第26話 ひとみごくう、ひらがなだと何の事だか

 ネムが前線より後退し、またパティがパラスの国王カオスと対峙している事により、パラス兵の進行を許してしまう。

 各地でリーゼル軍対パラス軍の、本格的な戦いが始まる。


「何としても我らがリーゼルを守り抜けー‼︎」

「マナ様をお守りしろー‼︎」

「平和ボケした貴様らリーゼルが、我ら戦闘集団のパラスに勝てると思うなー‼︎」


 重装甲の騎士が前面に出て守りを固めるリーゼル軍。


「魔装兵団前へー‼︎」


 魔装した一団を出し、重装甲の騎士達を倒して行くパラス軍。


「隊長‼︎ 敵の魔装兵団により、前線を突破されつつあります‼︎」

「何っ⁉︎ 我らの魔装兵団はどうした⁉︎ 魔装具には魔装具で対抗しろ‼︎」

「そ、それが……敵の魔装具は全てゴールドランク以上の為、下位ランクの者は歯が立ちません‼︎」

「ぐうっ……これが国力の差というやつか……」


 リーゼル軍も善戦はしているものの、やはりセラが危惧した通り個々の戦闘力の差がある為、徐々に押され始めるリーゼル軍。

 そして現在の戦況が、リーゼル国王達に伝えられる。


「ネム様はバーダとの戦闘により負傷した為、現在リーゼル城に帰還中! セラ様の治療を受けておられます! パティ様はパラス国王カオスと思われる人物と遭遇、現在交戦中の模様! 各地で我がリーゼル軍とパラス軍による激しい戦闘が繰り広げられていますが、徐々に押され始めており、現在前線が後退しつつあります‼︎」


「なにぃ‼︎ カオスだとー⁉︎ カオスが出て来たと言うのか⁉︎」

「カオス? そいつって強いの?」


 ユーキがマルス国王に尋ねる。


「ああ、強いなんてもんじゃない……かつてパラス軍が北方の国に進軍した時、殆どの兵が出払っている隙を突いて、その北方の国と同程度の兵力を持つ隣国がパラス国に侵攻して来たんだが、何とカオス国王は1人で迎撃に向かい、難なくこれを撃退……更にそのまま、攻め込んで来た国に行き、あっという間にその国を滅ぼしてしまったらしい……しかも、軍の本隊が北方の国を攻め落とすよりも早くな……」


「何てムチャクチャな……」


「パラス国の総兵力は、約15万人と言われている……つまりカオス国王の戦闘力は、15万人の兵と同等……あるいはそれ以上、と言う事だ」


「え⁉︎ ちょっと待って‼︎ じゃあ、今パティはそんなとんでもない化物と1人で戦ってるって事なの⁉︎ ダメだよ‼︎ すぐ助けに行かないと‼︎」


 飛び出して行こうとするユーキを、国王が制止する。


「待たんか、マナ! どこへ行くつもりだ‼︎」

「パティを助けに行くに決まってるだろー‼︎」

「ダメだ‼︎ お前を行かせる訳にはいかん‼︎」

「何でだよ⁉︎ 助けに行かないと、パティが死んじゃうだろ‼︎ 僕だって変身すれば充分戦える‼︎」


「戦闘力の問題ではない‼︎ お前をカオスと会わせる訳にはいかんのだ‼︎」

「あなた‼︎」

「あ、ああ……すまん、つい……」

「え⁉︎ それってどういう事だよ⁉︎」


「カオスの目的がマナ王女だからですよ」

「セラ⁉︎」


 ネムの治療を終えたセラが、ネム、ロロ、レノと共に玉座の間に入ってくる。


「あっ、ネム! 良かった! 無事だね⁉︎」

「うん、大丈夫……別に戦闘でケガした訳じゃないから……」

「ただの筋肉痛なのです!」

「それちょっと違う……」


「でも、敵のリーダー格を倒したんだよね⁉︎ やっぱりネムは強いなぁ!」

「もう、ユーキ姉様……そんなに褒められるとホレちゃうわ……」

「いや、そこは照れちゃう、だろ⁉︎」

「マスターユーキにホレてるのは、初めからなのです!」


 ネムを気遣っていたユーキが、肝心な事を思い出す。


「ああそうだ、忘れてた! セラ! そのカオスって奴の目的が僕ってどういう事さ?」

「みんなで内緒にしていたんですけどぉ……」


 言いづらそうなセラに代わり、レノが説明する。


「実は今回のリーゼル襲撃の前にパラスからの使者がやって来て、無条件でマナを差し出せば、リーゼルへの侵攻はしないと言ってきたんだ」

「前に街で会った梅干しだよ……」

「梅干し?」

「見るからに胡散臭かった、あの男なのです!」

「ああ、あいつかー!」


「だが当然マルス国王はそれを拒否して、パラスと戦う事を選ばれた……」

「もしその事をマナが知ったら、マナな事だ! 自分1人の命で国を守れるのなら等と言いかねないからな! だからこの事はマナには黙っていてくれるよう、私がみなに頼んだのだ!」


「実際にマナちゃんはぁ、国を守る為にこんなド変態と結婚しようとしましたからねぇ」

「誰がド変態だ! ドMのド変態だ‼︎」


「そうか……だからみんなして僕を戦わせないようにしてたのか……でも、何でそのカオスって奴は僕を差し出せなんて?」

「理由までは分からないんですぅ」


「ふんっ! 大方マナがかわいらし過ぎて欲しくなったんだろう! 私だって娘でなければ結婚したいぐらいだ!」

「あ〜な〜た〜!」

「あ、いや! レ、レナよ! も、勿論冗談だぞ⁉︎」

「マナちゃんと結婚するのは私なんですからね‼︎」

「いやそっちかいっ‼︎」

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