第4話 アイリスと聞いてイリヤを連想した方、重症です

 ブリッジを解き、手を突かずにスッと起き上がるユーキ。


「まったく……何なんだいったい⁉︎」


 フラつきながら、国王も起き上がって来る。


「うむ……さすがだ……この技のキレと威力、お前は間違いなくマナだ! さあ、もっとよく顔を見せておくれ!」

「マナ……よくぞ帰って来てくれました」


 正面から国王が、背後から王妃がユーキを抱きしめる。


「もう勝手に居なくなったりするんじゃないぞ」

「く、苦しいよー」

「少しぐらいガマンなさい! 私達がどれ程辛い思いをしたか」

「いや、そうは言われても何も覚えてないからさ……」

「時間をかけて、少しずつ思い出して行けばいい」

「そうね……これからはずっと一緒ですものね。さあ、長旅で疲れたでしょ? 今はお休みなさい……」

「え⁉︎」


 すっかり油断したユーキの背後から、スリーパーホールドをかける王妃。


「ぐうっ! し、しまっ……た……」

「フフ、油断大敵よ⁉︎ マナちゃん!」


 けい動脈を締められ、完全に落ちてしまうユーキ。


「ンフフー、国王は打撃技、マナちゃんは投げ技、王妃様は関節技をそれぞれ得意としてたんですぅ」

「な、何なのよ⁉︎ この親子ー‼︎」





 


「……へえ、アイリスさんってフィルス大陸から来たんだ⁉︎」


(またあの夢? アイリス……初めて聞く名前だなー)


「ええそうです、あなたは?」

「僕? 僕はマナ! これでも一応、この国の王女なんだよ⁉︎」

「そうなんですか⁉︎ じゃあマナ様ってお呼びしないと、ですね」

「様なんて付けなくていいよー‼︎ 僕、そう言う堅苦しいのは嫌いだからさ!」


(ホントだ……喋り方が僕と同じだ……)


「そうなの? じゃあマナちゃんって呼んでもいいですか?」

「うん! それでいいよ! あ、あとその敬語もやめてよね!」

「あ、ああごめんなさい! これは私のクセなんです……誰に対してもこうなので、勘弁してくださいね」

「ふーん、そうなんだ⁉︎ じゃあそれは勘弁してあげるね!」


「フフ、ありがとうございます。ところでマナちゃんって、女の子なのにどうして自分の事僕って言うんですか?」

「え⁉︎ そ、そういえば何でだろ?」

「プッ! 自分の事なのに分からないんですか?」

「うーん、子供の頃は違ったと思うんだけど……いつからだっけ? 忘れちゃった‼︎」


「フフ、面白い娘ですね」

「ブゥー! 笑わせるつもりの無いとこで笑われるのは心外だなー!」

「フフ、ごめんなさい」

「ああー! また笑ったー!」

「フフ」

「ウフフフ!」


(アイリスって何者なんだろ?)





「う……ううん?」


 目を覚ますユーキ。


「あ! 気が付きましたかぁ?」

「セラ? えっと、僕……あ! 僕、スリーパーで落とされたのか⁉︎」

「そうですぅ、王妃様必殺のスリーパーホールドで見事に落ちましたぁ」


「ぐっ、くそっ! あの国王といい王妃といい、いったい何なんだ⁉︎ ここの連中は!」

「お二人は強力な魔道士であると同時にぃ、格闘技も得意としてるんですぅ。そしてかつてのマナちゃんはぁ、そのお二人よりも強かったんですよぉ」

「どんな親子だよ! って僕もか⁉︎ いや、まだ分かんないけど」


「でもぉ、ユウちゃんは実際に国王を倒したじゃないですかぁ、さすがですぅ」

「いや、あれはただテレビで見てたのを、見よう見まねでやっただけで……」

「見てただけでああも使いこなせますかぁ? やっぱり体が覚えているんですよぉ」

「う、それは……」


「まあそれはいいとしてぇ、みんな食事してますからぁ、私達も行きましょぉ! 早く行かないとみんな食べられちゃいますぅ」

「いやぁ、セラがここに居るなら大丈夫だよ」

「ブゥー! それどういう意味ですかぁ⁉︎」





 豪華な食事でもてなされているパティ達。


「君達がマナを保護してくれたと聞いた……何と礼を言ったらいいか……本当にありがとう!」


 そう言って深々と頭を下げる国王。


「保護したって言っても、この中で1番始めに会ったあたしでもほんのひと月程前だから、それ以前のユーキは知らないのよ」

「ユーキ? ああ、確か今のマナは自分の事を異世界から来た35歳のおっさんだと思い込んでるんだったね⁉︎」

「ええ、それで故郷であるこの国に来れば、少しは記憶が戻るかもって……もっとも別人だったらまったく意味は無いんだけどね」


「別人なんて事はありえない‼︎ あの姿、あの声、あの喋り方、あの技、あの控え目な胸! どれ一つ取ってもマナに間違いない‼︎」

「控え目で悪かったな‼︎」


 少しムッとしながら、ユーキとセラが入って来る。


「い、いや、違うんだマナ! 2年前と比べて余りにも見た目が成長してなかったのでつい……」

「エロオヤジ……」

「ガアアアアアン‼︎」

「あらぁ! そうやってたま〜に辛辣な事を言う所も、昔のまんまね」




「見た目が成長していない?」


 国王の言葉に引っかかるアイバーン。


「どうしたんですか? アイバーン様?」

「今国王はユーキ君の見た目が2年前から成長していないと仰られた」

「ええ、でも2年ぐらいじゃそんなに変わらないんじゃないですか?」

「確かに成人女性ならさほど変わらないかもしれないが、ユーキ君ぐらいの年齢の少女なら、2年も経てば体つきが変わってきそうなものだが……」


「なーに? アイ君まで僕の胸の事言ってるの? エッチ……」

「ぶぅっ! ち、違う! 誤解だユーキ君!」

「アイバーン、エロい……」

「エロバーンなのです!」

「いや、変なあだ名を付けないでくれたまえ! ロロ君! そもそも私は胸の小さい方が好み……じゃなくてだね‼︎」


「ハッ⁉︎ ネム、狙われてる?」

「ロリバーンなのです!」

「アイ君! いいかげんにしないと……」


 握り拳に力が入るユーキ。


「ち、違うぞ‼︎ ユーキ君‼︎」



「待つんだマナ‼︎ オシオキなら私が代わりに受けよう‼︎」

「いや! マナのオシオキなら俺が受ける‼︎」

「何だとー! レノよ! お前とマナの結婚は保留になっている! だから今、マナのオシオキを受けられるのは私だけだ‼︎」

「な⁉︎ ズルイですよ! 国王!」

「ズルくないもん! 私はマナの父親で国王だから、当然の権利だもん‼︎」

「だもんってあんた……」





「こ、こいつら……」


 怒りに体を震わせているユーキ。


「僕の周りの男共は、変態しか居ないのかあああ‼︎」







「ぼ、僕は違いますからね……」



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