第12話 おっさんとおっちゃんでは、印象が全然違うね

 スタッフに引きずられながら、強制退場させられるブント。


「ま、待つっス〜‼︎ オイラまだ何もやってないっス〜‼︎ ユーキさんに勝って結婚する為に、遥々やって来たっス〜‼︎」

「ゴ、ゴメンね〜、決してわざとじゃないからね〜」


 申し訳なさそうに手を合わせて謝るユーキと、一連のやり取りを見ていた他の出場者達。


「こ、怖え……もしユーキちゃんにあんな風に言われたら、俺も絶対魔装してたよ……」

「俺もだよ……何て巧みな戦術だ⁉︎」

「いや、わざとじゃないから‼︎」


 すっかり作戦だと誤解している選手達に、訂正するユーキ。


「哀れブント選手! まんまとユーキ選手の策略にハマり、戦う事なく強制退場だー‼︎」

「だから、わざとじゃないって言ってんだろー‼︎」


「どうやら本当に作戦じゃ無かったみたいですねぇ。さすがはユウちゃん、パティちゃんと違って純粋ですぅ」

「誰が魔性の女よ⁉︎」

「言ってないですぅ」

「そんな事言うとあんたが買い溜めした食料、全部あたしが食べるからね‼︎」

「やめてくださいぃ! 食べ物が無くなったら、また誰かにしゃぶり付かないといけなくなりますぅ!」


 セラの発言を聞いて、一斉に目をそらすBL隊の面々。


「ユウちゃんが今居ないからぁ、今居る中だとそうですねぇ……ネムちゃんが美味しそうですぅ」


 ビクッとなるネム。


「ネ、ネムはユーキ姉様の物だからダメ……代わりにロロをあげる……」

「はうあっ⁉︎ 主に売られたのです! 生贄ロロなのです! だけど、ロロは美味しくないのです! パティさんの手料理ぐらい美味しくないのです!」

「あ、あんた達……いい加減にしろー‼︎」



 パティがお馴染みの黒いオーラを爆発させていた頃、闘技場では選手達が再びユーキに襲いかかろうとしていた。


「ええい‼︎ ぐだぐだ考えてても拉致があかねぇ! 俺は行くぜ‼︎」

「な、なら俺も行く!」

「わ、私も!」


(来るか⁉︎ どうする? 魔力切れの心配は無くなったけど、これだけの数をいちいち相手するのも面倒だし、かと言ってあまり大技を出すと、殺しかねないしな〜)


 力が覚醒したが故に、また別の心配事が出て来てしまったユーキが、少し考えてから作戦を思い付く。


(よし! これなら相手を殺す事なく、一気に数を減らせるぞ!)

「ウインドウォール‼︎」


 風の壁を作り出すユーキだったが、全方位型ではなくて、盾のように自分の前方だけを防ぐ型だ。


「ユーキ選手、風の壁を作り出したが正面にしか張られていない! これでは死角からの攻撃は防げないぞー⁉︎」

「そんな事は分かってるよ」


 そう言うと、ロッドを回転させ始めるユーキ。


「ユーキが魔力を上げ始めた!」

「でも、いくら壁の強度を上げても、あれでは小さ過ぎて、あの数相手では防ぎきれないですよ?」

「ユーキ君も当然それは分かっているだろう」

「どうするつもり? ユーキ……」


 回転を止め、体の正面で指先を伸ばし、親指だけで支えるような型で両手でロッドを水平に持つユーキ。

 そのまま左右に手をスライドさせながら叫ぶ。


「グレートウォール‼︎」


 すると、高さは約10メートル、横は舞台を完全に覆い尽くす程に広がる透明な壁。


「壁が巨大化したー‼︎ 横は完全に舞台からはみ出しているし、上は飛行魔法無しではとても超えられそうにない高さだー‼︎」

「みんながみんな飛行魔法使える訳じゃないでしょ? このまま押し出す‼︎」


「何とユーキ選手、巨大化させた壁を押し始めたー‼︎ これでは、飛べない者はなす術なく場外行きだー‼︎」

「飛べない者は、だろ⁉︎」


 飛行魔法を使える何人かが空から壁を越えようとするが、壁の上を通り過ぎようとした時、突然カミナリに打たれたように電撃が走り、次々に落下して行く。


「な、何だ⁉︎ 壁を越えようとすると電撃が⁉︎」


「ユウちゃんやりますねぇ」

「ええ、壁が途中までしか無いと思わせておいて、その上には幻術で隠した雷の壁を張っているんだわ」

「そうか! だから上を抜けようとした人達が次々に落ちて行くんですね⁉︎」

「ふむ……上手く行けば全員を傷付ける事なく場外負けに……そうでなくとも、飛行魔法を使える者をおびき出し、先に片付ける事が出来る。考えたな、ユーキ君」


「オイ! もっと前行けよ!」

「前も詰まってんだよ! これ以上は無理だ!」

「押すな! 落ち……うわっ‼︎」


「ああっとー! ユーキ選手の壁に押されて、舞台の端に居る者からどんどん場外に落下して行くー‼︎」

「よし! このまま全員を落とせれば、僕の勝ち残りだ!」


 勝利を確信したユーキだったが、押していた壁が突如動かなくなる。


「え⁉︎ 何だ? 動かな……い……?」

「ああっとー! 勝利目前と思われたユーキ選手! 何故か壁を押すのをやめたぞー⁉︎」

「やめたんじゃなくて止められたのよ」


 パティの言葉通り、反対側から力尽くで壁を止めている人影があった。

 土埃の中から現れたその人物は、まるでプロレスラーのマスクマンのようなマスクを被っていた。


「な、何だあいつ⁉︎ プロレスラーか?」

「何と、壁を止めたのは……ゼッケン863番、謎のマスクマン! エル・マーナ選手だー‼︎」

「この私に……」


 左手で壁を押さえつつ右拳を握り、振りかぶるエル・マーナ。


「パワーで勝てると思うなー‼︎」


 右拳で思いっきり殴りつけると、壁が粉々に砕け散る。


「エル・マーナ選手! 何と、一撃で壁を打ち砕いたー‼︎」

「うおおー‼︎ 凄えぜおっさん‼︎」

「助かったぜ、サンキューなおっさん‼︎」


 だが、喜ぶ選手達にラリアットを炸裂させるエル・マーナ。


「ぐわあっ‼︎」

「がはあっ‼︎」

「な、何すんだよ⁉︎ おっさん‼︎」


「さっきから人をおっさんおっさんと……ふざけるな‼︎」

「ええ⁉︎ じゃあ若いって事か?」

「ま、まさか女って事は無いよな⁉︎」



「私は正真正銘、おっさんだー‼︎」

「おっさんじゃねーかっ‼︎」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る