第五章 五国統一
第1話 釣りエサはレアな物で
すっかりふてくされて、みんなに背を向けながら横になり、以前ゲットした携帯型ゲームをやっているユーキ。
「ユ、ユーキ⁉︎」
「ガルルルルル‼︎」
パティが牢屋越しにユーキに触れようとすると、犬のような唸り声をあげて威嚇するユーキ。
「ユーキ……」
「完全に警戒してますね」
機嫌を取る為、色々な物でユーキを釣ろうとするパティ達。
「ユーキ! お、お腹空いたでしょ? お弁当食べない?」
「いらない……胸が苦しくて食べられない」
(どこが苦しいの? さすってあげようか? 何て言える空気じゃ無いわね、さすがに……)
「で、ではマスターユーキ! クッキーはいかがですか? 今朝出発前にみんなで作ったのです!」
「みんなで……さぞかし楽しかったんだろうね……」
(はうっ⁉︎ 失言だったのです!)
「マナ! 寒く無いか? 俺の毛布を貸してやろう!」
「大丈夫、寒く無い……寒いのは心だけ……」
(くっ……出来ることなら、今すぐ抱きしめてやりたい! そして殴られたい!)
「ね、姉様! 何のゲームをやってるの? ネムもゲーム機買ったから、一緒に遊びませんか?」
「これ、1人用のソフトだから……それに、僕には一緒に遊ぶ友達も仲間も居ないみたいだし……」
(姉様、引きこもりになっちゃった……)
少し離れた所で集まり、小声で作戦会議をするパティ達。
「どうするんですか? 相当怒ってますよ、ユーキさん」
「散々味方だ仲間だ言ってた人達みんなに裏切られた訳ですからねぇ」
「そもそもの原因はセラでしょ! 何とかしなさいよ! それとも本当に無計画だった訳?」
「まあ、手があるにはあるんですけどねぇ……アイちゃん⁉︎」
「ふむ……仕方ない!」
セラに促されて、ユーキの側に行き語りかけるアイバーン。
「ユーキ君! 少し私の話を聞いてほしい……」
「何さ?」
依然、横になって背を向けたまま応えるユーキ。
「確かに今回の武闘大会、出場した所でユーキ君には何の利点も無いかもしれない。負けたらその相手と結婚しなければならないというのは、あんまりだからな……だから、ユーキ君にだけ特別に報酬を用意した!」
「報酬?」
「トゥマールに到着してから準備するつもりだったので、伝えるのは控えていたのだが……今回の大会、本戦トーナメントでユーキ君が1つ勝つ度に、好きなゲーム機とソフトを一式進呈しようと思う!」
それを聞いて、ピクリと反応するユーキ。
「本戦のトーナメントは8人制だから、最後まで勝ち残れば1人3戦する事になる。つまり、最大で3台のゲーム機を手にする事が可能となる!」
「3台……」
体を起こして振り返るユーキ。
「しかもだ! 3戦目、つまり見事優勝を決めた時に贈られる3台目のゲーム機は、つい先日発売されたばかりの、ニテンドー社の最新鋭機を特別に取り寄せて進呈しよう‼︎」
「ニテンドー社の最新鋭機って……まさか⁉︎」
完全にアイバーンと正対して座るユーキ。
「今はまだ現物は無いが、こんな事もあろうかと、先日トゥマールに戻った時にパンフレットを持って来ている……これだ‼︎」
「おおおおお‼︎ や、やっぱり‼︎ 向こうで発売される前にこっちの世界に来ちゃったから、手に入れる事が出来なかったけど!」
(いや、仕事をクビになっちゃったから、どの道諦めてたんだけども……)
アイバーンより受け取ったパンフレットをじっと見つめるユーキ。
(ハッ! そうだ! 今までのパターンからして、また変な名前なんじゃ?)
そこに写っていた、ニン◯ンドースイッチにとてもよく似たゲーム機の名称は、ニテンドーウィッチだった。
「うん! そんな気がしたー‼︎」
何となく予想していた名称が的中したユーキ。
「どうかな? ユーキ君……これなら、君にも出場する利点はあると思うのだが?」
完全にヤル気に溢れた表情になったユーキ。
「うん! 僕、武闘大会に出場する‼︎」
「そうか! ありがとう!」
「やったあああ‼︎」
馬車の隅っこで、小さく歓喜の声を上げるパティ達。
「フッ……やっぱりチョロい娘だわ……」
「でも、そのお陰で助かりました」
「ねえ! 僕、武闘大会に出るって決めたんだからさ! ここから出してよ⁉︎ それと、これも外して!」
腕の拘束具をアイバーンに見せて訴えるユーキ。
「あ、ああそうだな……出場すると決めたのなら、もうそれは必要無いな⁉︎ 不自由な思いをさせて済まなかった!」
檻から出され、ようやく自由の身になったユーキ。
しかし、全ての拘束具が外された瞬間、ニヤリと笑うユーキ。
「ハッ⁉︎ ロロちゃん、押さえて‼︎」
「ハイなのです!」
「え⁉︎」
セラに言われて、ロロが瞬時にユーキに飛びかかると、それに続くように飛びかかるパティ達。
「ムギュ‼︎ な、何だよいきなり⁉︎」
「ユーキ、今逃げようとしたでしょ⁉︎」
「ええ⁉︎ し、してないよ‼︎ 武闘大会に出場するって言っただろー⁉︎」
「じゃあ何で今笑ったんですかぁ?」
「いや、ただゲーム機を大量にゲット出来るかもって思ったら、ニヤケて来ただけだよー‼︎」
「あ、あははは〜! そ、そうだったんですかぁ? ごめんなさいねぇ」
「早くどいて! 重い〜‼︎」
「ああ、ごめんなさいユーキ」
ユーキの上から離れて行くパティ達。
「まったく……とんだ濡れ衣だよ! 出場するって決めたんだから、逃げないよ……」
「疑り深い性格なもんでぇ、ごめんなさいねぇ。てっきりユウちゃんがぁ、自分は簡単に物で釣れるチョロい娘だと思われてるからぁ、それを逆手にとって釣られたフリをして上手く逃げてやろう、とか考えてたのかと思っちゃいましたぁ」
「いやいや、セラじゃあるまいし、僕がそんなに計算高いわけ無いだろー⁉︎」
「それもそうですね〜! んふふふ〜!」
「あはははは〜!」
(クソッ! 全部読まれてた!)
セラに全て見透かされていたユーキであった。
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