第18話 着ぐるみ幼女VSドM変態

 セラの率いる部隊とは別の場所で進軍していたレノの元に、セラが敗北したという知らせが届く。


「そうか、セラが敗れたか……では俺も行くとするか……」


 進軍するレノの前に、ガーゴイルに乗ったネムが現れる。


「ガーゴイル⁉︎」

「背中に誰か乗ってるぞー‼︎」


 レノの前に降り立つネム。


「君は確か……ネム、だったか?」

「そう……あなたの相手はネムがする……」

「何とっ⁉︎ 君のようないたいけな少女が俺の相手とは⁉︎」

「不満?」

「いいや、むしろ大歓迎だ‼︎ こんな幼い少女になじられ、虐げられる姿を想像しただけで心が踊る‼︎」

「……何かヤダ……セラ姉様の方が良かった……」

「オオゥ! 早速の言葉責め、感謝する‼︎」



(……帰ろうかな……)


 物凄くイヤそうな顔のネム。



「レノ様‼︎」

「皆は先に行ってくれ! 彼女の相手は俺がする!」

「ハッ! お気を付けて‼︎」


 ネムの横を通り過ぎて行くヴェルン兵。

 ネムは手を出さずに、兵達が通り過ぎるのを待っている。



「皆行ったようだな……さあっ! ドンと来い‼︎」

「ガーゴイル‼︎」


 魔装もせずに両手を広げて叫ぶレノにガーゴイルの一撃が炸裂し、吹っ飛ばされるレノ。


「ぐぅはあぁぁぁぁっ‼︎」

「あ、ゴメン……来いって言うからつい……まだ魔装してなかったね……」


 吹っ飛ばされて、ピクリとも動かないレノ。


「ヤバ……もしかして、死んじゃった?」





 その頃、リーゼル城に居るパティがレノの事について色々聞いていた。


「ねえセラ!」

「何ですかぁ? パティちゃん。ご飯ですかぁ?」

「違うわよっ‼︎」


「今、ネムが相手してると思うんだけど、あんたの兄さんのレノってどうなの?」

「ドMの変態ですけどぉ?」

「いや、それは分かってるから! 強さ的にどうなのかって聞いてるのよ!」


「レノのレベルは5……ネムちゃんはレベル7でしたねぇ? まあ戦闘力だけならネムちゃんの圧勝でしょぉ」

「そうなの? ならすぐに片がつくわね」


「でも、レノの真価は攻撃力では無く、いかなる攻撃にも耐え凌ぐ、その防御力にこそあるんですぅ」

「防御力……」

「私が治癒魔法を極めてマナちゃんを助けたいと思ったのと同じようにぃ、レノは防御を極めてマナちゃんを守りたいと考えたんですぅ」


「上級召喚獣の攻撃にも耐えるっていうの?」

「極めるとはそういう事ですぅ、でも今回はぁ、わざと自然にさりげなぁく倒される事が目的ですからぁ、レノも本気で耐える事はしないと思いますぅ……思いますけどぉ……」

「けど、何?」


「さっきも言った通り、レノは攻撃を受ける事に喜びを感じるド変態ですからぁ、本来の目的を忘れなければいいんですがぁ……」


 そんなセラの発言を聞いて、ユーキが考え込む。


(え? て事は何? いくら国を守る為とはいえ、僕はそんなド変態と結婚しようとしてたって事か〜⁉︎ だ、大丈夫か? 僕……)


 かつての自分の感性を疑うユーキであった。 




 ガーゴイルに吹っ飛ばされたレノが、何事も無かったように起き上がって来る。


「え⁉︎ ガーゴイルの一撃を受けて無傷? 魔装もしてないのに?」


 平然としているレノに驚くネム。


「うむ、中々の攻撃だ! だが、できれば召喚獣の攻撃では無く、直接君の攻撃を受けたい物だよ!」

「無傷だなんて……ちょっと自信無くしちゃうな……」


「さあ! どんどん来い‼︎」

「ならっ! ガーゴイル‼︎」

「グオオオオオ‼︎」


 ガーゴイルの激しい連打がレノに襲いかかる。


「ぐふっ! ぐおっ! ぬあっ! ぶうっ! ぶはぁっ! ぐぬっ! ぐはあぁぁぁ‼︎」


 無抵抗のまま全ての攻撃を受け、再び豪快に吹っ飛ぶレノ。


「な、何で防御しないの? ホントに死ぬよ?」


 呆れているネム。





「大丈夫かなぁ、ネム……」

「心配無いでしょ? あの娘の強さは、この前見て分かってるんだから」

「いいえなのです」


 楽観視するパティに反論するロロ。


「いくら強いとは言っても、ネムの体は普通の10歳の女の子と変わらないのです! もし攻撃を受けたら、ひとたまりも無いのです!」


「え⁉︎ で、でもいざとなったら獣魔装があるってネムが……」

「獣魔装は、ネムの幼い体では耐えられないのです! だからロロと合体して、肉体を強化してからじゃないと出来ないのです!」


「え⁉︎ じ、じゃあネム、僕を心配させないように嘘を……あれ⁉︎ ちょっと待って! じゃあ、キスパーは? あのキスパーっていうのも召喚獣なんでしょ? あの時、キスパーの中から出て来たネムはロロと合体してなかったよ?」


「キスパーの場合は、ただ中に入ってただけなのです! だから体への負担は無いのです!」

「え、と……どういう事?」


「つまり……鎧と着ぐるみの違いって事ね?」

「そういう事なのです!」

「う〜ん……分かったような分からないような……」





 再び、何事も無かったように起き上がって来るレノ。


「ふう、いかんいかん……倒されなければいけないというのに、欲望に負けてつい耐えてしまった……」

「ホント、自信無くしちゃうわ……」


「召喚獣では無く、直接君からの攻撃を受ければ倒れると思うんだがなぁ⁉︎」

「むうう〜……分かった……じゃあネムが直接ぶっ飛ばしてあげる……」

「そうか! よし来い! 全て受け止めて潔く負けるぞーっ‼︎」


 とても嬉しそうなレノと、とてもイヤそうなネム。


「魔装するとこ見られるの恥ずかしいから、目、つぶってて……」

「おふぅ! そ、そうか⁉︎ 分かった……結構恥ずかしがり屋さんなのだな?」


 ネムに言われた通りに目をつぶって待っているレノ。

 魔方陣の放つ光がレノの顔を照らす。


「も、もういいかい?」

「まだ……」


「もういいんじゃないかな?」

「まだダメ……」


「もういいだろう?」

「もういいでフ〜‼︎」


「そうかっ‼︎ ん? でフ?」


 聞きなれない声にレノが目を開けると、正面から全身汗まみれになったキスパーが走って来る。


「な、何だ貴様はあああああっ‼︎」

「愛の! フライング・ダイナマイトボディ・プレス〜‼︎」

「肉団子が飛んだあああっ‼︎」


 突然の光景に怯んだレノめがけて飛び上がり、必殺のボディプレスを炸裂させるキスパー。


「グフウゥゥゥゥ‼︎ こ、こんな……負け方……イ、イヤ……だ……ガクッ……」


「ぶフゥ! 勝ったでフ! 一応初勝利でフ!」


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