第25話 飛ばねぇ猫はただの猫ニャ

 何とかバーダを倒したネムであったが、ロロとの魔装を解いた状態で獣魔装をした事で体に多大な負荷がかかり、動けなくなってしまった。

 その為、ロロに背負われて一旦リーゼル城に帰還する事にしたネム。


「い、痛い! ロロ! も、もっと静かに運んで!」

「ガマンするのです! ロロは空を飛べないから走って行くしかないのです! リーゼル城に戻れば治癒魔法をかけてもらえるのです!」

「わ、分かってるけど……し、振動が……」



パラス軍の総大将バーダを倒したものの、現在パラス軍の指揮はバーダより全権を委任されたティーグが行っている為、依然進軍は止まらず。

 更にネムがバーダとの戦いに集中していた為召喚獣の動きが止まり、その隙にパラス船団がノーヴェ大陸に到着する。

 結果的にバーダは、召喚獣を何とかするという目的だけは達した事になる。


 これにより、パラス軍2万6千の兵がほぼ上陸を果たす事になる……ただ一点、空からの侵入を試みた一団を除いては。



「な、何なんだあの女⁉︎ これだけの数が居て、何で女のガキ1人倒せないんだ‼︎」


 空を守るパティが、未だただ1人の侵入も許していなかった。

 しかし、次々に現れるパラス兵に、徐々に焦りの色が見え始めるパティ。


「もおーっ‼︎ 何なのよ、次から次に湧いてきて! 温泉かっ⁉︎ てのよ‼︎」


 ふと海岸線を見たパティが、かなりの船団が到着している事に気付く。


(かなりの船が着いてる⁉︎ そうか……ネムがあいつとの戦いに集中してるから、召喚獣の操作が甘くなってるのね⁉︎)

「ならば! 例え到着しても、ここからは帰さないわよ! ヴォルカニックボム‼︎」


 無数の巨大な火炎弾が、海岸に停泊しているパラス船団に降り注ぐ。


「な、何だ⁉︎ 空から燃える岩が降ってくるぞー⁉︎」

「危ない‼︎ 早く船から降りろー‼︎」

「うわっ‼︎ 船に火が燃え移ったぁ‼︎」

「は、早く消せー‼︎」

「無理だ‼︎ 船に居たら俺達がやられる‼︎」

「船はいいから早く逃げろー‼︎」


 次々に降ってくる火炎弾に逃げ惑うパラス兵達。


「クソッ! これ以上やらせるな‼︎」

「あのガキを止めろー‼︎」


 空に居るパラス兵がパティを止めようとするが、それをヒョイヒョイとかわしながら、船への攻撃を続けるパティ。


「ふふんだ! そんなノロイ攻撃じゃ当たんないわよ!」

「こ、このガキー‼︎」


「オイッ‼︎ 無理に相手しなくてもいい! 通り抜けさえすればいいんだ‼︎」


 無理に倒そうとはせず、数で圧倒してパティをかわす作戦に出たパラス兵。


「あ、こらっ‼︎ あたしを無視して行くんじゃないわよ‼︎」

「へっ‼︎ ガキの相手なんかしてられるかー‼︎」

「お子ちゃまは帰ってママのオッパイでもしゃぶってな‼︎」

「むっかあああ‼︎」


 パラス兵の挑発に、黒いオーラが噴き出すパティ。


「あたしを……ナメんなー‼︎」


 パティの周りに居たパラス兵達に雷が落ちる。


「ぐわぁ‼︎」

「ひっ‼︎」

「ぎゃっ‼︎」


 一瞬にして黒焦げになったパラス兵達が、人形のように落下して行く。

 

「こ、こいつ‼︎」

「構うなっ‼︎ 抜きさえすれば、俺達の勝ちだ‼︎」


 落とされた兵に構う事なく、ただ通り抜ける事だけに専念するパラス兵達。


「だ・か・らー……あたしを無視すんなあああ‼︎ サンダーストーム‼︎」


 雷をまとった暴風雨が、次々にパラス兵を飲み込んで行く。


「うわあああ‼︎」

「がっ‼︎」

「た、助け……」

「ぐわああ‼︎」



 そんなパティの戦いぶりを、沖合に居る船の上で感じ取っている1人の男。


「へえ……俺好みの良いオーラ出す奴が居るじゃねえか⁉︎ どんな奴かちょっと見てみるか……」


 そう言うと、フワリと宙に浮き、凄まじい加速で飛び去って行く男。



「こ、このままでは被害が大き過ぎます‼︎」

「くっ……か、構うな‼︎ 戦えばより被害が大きくなるだけだ! とにかくかわせー‼︎」

「このお……まだ無視するかあああ……」


 怒りに震えながら、更に攻撃を加えようとするパティの前に、先程の男が一瞬にして現れる。


「よお! お前か? さっきのドス黒いオーラ出してた奴は⁉︎」

(な⁉︎ こいつ、いつの間に?)


 只ならぬ男の気配に、警戒を強めるパティ。


「カ、カオス様⁉︎」

「な、何故カオス様がこちらに⁉︎」

「パラス城におられる筈では……」


「いやー、ただ待ってんのも退屈だったんでよー! 俺を楽しませてくれる奴が居ないか見に来たんだよ! ちょうど到着したら俺好みのオーラ出す奴を見つけたんでな! すっ飛んで来たぜ!」


「あんた……カオスってまさか……パラスの国王⁉︎」

「ああ、そうだぜ!」

「フフッ、そう……まさかこんなとこでパラスの親玉に会えるなんてね! あんたを倒せばこの戦い、即終了じゃないの‼︎」

「まあそうなるな……倒せれば、の話だけどな」


「カオス様‼︎」

「俺はこいつと遊んでるからよ! てめえらはとっととリーゼルの城に行って、マナをとっ捕まえて来い!」


 カオスの言葉にピクリとなるパティ。


「ハイ‼︎ カオス様、お気を付けて‼︎」

「誰に言ってんだバカヤロー」


「あんた……今、何て言ったの……?」

「ああん⁉︎ どれの事だ? ああ! 遊ぶって言ったのが気にさわったか?」

「そうじゃないわよ‼︎ あんた今……マナがどうのって言ったわよね……?」

「ああ、言ったな! 今回のリーゼル侵攻の目的は、マナだからな!」

「何ですってえええ‼︎」


 更に凄まじいオーラを出すパティ。


「ほお……こいつは中々楽しめそうだ……」




 その頃、とある空を飛行している猫師匠。


(マズイニャ……ついにあの2人が出会ってしまったニャ……急がないとパティが危ないニャ……)


「ところで……何でオルドが付いて来てるニャ⁉︎」


 後方を飛んでいる男性を見る猫師匠。


「シャル様を野放しにしておくと、いつ帰って来るか分かりませんので!」

「あたしは子供かっ‼︎」

「いいえ! 悪知恵が働く分、子供よりタチが悪いです!」

「子供以下かニャッ⁉︎」


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