第3話 アイドルならファンを大事にしないとね
逃亡計画が失敗に終わったので、仕方なくネム、ロロ、パティと共にゲーム屋めぐりに来たユーキ。
「クソッ! 自然な流れで行けると思ったのに……」
「いやいや、不自然極まりなかったわよ。馬車の時は、あたしも騙されたぐらい自然だったけどね」
「姉様わざとらしかった……」
「大根なのです!」
「うぐっ……ああ! そう言えば、何でロロは毎回セラの言う事聞くのさ⁉︎ 僕がマスターなんじゃなかったの?」
「はうっ‼︎ も、勿論ネムとロロはマスターユーキに養われてる身なのです! だけど……」
「だけど?」
「もし、セラさんのあの魔法無効化の結界をロロに仕掛けられたらと思うと、恐ろしくて恐ろしくて……」
「結界? あ、そうか! 余りに人間臭いから忘れがちだけど、ロロって召喚獣だったんだよね」
「そうなのです! ロロがあの結界に掛かったら、ロロは消滅してしまうのです! 元々ロロを召喚したのはネムのお母様なので、ネムにもう一度召喚してもらうのは無理なのです! いえ、仮にもし召喚出来たとしても、今の記憶は失われている可能性が高いし、自我を持つ事すら出来ないかもなのです!」
「ネムも何度か人型の召喚獣を生み出した事はあるけど、自我を持ってる子は生まれなかった……」
「そっか……まあ、セラがそんな事するとは思えないけど、もしかしたら消えちゃうかもって思ったら、そりゃ怖いよね……うん、分かった! それなら仕方ない!」
「許してくれるのですか?」
「うん! 許す!」
「ありがとうなのです! 流石は私達のマスターなのです!」
「もう! 調子いいんだから! フフフ!」
「フフフなのです!」
(……はううっ! 本当は、スイーツ食べ放題で買収されたなんて、口が裂けても言えないのです……)
既に裏で色々手を回しているセラであった。
ユーキ達が街中を歩いていると、ユーキに気付いた人達が声をかけてくる。
「ああ‼︎ も、もしかしてユーキちゃん⁉︎」
「ホントだ‼︎ ユーキちゃんだ‼︎」
「うわぁ! やっぱかわいいな〜!」
「この街に来てたんだ⁉︎ じゃあ武闘大会に出るのかな?」
「なら、俺は絶対にユーキちゃんを応援するぜ‼︎」
「何言ってんだ⁉︎ 俺もだよ‼︎」
「ユーキ⁉︎ 何やらみんな、あなたの事を話してるみたいよ⁉︎」
「ユーキ姉様大人気……」
「あ、うん……ありがたい事ではあるんだけど、余り注目されると行動し辛い……」
「オイ! 隣に居る黒い服の娘って……」
自分の事だと直感したパティが耳をすます。
「漆黒の悪魔じゃないのか?」
(あくっ……)
「ホ、ホントだ⁉︎ 何で悪魔が天使と一緒に居るんだ?」
「ホラ、アレだよ! 心優しいユーキちゃんが悪魔を許したんだよ!」
「ああなるほど! 流石は天使なユーキちゃんだ!」
(も、燃やしてやろうかしら……)
パティが顔を引きつらせていると、1人の女の子がユーキに近付いて来る。
「あ、あの……ユ、ユーキお姉ちゃん!」
「ん? 何かな?」
「サ、サインください‼︎」
恥ずかしそうにしながら、ペンとノートを差し出す女の子。
「え⁉︎ サイン⁉︎ 僕の?」
「うん‼︎ お、お願いします‼︎」
「いやまあ、書くのはいいんだけど……僕なんかのサインでいいの?」
「ユーキお姉ちゃんがいいの‼︎ 闘技場で悪魔と戦ってるお姉ちゃん、と、とてもキレイでカッコよかったから……」
「あくっ……」
またしても顔が引きつるパティ。
(悪魔? パティの事かな?)
「……うん、分かった!」
カッコいいと言う言葉に、まんざらでも無い様子でサインするユーキ。
「あ、あの……握手も、いいですか?」
「うん、いいよ!」
頬を赤くしながらユーキに握手をしてもらった女の子が、ノートを抱き抱えて嬉しそうに走って行く。
「ありがと、お姉ちゃん‼︎ あたし、大きくなったら絶対お姉ちゃんみたいな魔法使いになるからー‼︎」
「うん、頑張ってね‼︎」
その様子を見ていた周りの人達が、我も我もとユーキにサインや握手を求めて集まって来る。
「ユーキちゃん‼︎ 俺もサインお願いします‼︎」
「あ、うん、いいよ」
「握手してください!」
「うん」
「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「う、うん、いいよ」
「ハグしてもいいですか?」
「それはダメ」
「結婚して‼︎」
「パティ‼︎」
かなりの足止めを食らったが、ようやく解放されたユーキ。
「まったく……みんな何を勘違いしてるんだ? 僕はアイドルでもタレントでも無いんだぞ⁉︎」
「何言ってんのよ! もうすっかり有名人じゃないの。闘技場での闘いはフィルス大陸全土に中継されてるから、みんなユーキの事を知ってるのよ!」
「う〜ん……あ! でも僕が有名って言うなら、僕に勝ったパティだって有名な筈じゃ?」
「あ、あたしは……天使のユーキをイジメた悪魔だから……」
凹んだ表情で目をそらすパティ。
すっかり凹んだパティを連れたユーキ達が先へ行くと、ネムと同年代ぐらいの少年と少女が何やら言い争いをしていた。
「またお前はそんな格好で! ホント懲りないわね⁉︎」
「お姉ちゃんこそ、人の事言えないでしょ? そんなかわいい姿になって」
「お姉ちゃん言うな‼︎」
「ん? 姉弟喧嘩か? どうしたの? ケンカは止めよ⁉︎ 楽しくないでしょ?」
仲裁に入ったユーキ達を見る少年と少女。
「ゲッ⁉︎」
パティを見た少女が目をそらす。
(うう〜、また〜?)
「お姉ちゃん‼︎」
少年がユーキの陰に隠れて訴えてくる。
「お姉ちゃん助けて‼︎ あのお姉ちゃんが僕をイジメるの‼︎」
「んなっ⁉︎ あ、あんた〜」
少年の態度を見て、怒りを露わにする少女。
「あ、あの、さ……事情は知らないけども、姉弟なら仲良くしようよ、ね?」
「弟なんかじゃないわよ‼︎ 覚えてなさい、バカ‼︎」
吐き捨てるように言い放ち去って行く少女。
少女が去ったのを確認した少年もまた去って行く。
「ありがとお姉ちゃん! 助かったよ! じゃあまたね〜!」
「あ、うん……ん? またね?」
「あの子達、強い……」
何かを感じたネムが呟く。
「うん、確かに只者じゃないなとは思うけど……ねえ! パティはどう思う?」
ユーキが振り返ると、しゃがみ込んで地面に指で何やら書いているパティが居た。
「ええ、どうせあたしは優しい天使なユーキと違ってみんなに嫌われている、黒くて暗くて意地の悪い悪魔よ……」
「いや何の話だよ⁉︎」
すっかりイジケモードのパティだった。
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