティ。
「ふぁ、ふぁあほぉひふひぃふぁふぁへ、はひぃふん(ま、まあ落ち着きたまえ、パティ君)」
「落ち着いてられないわよ‼︎ それでもしユーキが大怪我でもしちゃったらどうすんのよ⁉︎」
「ふぃ、ひんひはほひっへほ、はひへひほふへふふえへはほふほひゅーひゅーひゅふほほおひんひははへは(き、禁じたと言っても、相手に直接触れて魔力を吸収する事を禁じただけだ)」
「じゃあ、相手が撃った魔法を吸収する事は出来るって事?」
ようやくアイバーンの頬から手を離すパティ。
「そういうことだ! いくらユーキ君の生まれ持った特殊能力とはいえ、魔力吸収は邪法として忌み嫌う者も多い。それをこんな公の場で、しかも王族であるユーキ君が使えば、いくらユーキ君が王になったとしても快く思わない者も出て来るだろう」
「フンッ! そもそもそれを嫌う連中なんて自分達の能力が低いから、単に妬みで言ってるだけじゃないのよ!」
「だとしてもだ!」
「いつも不思議なんですが……」
「どうしましたぁ? メルちゃん」
「パティさんって、よくアイバーン様の言ってる事が分かるなーって……僕にはふあふあ言ってるだけにしか聞こえないのに……」
「ああ〜、仮にもパティちゃんは風の魔道士ですからねぇ、わずかな音の違いでも聞き分けられるんじゃないですかぁ?」
「ああそっか! だからベルクルの時もパティさんは、大歓声の中でもアイバーン様の悪口を聞き分けられたんですね⁉︎」
謎が解けてスッキリしたメルクであった。
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