第7話 みんなで意味深な事言ってみた

 ユーキ達が街歩きをした次の日の夜、王宮ではマナ王女の帰還を祝い、盛大なパーティーが執り行われている。



 来賓の相手をひと通り終えたユーキが、バルコニーに避難していた。


「ハア……疲れた……王族ってこんなに忙しいのか……王女様、か……正直まだ実感無いなー。全部夢だったりして……」


 頬を思いっきりつねるユーキ。


「……痛い……」




 違う場所のバルコニーに居るアイバーンとメルク。


「ユーキさん、本当に王女様だったんですね」

「そのようだな」

「どうするんですか? アイバーン様……僕達の本当の目的は……」

「ふむ……私も今それを考えている……」

「ユーキさんがこの国の王女様なら、やっぱり候補から外れちゃうんでしょうか? いや、それ以前に僕達、ここでユーキさんとお別れになっちゃうんでしょうか?」

「うぐっ! そ、それがユ、ユーキ君の為ならば……や、やむを得まい……」

「もの凄〜くイヤそうですね……僕だってイヤですよ……ハア……」

「フウ……」



 アイバーン達と離れたバルコニーに居るパティ。


(ユーキがこの国の王女様って事は、当然ユーキはこの国に残るのよねー? あたしどうしたらいいのよ、師匠ー⁉︎ こんなイレギュラー、聞いてないわよー!)


 唸りながら頭を抱えるパティ。




 更に離れたバルコニーに居るネムとロロ。


「まさかユーキさんとセラさんまで王女様だったとは、驚きなのです」

「凄いメンバーだった……」

「2人共、国に帰ってしまうのですか?」

「分からない……でも、帰れる国があるなら帰った方がいい……」

「ネムはどうするのですか?」

「ネムは初めから、ユーキ姉様について行くと決めてる……」

「なら当然、ロロもお供するのです!」

 



 パーティー会場でひたすら食べているセラの所に近付いて来るレノ。


「セラ! マナを見なかったか?」

「初めのうちは色々来賓とあいさつしてましたけどぉ、今は見当たらないですぅ」

「何を呑気な⁉︎ また居なくなったらどうするんだ‼︎」

「大丈夫ですよぉ、この会場のどこかに居るのは間違いないんですからぁ」

「くっ! 俺もあいさつに追われて見失ってしまったからな……マナー‼︎」


 ユーキを呼びながら去って行くレノ。


(ンフフー、ユウちゃんにはちゃんと羽を付けてますからぁ、バルコニーに居るのは分かってるんですけどねぇ……今は1人になりたいでしょうから、レノには教えてあげないのですぅ)




 再びバルコニーのユーキ。


「あれ⁉︎ 僕がこの国の王女様で、ここが僕の故郷なんだったら、僕の旅ここで終わり? え⁉︎ まだ始まったばかりなのに? 4つしか街行ってないのに? 始まってひと月程しか経ってないのに? マジかー……あ……じゃあもしかして、みんなともここでお別れ…なの? ……こんなすぐ終わるとか、無料のソーシャルゲームか〜! ……ハア……」


「マナ!」


 ユーキの力無いツッコミが虚しく空を切った時、背後からレノが声をかける。

 振り向いたユーキの顔を見たレノがハッとなる。


「泣いている……のか?」


 ユーキの頬を一雫の涙が伝っていた。


「え⁉︎ い、いやこれは、玉ねぎが目にしみただけ」

「いや、玉ねぎなんてどこにも無いが……それは嬉し涙なのか? それとも……」

「だ、だからこれは激辛料理を食べたせいで……」


 ユーキが必死に誤魔化そうとしていると、レノが優しくユーキを抱きしめる。


「んなあっ⁉︎」


 再びぶっ飛ばすべく、体に力を込めるユーキ。


「今まで辛かっただろう、マナ……だが安心しろ、これからは俺が側に居る!」

「むぐっ⁉︎ ぐぬぬぬぬ……フゥッ」


レノの思わぬ言葉に、フッと全身の力を抜くユーキ。


「今日は抵抗しないのか?」

「ん……何か今は……いい……」

「そうか……」




 レノに身を委ねていたユーキの背後から、パティが鬼の形相で走って来る。


「何やってんのよ! あんたあああ‼︎」


 そのままの勢いで、レノの顔面に飛び蹴りを放つパティ。


「ぐはあぁぁぁっ‼︎」


 豪快に吹っ飛ぶレノ。


「大丈夫⁉︎ ユーキ‼︎ あいつに変な事されなかった⁉︎」

「だ、大丈夫だよパティ」

「ユーキ姉様、抱きしめられてた……」

「熱々なのです」

「ネム⁉︎ ロロ⁉︎」

「一体何事かね⁉︎」

「みんな集まってますね?」

「アイ君にメル君まで⁉︎」



「覚悟は出来てるんでしょうね? あんた」


 指をボキボキと鳴らしながらパティがレノに迫る。


「ま、待ちたまえパティ君‼︎ 仮にも相手は一国の王子なんだぞ‼︎」

「そんなの関係無いわ‼︎ あたしはヴェルンの国民じゃ無いし」

「いや、外交問題になるぞ!」


「いいんですよぉ、ヴェルン国王女の私が許可しますぅ、パティちゃん! そんな変態、遠慮なくぶっ飛ばしちゃってくださいぃ!」

「オイ、セラぁ‼︎ よくぞ言った、我が妹よ! さあパティさん‼︎ もっと俺を激しくいたぶってくれ‼︎」


「な、何なのよ⁉︎ こいつ……」

 ぶっ飛ばされて喜ぶレノに、たじろぐパティ。


(そ、そうだった……こいつはドMの変態なんだった……ハッ⁉︎ もしかしてまた僕に投げ飛ばされたくて、ワザと抱きしめて来たのか⁉︎)


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