第24話 いくつに見える?

 未だ激しい戦いを繰り広げている、ネムとバーダ。


「ウォーターランス‼︎」


 バーダが水で固めた槍を放つが、片腕で弾き飛ばすネム。

 槍を弾いて開いた両腕の指先に、水の刃を作り出す。


「ドラゴンファング‼︎」


 その両腕を、まるで龍が獲物に噛み付くように閉じるネム。


「ウォーターボール‼︎」


 自分を取り囲むように巨大な水の球を作り出し、水の牙を弾く、というよりは取り込むバーダ。


「あなたの魔力、お返しします! ヴェイパーエクスプロージョン‼︎」


 取り込んだ水の魔力をも利用して、巨大な水蒸気爆発を引き起こすバーダ。


「ぐっ‼︎」


 龍の翼を前面に展開して、何とか防御するネム。


「はあ……この技を持ってしてもダメージを与えられませんか……同じ水属性とはいえまったく、厄介な娘ですねぇ」


 閉じていた翼を広げて、ニヤリと笑うネム。


「その技、いいね……」


 そう言って、水を球体に固め始めるネム。


「何です? ま、まさか⁉︎」

「えっと⁉︎ 何とかエクスプロージョン‼︎」


 先程バーダがやって見せた技を、そのまま再現して見せるネム。


「ぐうっ‼︎」


 水の壁を作り、かろうじて防御するバーダ。


「こ、この技は私が考えたオリジナル技……まさか、一度見ただけで再現したというのですか⁉︎ まさしく天才、ですねぇ……」


(う〜ん……やっぱ水の魔法じゃ通用しないか〜。でも違う子を召喚してるヒマなんて無いだろうしな〜? うん、それなら!)


「考えはまとまりましたか?」

「うんっ! いっくよー‼︎」


 左腕を前に突き出し、拳を握った右腕を、まるで弓を引くように後ろに引き構えるネム。


「何ですか? また衝撃波でも撃つつもりですか?」


 握った右拳の前に巨大な水の塊が出来ると、狙いを空に向けてパッと右拳を開くネム。


「サウザンドアロー‼︎」


 千の水の矢が空に向かって飛んで行く。


「中々興味深い技ですが、どこを狙ってるんです⁉︎」


 ある程度まで飛び上がった水の矢が勢いを失い、バーダめがけて落下して行く。


「ウォータールーフ‼︎」


 頭上に水の幕を張り、水の矢を防ぐバーダ。


「矢の雨、という訳ですか⁉︎ しかし、ひとつひとつがこの威力では意味が無……」


 バーダが上を向いた時、一瞬にして間合いを詰めたネムが、バーダの腹にボディブローを放つ。


「なんっ⁉︎ ぐふうっ‼︎」


 加速した勢いもモロに受け、吹っ飛ぶバーダ。


「よしっ! やっと入った! パティ姉様直伝の悶絶ボディブローよ! 効いたでしょ⁉︎」


 腹を押さえ、苦悶の表情を浮かべながら、何とか体を起こすバーダ。


「バ、バカな⁉︎ ぐっ! な、何なんですか……い、今の速さとこの威力は? ……ハッ⁉︎ そ、そうか……獣魔装というのは、様々な属性の魔法をつ、使える事が利点だと思っていましたが……こ、この驚異的な身体能力を手に入れる事こそがさ、最大の特徴、という訳ですか……」


「どう⁉︎ 降参する? 参ったすれば命は助けてあげるよ?」

「私はあなたの両親や国民を皆殺しにしたんですよ? 殺さなくていいんですか?」


「そりゃあホントは殺したいくらいに憎かったけど……何か、思いっきり殴ったらスッキリしちゃった‼︎ だから殺さないでいてあげる! それに、人を殺しちゃったらユーキ姉様が悲しむもん!」


