第10話 膝枕、上半身なら抱き枕

 パティがグレールを飛び立ったその翌日、城の中庭でロロと近接格闘の稽古をしているユーキ。


「フゥッ! ストレングスの5倍がけで漸く互角ってとこかー⁉︎ やっぱ元々のパワーが凄いんだねー!」

「これでもロロは召喚獣の端くれなのです! 魔法が使えない分、力で圧倒するのです!」


「ロロが本気を出せば、まだまだこんな物じゃないよ……姉様」

「まだ強くなるんだ⁉︎ 凄いね」

「全身凶器ロロなのです!」



 稽古を終え、座り込んで話す3人。



「でも不思議だよな〜、召喚獣って言ってもちゃんと意思があるし、普通に会話もできる。あっ! じゃあ僕もロロみたいな娘、召喚できるのかな?」

「ん〜、実はネムも何度かやった事あるの……でも、形は人間でもロロみたいに自我があって、喋れる様な子は生まれなかったの……」


「ああそっか……ロロを召喚したのって、ネムじゃ無かったんだっけか?」

「うん、ロロを召喚したのはネムの母様なの……」

「偉大な召喚士だったのです」


「だった?」

「ネムの国はパラス軍に滅ぼされちゃったの……生き残ったのはおそらく、ネムとロロだけ……」

「そうだったのか……だから2人で旅をして……」

「あてのない旅なのです」


 寂しそうな表情のネムとロロをそっと抱きしめるユーキ。


「姉、様⁉︎」

「2人共、行くとこが無いならずっとここに居ていいからね……」

「ずっと……居てもいいの?」

「うん……居てもいいよ……」

「ロロは召喚獣なのです、普通の人間とは違うのです、怪しさ爆発なのです!」

「関係無いよ! それに怪しさで言ったら、僕に勝てる人なんて居ないよ!」


「こんなとこパティ姉様に見られたら、殺されそう……」

「鬼の居ぬ間に、なのです」

「2人共、そんな事言ってたらパティが来るよ⁉︎」

「パティ姉様、昨日行ったばかり……」

「そんなすぐには帰って来ないのです!」



「ユゥゥゥキィィィィィィ‼︎」

「え⁉︎」

「ビクッ‼︎ なのです!」

「ま、まさか⁉︎」


 まさかのパティの声に、ビクッとなる3人。

 ユーキが気配を感じて空を見上げると、遥か上空からパティが急降下して来る。


「パティ⁉︎」


 ドゴオオオオオン‼︎

 凄まじい爆音と爆風を撒き散らして、パティが地上に降り立つ。


「うわっ‼︎」

「何? 爆発?」

「隕石落下なのです‼︎」


 爆風の中からパティが飛び出して来て、ガッとユーキの肩を掴む。


「ユーキ‼︎ 無事⁉︎ 無事よね⁉︎ どこもケガして無いわよね⁉︎」

「パティ‼︎ ど、どうしたんだよ⁉︎ そんなに慌ててー? 別に僕は何とも無いって!」

「そう……良かったわ……」


「だからどうしたのさ⁉︎ 昨日出て行ったばっかりなのに……いやまあ、確かに早く帰って来てとは言ったけども……」

「ユーキが危ないって……師匠が言うもんだから……全速力で飛んで来た……のよ……」


 フラフラして、今にもまぶたが閉じそうなパティ。


「だ、大丈夫? 何だかフラフラしてるけど……」

「徹夜で……魔力全開でぶっ飛んで来たもんだから……あ、安心したら急に……眠気、が……ゴメンなさいユーキ……ちょっとこのまま……眠らせ、て……」


 ユーキの体にしがみつく様に崩れ落ちて行き、ユーキに膝枕してもらう様な格好になり、眠りに落ちて行くパティ。


「え⁉︎ ち、ちょっとパティ? 寝ちゃったの?」

「ああー‼︎ パティ姉様ズルイー‼︎ ネムもユーキ姉様に抱かれて眠りたいー‼︎」


 そう言ってユーキの胸に飛び込んで行くネム。


「ネ、ネム⁉︎」

