第23話 傷口にツバを付けるのは、あながち間違いでは無いらしい

「この程度で私を倒したと思われるのは、心外ですねぇ」


 バーダを押し潰した岩の周りに魔方陣が現れ、そこへ黒いオーラが集まって行く。

 集まったオーラが岩を粉々に吹き飛ばすと、その後に魔道士タイプの魔装具をまとったバーダが現れる。


「さあ! ここからが本番……あ、あれ?」


 派手に現れたバーダだったが、ネム達はすでに移動を始めていた。


「まっ! 待ちなさーい‼︎」


 その声に立ち止まるパティとネム。


「何だ、生きてたの? 意外としぶといわね」

「私があの程度の事で死ぬ筈が無いでしょう? さあ! ここからが本番ですよ! まったく……同じセリフを2度言わせないでください」


「パティ姉様! 今度こそあいつはネムが倒すわ! だから姉様はパラス兵の侵攻を止めて!」

「ネム! あなたが強いのは分かってるわ……でも、あいつも相当な強さだって分かるわよね⁉︎」

「うん……」


「1人で大丈夫?」

「大丈夫、任せて‼︎」

「そう……ならあなたを信じるわ! 必ず倒しなさい! 死んじゃダメだからね‼︎」

「うん! パティ姉様もね‼︎」

「フフ、生意気言っちゃって! あたしを誰だと思ってるのよ⁉︎ パティさんだぞ! じゃあ、また後でね‼︎」

「姉様、古い……」


 古いギャグを放ちながら飛び去って行くパティさん。


「さあ、来なさい! 梅干し‼︎」

「いやだから、何なんですか? その梅干しというのは……」




 リーゼル城に、再び戦況報告が届く。


「ネム様がパラス軍の総大将と思われる人物と対峙! これによりパラスの船団が召喚獣をかわしつつあります! 」

「そうか……ならば敵の親玉はネムちゃんに任せて、雑魚共は我々が引き受けよう。リーゼル軍! 進撃開始せよ‼︎」

「ハッ‼︎」



 マルス王の号令により、リーゼル軍とパラス軍が激突する。

 そして今度こそ、ネムとバーダの戦いも始まる。


「ハイドロウェイブ‼︎」


 ネムの右腕の龍から放たれた水の波動がバーダに襲いかかる。


「甘いですよ! ハイドロウェイブ‼︎」


 同じ技をぶつけて相殺するバーダ。


「相殺された⁉︎」

「フフ、一応私も水属性ですからね。水の波動に同じ波動をぶつけたんですよ……私に水の魔法は通用しません、どうしますか? 他の魔獣を出して、もう一度先程の獣魔装とやらをやりますか? まあもっとも、そんなヒマはあげませんけどね! ウォーターカッター‼︎」


「くっ! ウォーターウォール‼︎」


 バーダの放った水の刃を、水の壁で防ぐネム。


「フフ、水の魔法が効かないのはお互い様ですか……となると勝敗を決するのは魔力レベルの差、という事になりますが……因みに私はレベル7ですが、あなたは?」

「ネムもレベル7だもん!」


「ハハッ、まったく……その若さでレベル7とは……本当に末恐ろしい娘ですねぇ……」

「ネム、怖くないもん! かわいいだけだもん!」

「自分で言うんじゃありませんっ‼︎」




 ネムとパティの活躍により、現在のパラス軍の兵数は約2万7千。対してリーゼルの兵数は、負傷兵が全員回復したとはいえ約1万。

 未だリーゼル軍圧倒的不利な状況である。



「数では圧倒的に負けてるよ⁉︎ どうするの?」

「マルスのおじ様! お願いしてた物は揃ってますかぁ?」

「あ、ああ! 中々に苦労したが、何とか数は集められたぞ! すでにみなに配り始めている」


「ンフフ〜、それではぁ、忍法変わり身の術といきましょぉ!」

「いや、忍法って……」




 リーゼルの城下町の城壁の近くに隠れて、リーゼル兵の動きを見ているパラス軍の部隊。


「相当数出撃したな⁉︎」

「ハイ! 情報によればリーゼルの兵数は約1万、城内にはもうほとんど兵は残っていないと思われます!」

「よし! では今の内に城内に侵攻するぞ! 改めて確認する! 第一目標はマナ王女の確保! 殺すんじゃない、必ず生け捕りにせよ! 第二目標は玉座の制圧! マナ王女以外の王族は殺しても構わん‼︎」

