第17話 時には本音でぶつかってみよう!

 セラが挑発に乗って来ないと分かり、スッと構えを解くパティ。


「……⁉︎」

「セラ! 確かにあんたの治癒魔法は凄いわ……でも治癒魔法だけじゃユーキは守れない!」


 それを聞いて表情が険しくなるセラ。


「ヒーラーでレベル7まで登りつめるなんて中々出来る事じゃない……凄い才能だと思う。だけどそれだけの才能がありながら、何で攻撃魔法を習得しようとしなかったの?」


 パティの言葉に、少し語気を強めて話すセラ。


「パティちゃんは知らないでしょうけど、かつてのマナちゃんは城の精鋭が束になってかかっても敵わないぐらいの強さを持っていました! だから私は治癒魔法を極める事で、マナちゃんを助けたいと思ったんです!」


「でもマナは人を傷付ける事が嫌いだったんでしょ? なら何であなたが代わりに戦ってあげようとは考えなかったの? あなたもしかして……心のどこかでマナに嫉妬してたんじゃないの?」


「あ、あなたに……私の何が分かるんですか?」

「分かんないわよ! そんな負け犬の考えなんて……そんな負け犬を相手にするのに魔法なんかいらないわ! ハンデとして素手で相手してあげるから、かかって来なさい‼︎」

「あなたに! 何が分かるんですかぁ‼︎」


 怒りの感情を露わにしてパティに殴りかかって行くセラ。

 怒りに任せて攻撃を繰り返すセラだったが、それを冷静に受け流すパティ。


「私とマナちゃんは同い年なのに、初めて出会った時には既にマナちゃんの方が3つもレベルが上だった! でも私の方が少しだけ生まれ月が早いからって、私の事をお姉ちゃんって呼んで慕ってくれた! 私だって負けてられないと思っていっぱい修行したけど、元々の才能の違いはそう簡単には埋められなかった! いやむしろ、どんどん差は開いて行くばかりだった! そんな時、私が拾って来た小鳥が病気で死んだのをキッカケに、私はヒーラーになる事を決意した!」


「その辺の事はレノから聞いたわ!」


「上辺では2度とマナちゃんを悲しませないようになんて言ってたけど、本当はマナちゃんと競う事から逃げたんですよ! だからマナちゃんと違う道を極める事で、マナちゃんに頼られたかった! マナちゃんに必要とされたかった!」


 セラのパンチがパティの顔面を捉えたと思われた瞬間、パティの姿がフゥッと消滅する。


「幻術⁉︎」


「ハア……あなた、あたしよりもユーキとの付き合いはうんと長いくせに、全然ユーキの事分かってないのね?」


 少し離れた場所に姿を現わすパティ。


「な、何を……何が分かってないって言うんですか‼︎」

「ユーキが損得勘定であたし達と付き合ってると思うの?」

「⁉︎」


 ハッとなるセラ。


「今のパーティーメンバーが偶々チート能力者揃いってだけで、仮にあたし達がレベル1や2で弱っちかったとしても、ユーキは同じ様に接してくれると思うわよ?」

「そ、それは……確かに……」


「ただまあ、今はおっさんの記憶に支配されてるみたいだから、自分の欲望に正直に突っ走る事もあるけど、人を傷付ける事を嫌ったり、自分を殺そうとした相手を助けようとしたり……そういう根本的な優しさ、みたいな物は変わってないんじゃないの?」


「そう、ですね……そうでした……マナちゃんはそういう娘でした。……私はバカですね……何でそんな当たり前の事で悩んでたんでしょうか……」

「あんたって普段は冷静で計算高いくせに、ひとたびユーキの事になると、こうも取り乱すのね?」


「それはパティちゃんも同じでしょ?」

「フフッ! そうね。お互い修行不足だわね」

「フフフッ!」

「フフフフッ!……スキあり!」

「え⁉︎」


 ふと空気が緩んでセラの緊張が解けた一瞬に、無数の残像を作り出すパティ。


「幻術っ⁉︎ まったく……魔法は使わないなんて言っておきながら、どっちが嘘つきなんだか……ねっ!」


 自分の周りに羽を撃ち込み、魔法無効化の結界を張るセラ。


「さあ、これでもう近付く事は出来ませんよ? 結界内に入って消滅しないのが本体という事ですから!」


 すぐに迎撃出来るように構えるセラだったが、まったく結界内に入って来ないパティの幻影達。


(……? おかしい……どうして何も仕掛けて来ないんですか? ……ハッ! まさかすでに⁉︎)


