第2話 1番! 2番! 茶番!
とりあえずは大人しくなったが、まだ不服そうな顔をしているユーキ。
「ユウちゃん、いつまでもそんな顔してないでぇ、ほらぁ、私のお弁当分けてあげますからぁ」
「お腹空いて不機嫌なんじゃないやい!」
「じゃあ何ですかぁ? 生理ですかぁ?」
「違わいっ‼︎ もうっ! お姉ちゃん、分かってるんでしょ⁉︎ 言い出しっぺなんだから!」
「バツゲームの事ですかぁ?」
「結婚をバツゲーム言うなっ‼︎」
「大丈夫ですよぉ、別に負けたからって強制的に結婚させられる訳じゃないんですからぁ」
「え⁉︎ だって……」
「あくまでユウちゃんの両親が公認ってだけでぇ、勿論最終的にどうするかの決定権はユウちゃんにありますからぁ」
「え⁉︎ そ、そうなの⁉︎ ハッ! そう言って僕を安心させる為の嘘なんじゃ⁉︎」
「嘘じゃないですよぉ、私がユウちゃんに嘘ついた事ありますかぁ?」
「いや、結構あると思うんだけど……」
「今回のは本当ですよぉ」
「今回のはって言った!」
「本当ですってばぁ! この目を見てください!」
「細すぎて見えないです!」
「ち、ちょっとセラ」
「何ですかぁ? パティちゃん」
パティに服の袖を引っ張られたセラが、ユーキに聞こえないように馬車の隅で小声で話す。
「さっきの話、本当なの?」
「さっきのと言うとぉ、ご飯に一番合うオカズは何かって言う話ですかぁ?」
「いや、そんな話してないでしょ⁉︎ 結婚の事よ! 強制的じゃないって……」
「ああ、その事ですかぁ……ああ言っておけばぁ、ユウちゃんも納得するでしょぉ?」
「まったく……どっちに言った事が本当なんだか⁉︎」
「少なくともぉ、ユウちゃんの両親が公認って言うのは本当ですぅ」
「ほら、もう怪しくなって来た」
「んふふ〜、でもぉ、これだけは間違い無く言えますぅ。ユウちゃんを泣かせるような事だけは絶対にしません!」
(……結構泣かせてるような気もするけど……)
「分かったわ! 信じるわよ⁉︎」
「みなさん‼︎ トゥマールの街が見えてきましたよ‼︎」
「ホント⁉︎ どれどれ?」
ユーキ達が一斉に馬車の前から身を乗り出すと、その前方には街を囲う巨大な壁がそびえ立っていた。
左右に伸びた壁は、端が見えない程遥か先まで続いている。
「ふわぁ〜、大っきい〜!」
「とても長い壁なのです!」
「凄い物だな⁉︎」
「さすがにヴェルンとは国の規模が違いますねぇ」
「まあ、あたしは何度か来た事はあるからね」
「ここが、王都トゥマール……」
ユーキ達を乗せた馬車がトゥマールに到着した頃、リーゼル城ではある不思議な事件が起こっていた。
「マナちゃん達はもうトゥマールに着いた頃かしら?」
「そうだな……今頃は壁の大きさに驚いている頃だろう」
まるで見ていたかのように、マルス国王達が話していると、城の兵士が慌てて入って来る。
「国王‼︎ マルス国王‼︎」
「何だ⁉︎ 騒がしい!」
「も、申し訳ありません‼︎ そ、それが……牢に捕らえていたカオスが……」
「カオスがどうした⁉︎ まさか脱走でもしたのか?」
「カオスが……死亡しました……」
「何だと⁉︎」
慌てて城の兵士と共に、カオスが入れられていた牢に向かうマルス国王とレナ王妃。
「カオス……一体どうなっている⁉︎ 死因は何だ⁉︎」
「それが……妙なんです……」
「妙? 何がだ?」
「あ、ハイ! 先程城の医師に調べさせた所、この死体は少なくとも死後3日は経っていると言うんです」
「3日? どういう事だ⁉︎ 昨日までは生きていたのだろう?」
「ハイ! 確かに昨日までは間違いなく生きていました! 大勢の兵が確認していますし、私も見ました。その時は特に変わった様子も無かったのですが、今日見に来た時には既に……」
「一体どういう事だ? 昨日は確かに生きていたのに今日いきなり死亡している……しかも死体は死後3日は経っているだと?」
「いかが致しましょうか?」
「うむ……とにかく、可能な限り死因を調べてくれ! そしてその後は手厚く葬ってやってくれ!」
「ハッ‼︎」
「それと、カオスが死亡した事はくれぐれも内密に! 特にパラスには絶対に知られてはいけない! 少なくとも、5国統一が為すまでは……皆にも厳重に注意させよ‼︎」
「ハッ‼︎ 了解しました‼︎」
「あなた……」
「心配するな、レナよ……マナは私達の娘だ! 必ずや勝ち残ってくれる!」
「そうですね! マナちゃんはメチャ強いんですものね」
「ああ……さあ! 私達も出発の準備をしよう! トゥマールに向かうぞ!」
「ハイあなた!」
宿屋に荷物を降ろしたユーキ達が、それぞれ今後の行動を決める。
「武闘大会のエントリーの締め切りは10日後で、大会が始まるのが更にその5日後になっている」
「随分間が空くのね」
「皆の登録は私がまとめてやっておくが構わないかね?」
「はぁい、お願いしますぅ」
「了解した……さて、それでは私は戻って来た事をロイ国王に報告に行って来るが、皆はどうするね?」
「僕は馬車を返しに行って来ますね」
「大会まで間があるのなら、俺は魔装具を修理に出したい。カオスとの戦いで、かなりダメージを受けたからな」
「私はぁ、美味しいお店を探しに行きますぅ」
「ネムはゲーム屋さんに行って来る……」
「ネムのある所、ロロありなのです」
「あたしは当然ユーキの護衛よ」
「じゃあ僕は猫師匠に会ってくるよ」
「猫さんって、グレールまで行くんですかぁ? 遠いですよぉ?」
「大丈夫! 頑張って行ってくる!」
「そうなんですかぁ? 気を付けてくださいねぇ!」
「うん! それじゃ!」
「ロロちゃぁ〜ん」
「ハ〜イなのですぅ」
まさに飛び立とうとしていたユーキを、ロロが押さえ込む。
「ムギュッ‼︎ クソォー‼︎ もう少しだったのにー‼︎」
「いやぁ、危ないとこでしたぁ! 余りに自然過ぎて、危うく見逃す所でしたぁ」
「んな訳ないでしょ!」
ユーキとセラの茶番劇に、冷静にツッコミを入れるパティであった。
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