「ハッ‼︎」


「よし! 進撃開始ー‼︎」

「ウオオオオオ‼︎」


 隠れていたパラスの部隊が、リーゼル城に向かって進軍を始める。

 それをリーゼル城の門兵が確認する。


「城壁の近くにパラス軍が現れましたー‼︎ その数、約1千‼︎」

「来たかっ‼︎」

「やっぱりぃ、兵が居なくなったのを見計らって来ましたねぇ。それじゃあみなさん! よろしくお願いしますねぇ!」

「ハイッ‼︎ お任せくださいセラ様‼︎」


「さあみんな! 今度は思う存分暴れてやろうぜー‼︎」

「オオオオオ‼︎」




 城門をこじ開けようとするパラス軍だったが、城内から続々と現れる兵に驚く。


「な、何だ⁉︎ リーゼル城から大量の兵が⁉︎」

「ぐわぁ‼︎」

「何で⁉︎ 兵はほとんど残ってないんじゃなかったのかよー‼︎」



「隊長‼︎ リーゼル城内から、大量の兵が現れましたー‼︎ 我が方の兵が次々に倒されて行きます‼︎」

「バ、バカな⁉︎ 城に残っている兵はわずかな筈! この数でも充分落とせた筈だ‼︎」


「隊長‼︎ 先程出撃した部隊も戻って来て挟み撃ちにされています! もう持ちこたえられません‼︎」

「ぐううっ! ……て、撤退だー‼︎ 一時撤退しろー‼︎」


 挟み撃ちにあい、ほとんどの兵を失いながらも撤退して行くパラスの部隊。




「上手くいったようだな? セラちゃん!」

「ハイィ! パラス軍もまさかの増援に慌てたでしょうねぇ」

「なるほどね〜! ヴェルン兵にリーゼル軍の鎧を着せてリーゼル兵に見せかけるとはね〜」

「ンフフ〜、軍なんて鎧と旗を変えれば見分けなんてつきませんからねぇ。まあ、私とレノはさすがに顔が割れてる可能性がありますからぁ、出られませんけどねぇ」


 偽装したヴェルン兵1万5千が加わる事により、リーゼル側の兵数は約2万5千! 先程倒された1千の兵を差し引き、約2万6千となったパラス軍の兵数とほぼ拮抗する事になる。


「これで数の差はほとんど無くなった訳だ⁉︎」

「そういう事ですぅ」

(まあ、あくまで数の差は、ですけどねぇ……パラス兵は戦い慣れした集団……方やこちらは、訓練こそすれほとんど戦闘経験の無い軍……この違いは大きいですぅ。はたしてどこまで持ちこたえられるでしょぉ? アイちゃん……急いでくださいねぇ……)


「セラ、どうかしたの?」

「え⁉︎ あいえ……さあ! パラス軍が全員上陸して来る前に、私達は負傷した兵をじゃんじゃん治療しましょう!」

「うん、そだね!」




 パラス軍の数が揃いきる前に迎撃体制を整えるべく、負傷兵の治療を再開するユーキとセラ。


「ゴメンね、僕達も手伝うよ」

「ああ、マナ様ー‼︎ 俺の治療、お願いしますー‼︎」

「あ、うん! ちょっと待ってて‼︎ 今行くから‼︎」

「んん〜⁉︎ その程度のかすり傷なら、ツバ付けとけば治りますぅ!」

「セラ様酷ぇ⁉︎ あ! でもマナ様のツバなら大歓迎です‼︎」

「あ、マナ様のツバなら俺も‼︎」

「ぼ、僕もー‼︎」


「あ、相変わらずの変態共め……」

「マナにツバを付けてもらおうなどと、おこがましいぞ‼︎ 貴様等‼︎」


 引いているユーキと怒るレノ。


「そんなにツバを付けてほしかったら、俺が舐めてやろう‼︎」


 兵の傷を舐めようと迫って行くレノ。


「ぎゃあー! こ、来ないでくださいレノ様ー‼︎」

「男に舐められて喜ぶ趣味は無いんですー‼︎」

「嫌だー‼︎ マナ様がいいー‼︎」



「ヴェルンって変態しか居な……」

「わ、私は違いますからねぇ……あ、でもぉ……ユウちゃんに舐めてもらえるなら悪くは……」


 ジトーッとした目でセラを見るユーキ。


「あ、いや! じょ、冗談ですよぉ‼︎」



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