 セラが何かに気付いた瞬間、背後からセラにチョークスリーパーをかけるパティ。


「うっ!」


 瞬間的に頚動脈を絞められて気絶するセラ。


「ユーキの母親のレナさん直伝の絞め技よ! 一瞬で落としてしまえば、治癒魔法もくそもないでしょ?」


 気絶したセラを抱えて、リーゼル城に向かって飛んで行くパティ。


「フゥッ! まずは一つクリアね」




 パティに絞め落とされて、夢を見ているセラ。


「許嫁?」

「ええ、将来マナとレノが結婚する事で、リーゼルとヴェルンは戦争しなくても済むようになるの……」

「そうなんだ〜、う〜ん……」

「いきなりこんな事言われても困るよね?」



(これは……昔の、夢……?)



「え⁉︎ ああ、違うの! 勿論リーゼルとヴェルンが戦争しなくて済むなら、私は全然構わないの! でも……どうせ結婚するなら私、セラお姉ちゃんの方がいいなーなんて……」

「マナ……残念だけど、女同士では結婚出来ないのよ……もっともフィルス大陸では、同性同士の結婚も認められてるらしいけどね」


「あっ‼︎ じゃあ私が……いや、僕が旦那さんになって、セラお姉ちゃんをお嫁さんにもらってあげるよ‼︎」

「僕ってなあに⁉︎ マナちゃん、そんなにかわいいのに、似合わないわよ?」


「セラの方がかわいいさ! これからは僕がもっと強くなって、セラの事もリーゼルもヴェルンもみんな守ってあげるからね!」

「フフッ! 何よその喋り方? アハハハハハ‼︎」

「もうっ! 僕は真面目に言ってるんだから、笑わないでよ〜!」


(そういえば、この時からマナちゃんは自分の事を僕って言うようになったんでしたね……)


「ンフフ〜、じゃあマナちゃんが大きくなったらぁ、私達を守ってくださいねぇ」

「何だよ〜! セラまで変な喋り方して〜!」

「あらぁ? 私までって言う事はぁ、自分でも変な喋り方だと思ってるって事ですよねぇ?」

「んもうっ! セラお姉ちゃんのイジワル〜!」

「フフフフ!」



(マナちゃん……マナちゃんは私が必ず守り抜いてみせる! 例えこの命に変えても……)





「……ラ! だい……うぶ? ……セラ!」

「う……マナ、ちゃん?」


 リーゼル城の救護室で目を覚ますセラ。


「ああ良かった! 中々起きないから心配しちゃったよ!」

「ここ、は……」

「リーゼル城だよ! パティが連れて来てくれたんだ」

「そう、ですか……それで、その脳細胞筋肉変換女はどうしましたかぁ?」

「ここに居るわよ!」


 セラの背後から声をかけるパティ。


「あんた、あたしがここに居る事分かってて、わざと言ってるでしょ?」

「ンフフ〜、バレましたぁ?」


「まったく! 初めからあたしが勝つ筋書きだってのに、妙に抵抗するから力入れ過ぎちゃったじゃないの⁉︎」

「もう少しで絞め殺す所だったのです!」


「仕方ないんですぅ、本気で戦って見せないとパラスの目を欺けないんですぅ。どこに内通者が潜んで居るかも分かりませんからねぇ」


「まあ、それはそうなんだけど……でもまあ、そのお陰で普段は見せないセラの本音が聞けたから良しとするわ」

「本音? いやですね〜、あんなの演技に決まってるじゃないですかぁ」


「演技ね〜……この深意秘匿型狂言師!」

「ああ〜‼︎ 私のお気に入りのパターン、取らないでくださいよぉ‼︎」



「え、何? 何の話⁉︎」

「秘密の暗号なのです!」



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