「フフ、マナ王女といいあなたといい、それ程の強さを持ちながら……その甘さはいつか己の身を滅ぼしますよ!」

「ユーキ姉様もネムも強いから、負けないもんっ‼︎」


「ネム様! 後は我々にお任せを‼︎」


 離れた場所で戦いを見ていたリーゼル兵が、バーダを捕縛しようと近寄って来る。


「うん、任せるね!」

「ハイ! さあ立て‼︎ 貴様を拘束する‼︎」


 バーダの両脇を抱えて立たせようとするリーゼル兵。


「シェーレの王族であるクラインヴァルト家はとても強かった……」

「黙れ‼︎ 無駄口を叩くな‼︎」

「特に国王と王妃の2人は、幾万の兵を持ってしても倒せない程の、凄い召喚士でした……」

「黙れと言っている‼︎」

「私もその2人にはまったく歯が立ちませんでした……」


「? 何を、言ってるの?」

「では、何故倒す事が出来たのか……」

「貴様‼︎ いい加減に‼︎ ぐわぁ‼︎」


 剣の柄でバーダを殴ろうとしたリーゼル兵の1人を水の刃が切り裂き、もう1人の兵を盾にするバーダ。


「こうやったんですよ! 当時まだ幼かったあなたを人質に取ってねぇ‼︎」

「くっ!」


「さあ! 抵抗しないでもらいましょうか‼︎ さもなくば、この兵士を殺しますよ⁉︎」

「ぐうっ! ネム様! これは私の失態です! ですから私に構わず攻撃してください‼︎」

「あなたは黙っていなさい!」

「うぐぅ‼︎」


 人質に取った兵士を、水の刃で切り刻むバーダ。


「今のは手加減しています! ですが、これ以上抵抗すると、命の保証は出来ませんがね!」

「くっ!」


「なあに、心配せずともあなたを殺しはしませんよ⁉︎ あなたはカオス様のお気に入りですからね……ただこの戦いが終わるまで、何もせずに大人しく見ていてくれればいいんですよ!」

「ネム様ー‼︎ 私の事は気にせず戦ってください! ネム様ー‼︎」


 しばらく考えていたネムが意を決して。


「分かったわ……何もしないから、その人を離してあげて……」


「ネム様……」

「フフ、いいでしょう! ですが、私が無事に逃げ切れるまで、彼にはもう少し付き合ってもらいますがね!」


「くそっ! 我々が不甲斐ないばかりに……」


「さあ、道を開けなさい‼︎」


 リーゼル兵を盾にしたまま逃げようとするバーダ。

 人質に取られたリーゼル兵がネムを見つめ。


「私なんかの為に、ありがとうございますネム様……必ずこいつを倒して、どうかマナ様の力になってあげてください……」

「人質が何を?」

「おさらばっ‼︎」


 隠し持っていた短剣で自害しようとするリーゼル兵。

「こ、こいつ‼︎」


 人質を失う事を避ける為、必死に阻止しようとするバーダ。


「ねえ‼︎ 私、いくつに見える⁉︎」


 突然のネムの問い掛けに、動きを止めるリーゼル兵とバーダ。


「こ、こんな時に何を言って……え? 何だか幼くなったような……?」


 瞬間、背後から手刀でバーダの両腕を叩き折るロロ。


「ぐわああああっ‼︎」


 その隙に人質を逃がすロロ。


「あ、ありがとうございます! ロロ様‼︎」

「様なんて付けられると照れちゃうのです!」


「な、何ですかあなたは? い、いったいどこから現れて……ハッ⁉︎ その異常な身体能力……ま、まさかあなたも召喚獣? そして見た目が幼くなったネム王女……も、もしかして獣魔装とやらの下に、始めからあなたを魔装して……」


「正解なのです‼︎」


 ネムの居る方向に向けて、上空にバーダを投げ飛ばすロロ。


「ぬわああ‼︎」

「シェーレ侵攻の時やリーゼルの街で会った時にちゃんとネムを見てたら、最初から気付けたのにね!」


 タイミングを合わせて飛び上がるネム。


「ま、待って‼︎ 許してーっ‼︎」

「2度目は許さない‼︎ ドラゴンハンマー‼︎」


 両腕を組んで、思いっきりバーダに振り下ろすネム。


「がはああああっ‼︎」


 凄まじい勢いで地面に叩きつけられるバーダ。

 クルリと一回転して地面に降り立つネム、そしてリーゼル兵から歓声が沸き起こる。


「うおおおお‼︎ やったあああ‼︎」

「ネム様ー‼︎ ロロ様ー‼︎」

「おおおおおお‼︎」


 陥没した地面の中央で、完全に気絶しているバーダを見て、涙をこぼすネム。


「うっ! うっ! ひっく!」

「ネム……やっと……やっと父上と母上、シェーレのみんなの仇がとれたのです……思いっきり泣いたらいいのです」


 優しい顔でネムを見つめるロロ。



「うっ! うっ! ……体痛い……」

「いや、それで泣いてたんか〜いっ‼︎」


 思わず、髭○爵風のツッコミを入れるロロ。



「ロロを挟まないで動いたからなのです! 早く獣魔装を解くのです‼︎」

「痛いいいい‼︎ 今、触んないでえええ‼︎」




 ーー ネムVSバーダ ーー

 ネム&ロロの勝利。



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