第5話 スベり笑いもまた笑いの一つ

 とりあえず、ユーキとセラも席につく。


「国王! ユーキ君、いや、マナ王女が行方不明になった日の事、もっと詳しくお聞かせ願えますか?」


 場を引き締めるべく、アイバーンが質問を投げかける。


「うむ、よかろう……あれは丁度マナが14歳の誕生日を迎えた日、つまりはマナとレノ王子の結婚式の日だった。午後の式を控え、国中の者が準備に追われていた時、色々想うところもあったのだろう、マナがふと1人になりたいと言い出してな……だから城の敷地内から出ないなら、という条件で許可したんだが……今思えば、無理矢理にでも共を付けるべきだった」


「そのまま行方不明に?」


「そうだ……だが一つ気になる事があってな」

「気になる事?」


「マナが外に出てしばらく経った時、強大な魔力のぶつかり合いがあったのだ。一つは間違いなくマナの魔力だったが、他の魔力は我々も知らない物だった」


「他の、という事は複数居たという事ですか?」

「そうだ、しかもそれらの魔力は、レベル7でありこの国最強でもあったマナの魔力を遥かに凌ぐ物だった……」


「レベル7の魔力を遥かに凌ぐ……」


「そのぶつかり合いは、この城に居た皆が感じていたから間違いない。その後すぐにそこへ向かったんだが、すでに誰も居なかった。激しい戦いがあったであろう痕跡だけを残してな……」



「ではマナ王女はその何者かと戦って連れ去られたと……」

「そう考えるのが自然だろう……だが‼︎ 記憶を失っているとはいえ、こうしてマナは無事に帰って来てくれたんだ! それだけで私は満足だ!」


(レベル7を遥かに凌ぐ存在……まさか本当に神や悪魔の類ではあるまいな……)



「国王! 一つお聞きしてもよろしいか?」

「何だね?」


「マナ王女は他人の魔装をコピーしたり、男性に変身したり、というような魔法が使えたんでしょうか?」


「何⁉︎ 魔装をコピー? 男に変身? コピーというよりは、誰かが使った技や魔法を、一度見ただけですぐに使えるという天才的な才能はあったが、魔装そのものをコピーするなんて事は出来なかった筈だ。ましてや異性に変身するなど……いやそもそも、そんな魔法など存在するのかね?」


「セラ君! ユーキ君のコピー能力について国王には?」

「一度に言うと混乱すると思ってぇ、言ってないんですぅ」

「マナ! 本当にそんな事が出来るのか?」

「う、うん……まあ、ね……」


「じゃあ実際に見てもらったらどうですかぁ? せっかくなのでぇ、新しい人がいいですねぇ……あ! レノはもう魔装出来るようになりましたかぁ?」


「ん⁉︎ あ、ああ、マナが居なくなった時、俺は自分の非力さを本当に悔やんだからな! 2年の間必死に修業して出来るようになったんだ。レベルだって3から5まで上げたんだぞ! どうだ! これでようやくセラに追い付いたぞ‼︎」


「え? ああー、私はもうレベル7に到達しましたぁ」

「なん……だと⁉︎」



 城の中庭にやって来たユーキ達。

 レノが魔装具を具現化させると、身長よりも長い三又の槍が現れる。


「さあ! 苦しい修業の末に会得した魔装を見せてやるぞ!」



 頭上で槍を3度回してから柄の部分を地面に付けると、足元に魔方陣が現れる。


「魔装‼︎」


 槍の刃先を空に向けて掲げるとその刃先に雷が落ち、全身を伝わり地面に到達する。魔方陣が光を放ち、その光が消えるとアイバーンの鎧よりも更に重厚な白金の鎧が装着される。

 

「アーマーナイトかー! カッコイイなー‼︎」


 その姿を見て感動しているユーキのペンダントが、淡い光を放つ。

 

「コピー出来ましたかぁ?」

「あ、うん……見てみる」


 ユーキが魔装具を具現化させると、ロッドから黄色い魔装弾が出てくる。


「あった! 多分これだ!」

「じゃあ国王を驚かせてあげてくださいぃ」

「うん……魔装‼︎」


 全身を包んだ光が消えると、レノと同じ鎧と槍を持ったヤマトが現れる。


「なっ⁉︎ 何と‼︎ お、お前が本当にマナなのか⁉︎」

「ああそうだ……もっとも、本当にマナなのかどうかはまだ分からないがな」

「し、喋り方まで男らしくなるんだな⁉︎」

「まあまあまあ‼︎ マナちゃんたら、超イケメンになっちゃってー‼︎ あなたやったわ‼︎ マナちゃんが帰って来ただけでなく、同時に息子まで出来るなんて、何て素晴らしい日なんでしょう‼︎」