「ああ‼︎ ロロだけ仲間はずれはイヤなのです!」


 ネムに負けじとロロも同じ様にユーキの胸に飛び込むが、勢いがあり過ぎてユーキの体を押し倒してしまう。


「ウグッ‼︎ ちょっと! 強いって、ロロ!」


 膝にパティ、左の胸元にネム、右の胸元にロロがそれぞれユーキに抱きつく様にして眠りにつく。


「何だ? この状態……」



「姫様‼︎ 先程の音は何事ですかー⁉︎ あ……」


 城の兵士が爆発音を聞きつけて、慌てて走って来るが、ユーキ達の姿を見て優しく微笑んで下がって行く。


「ハハ! これはお邪魔いたしました……」

「え⁉︎ ち、ちょっとー! 帰っちゃうの? ええー⁉︎ どうすんだよ? これ……ハア……」


 諦めてネムとロロの頭を優しく撫でるユーキ。





 パティ達が眠りについたその頃、フィルスの王都トゥマールに到着したアイバーンとメルク。


「ああっ! 団長ー‼︎ お帰りなさいー‼︎」

「団長ー‼︎」

「アイバーン様ー‼︎ お帰りなさいませー‼︎」

「メルクさんもお疲れ様ー‼︎」


「団長! 久しぶりにウチの店に寄って行ってくださいよー!」

「すまない‼︎ 誘ってもらって申し訳ないが、今は少々急いでいるんだ! また今度ゆっくり寄らせてもらうよ!」

「ハーイ! 待ってますからねー!」


 大勢の民に声をかけられながら、王宮に辿り着いたアイバーン達。


「あっ‼︎ これはアイバーン様にメルクさん! お帰りなさいませ!」


 門番がアイバーンに対して敬礼をする。


「ロイ国王はおいでか?」

「ハイ! いらっしゃいます! どうぞ!」

「うむ……」


 城の門を開ける門番。

 階段を上がり、玉座の間に入るアイバーン達。


「国王! 王国騎士団団長アイバーンとメルク、只今戻りました!」

「おお‼︎ アイバーンよ、よくぞ戻った! メルクもご苦労であったな!」

「ハッ‼︎ ありがとうございます、国王様‼︎」


「して、アイバーンよ……例の件はどうなったのじゃ? 候補者が見当たらぬ様じゃが?」

「ハイ! 実はその事について国王様のご意見をお聞きしたく、一旦舞い戻った次第にございます」

「ほう……話してみよ」


 アイバーンより何かの候補者についての話を聞いた国王。


「何と⁉︎ リーゼルの王女とな⁉︎」

「そうなのです……いかがいたしましょうか? 私としては、彼女を置いて他に無いと思ったのですが……」

「うむ……お前がそれ程までに推薦するとは、余程の逸材と見えるな……して、そのユーキとやらの写真等は持っておらぬのか?」

「ハイ! こちらにございます」


 懐よりユーキの写真を取り出し、国王に見せるアイバーン。


「ウォォォォォォ‼︎ いいじゃん‼︎ めちゃくちゃカワイイじゃん‼︎」


 ユーキの写真を見た途端に、軽いノリになる国王。


「うん! ワシ、この娘気に入った‼︎ 今まで見た候補の中でも、断然イチオシじゃ‼︎」

「気に入っていただけた事は嬉しいのですが、彼女は他国の王女という立場にありますので……」


「う〜ん、そうだな〜……いや、確かリーゼルと言ったな?」

「ハイ! それが何か?」

「実はパラス軍が近々、リーゼルに攻め込むのではないかという噂があってな……」

「何ですってー‼︎」

「上手く立ち回れば、一気に問題が片付くかもしれんぞ⁉︎」

「そ、それは一体……」






 その頃話題のユーキは、完全にパティ達の抱き枕と化していた。



「あの〜……段々体がシビれて来たんですけど〜……ツ、ツライ……」



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