「あ、ああ……お前はいつもポジティブだな、レナよ」



 国王夫妻がユーキの変身に驚いていると、城の兵士が慌てた様子で走って来る。


「国王様‼︎ 大変でございます‼︎」

「何事だ⁉︎」

「城の周りを大勢の国民が取り囲んでおります‼︎」

「なんだと⁉︎ それは一体どういう事か⁉︎」

「そ、それが、いつの間に噂が広まったのか、皆口を揃えてマナ王女様に会わせろと……」


「何っ⁉︎ ハッハッハッハッ‼︎ なるほど、そういう事か! そうだな、皆にも会わせてやらんとな! マナ、元の姿に戻ってくれんか⁉︎」


「あ、ああ……」


 魔装を解いて、ユーキの姿に戻るヤマト。


「さあ、マナよ‼︎ 国民にお前の元気な姿を見せてやろうではないか‼︎ こちらへ来なさい!」


 ユーキの腕を引っ張り、どこかへ連れて行こうとする国王。


「あ、あの、ちょっと! どこ行くの?」

「皆も心配していたんだ……声を聞かせてあげなさい!」

「ち、ちょ、ちょ……ちょおっと待ってー‼︎」


 力尽くで踏ん張って国王を止めるユーキ。


「どうした? 何を恥ずかしがっている?」

「いやいや、そうじゃなくて! 僕はまだ自分が本当にマナ王女だっていう自信が無いんだ! 何も覚えてないし……」


「誰が何と言おうと、お前はマナに間違いない‼︎ 親が子を間違えるものか‼︎ 記憶が無い事は心配するな! 私が先に行って皆に説明する!」

「いや、だけどさー」


「ええい! 往生際が悪い! お前達も手伝ってくれ‼︎」

「ハイ!」

「ええ!」


 パティ達も加わり、皆でユーキを引きずって行く。


「う、裏切り者おおお‼︎」



 バルコニーに立ち、集まっている大勢の民に向かい、マイクで語り始める国王。



「みな、静粛に! 今日みながここに集まったという事は、全員目的は同じであろう?」


「国王様ー‼︎ マナ王女がお戻りになったというのは本当ですかー⁉︎」

「マナ様に会わせてくださいー‼︎」

「マナ様ー‼︎」

「姫様ー‼︎」


「フフ、そう急くで無い! マナが戻ったというのは事実だ!」


「ウオオオオオ‼︎」

「本当に姫様が戻ってこられたんだー‼︎」

「マナ王女様ー‼︎」

「マナお姉ちゃーん‼︎」


「だがしかしだ‼︎ みな落ち着いて聞いてほしい……2年前に突如旅に出たマナは不慮の事故に遭い、昔の記憶を失ってしまったのだ‼︎」


「ええ、そんなー‼︎」

「じゃあ俺達の事も覚えてないのかー⁉︎」

「姫様可哀想ー!」


「今からマナの声を聞かせるが、その事をよく理解した上で、みな温かく迎えてやってほしい……ではマナよ、来なさい!」


 国王に招かれ、渋々バルコニーに立つユーキ。

 広場はさらなる大歓声に包まれる。


「姫様ー‼︎」

「お帰りなさい、マナ様ー‼︎」

「皆心配してたんですよー‼︎」

「もうどこにも行かないでくださいねー‼︎」



「あ、あの……えっとぉ……いきなり連れて来られたから、何を喋ったらいいか分かんないんだけど……昔の事は全然覚えてなくて……あ、いや……正確には覚えて無いんじゃなくて、違う記憶があってね……だから本当の自分がどっちなのか混乱してる訳で……えと、僕何言ってんだろ?」


「姫様落ち着いてー‼︎」

「ゆっくりでいいですからねー‼︎」

「あなたは間違いなくマナ王女ですよー‼︎」



「そっか……どうやら僕は本当に王女様なんだねー……じゃあ、皆にも凄く心配かけちゃったんだよね? ゴメンなさい! でも僕……帰って来れたんだ……」



 自然とユーキの頬を涙が伝う。



「え? あれ? 涙? え、何で? 勝手に涙が……あれ? 止まんないよぉ……」


「頭では覚えてなくても、心が覚えてるんですねぇ……これでもう確信しました! ユウちゃんは間違いなくマナちゃんですぅ!」


 どんどん溢れてくる涙を必死に手で拭うユーキ。


「姫様……」

「マナ様……」


 皆もつられて泣いていた。




 すっかり静まり返った広場の空気を変えるべく、後ろからセラがあおる。


「せっかくめでたい日なのに、何だかしんみりしちゃったじゃないですかぁ、ほらほら! 何か面白い一発ギャグでもやって盛り上げてくださいよぉ!」

「い、一発ギャグぅ⁉︎ 僕そんなの持ってないよー‼︎」

「何でもいいんですよぉ、王女がやればみんな笑ってくれますからぁ!」


「うぐっ……そんな事言われたってー……」



 少し考えた後、意を決して渾身のギャグを放つユーキ。




「みんな! 王女がこんな子供で頼りないとは思うけど……少女! 王女! 頑張るじょー‼︎」






 時が止まった様に、さらなる静寂が訪る広場。




 涙目で顔が真っ赤になるユーキ。






「なるほど! これがスベり笑いという奴か⁉︎」

「笑い、あった?」

「ただただスベっただけなのです!」

「お、俺は面白いと思うぞ‼︎ マナ‼︎」

「ならせめて笑ってあげて下さいよ」

「ユーキってやっぱりおっさんなのかもしれないわね」





「どうしてくれるんだよ、セラあああ‼︎」

「私のせいじゃないですよぉ‼︎」



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