第3話 時間無制限一本勝負!

 起き上がって来たレノが、パティ達の方を向き。


「君達がマナを保護してくれたのか?」

「え⁉︎ ほ、保護って言うか……まあ一緒に旅はして来たんだけどね」

「そうか……マナの婚約者として、礼を言わせてもらう……ありがとう!」


 そう言ってパティ達に深々と頭を下げるレノ。

 だがさり気なく言ったレノの言葉に固まる一同。


「え? い、今この人、婚約者って言いました?」

「私もそう聞こえたが……」


「あっ! 言ってませんでしたかぁ? レノはマナちゃんの許嫁なんですぅ」





「ええええええっ‼︎」

「ええええええっ‼︎」

「ええええええっ‼︎」

「ええええええっ‼︎」

「ええええええっ‼︎」

「ええええええっ‼︎」

「な、な、な……何ですってえええっ‼︎」



「ええええええっ‼︎ そうだったんですかぁ⁉︎」

「何でセラまで驚いてんだよっ‼︎」




「いやいやいや‼︎ 何だよ⁉︎ 許嫁ってー‼︎ 僕は聞いてないよ‼︎ いや、聞いてたのかもしれないけど」

「許嫁と言うのはぁ、本人達の意思では無く双方の親が結婚を決める事でぇ……」

「いや、そのパターンはもういいから‼︎」


「ちょっとどう言う事よ⁉︎ セラ‼︎ ちゃんと説明しなさいよ‼︎」

「落ち着いてくださいパティちゃんん、ちゃんと説明しますからぁ!」


「まあまあ皆様! こんな所で話すのもあれですので、とりあえず船に乗り込みませんかな?」

「そ、それもそうね……じゃあ船の中でじっくり聞かせてもらうわ」



 バートラーに促されて、船に乗り込むユーキ達。



「さあ、話してもらうわよ! セラ!」

「そうですねぇ、何から話しましょうかぁ? じゃあ私の好きな食べ物についてから……」

「言っとくけど、冗談が通じる空気じゃ無いわよ⁉︎」

「わ、分かってますよぉ」


 パティに釘を刺されたので、真面目に語り出すセラ。



「私達のヴェルン国とマナちゃんのリーゼル国とはぁ、昔から友好関係にあった事は昨日話しましたよねぇ?」

「ええ」


「でもヴェルンは元々東の大国パラスの属国だったのでぇ、いつリーゼルへの侵攻を命令されてもおかしくなかったんですぅ」

「パラス……へルート大陸一の軍事国家ね」


「そこでリーゼルとの戦争を回避したかったヴェルンの国王がぁ、ヴェルンの王子であるレノとぉ、リーゼルの王女であるマナちゃんを結婚させる事によりぃ、リーゼルを同盟国にしようとしたんですぅ」


「何よそれぇ! 完全な政略結婚じゃないのよ‼︎」

「政略結婚だな」

「政略結婚ですね」

「今夜決行?」

「喧嘩上等なのです!」

「いや、伝言ゲームかっ‼︎」



「でもその結婚、当の本人達は納得してたの?」

「俺は元々マナの事が好きだったからな! 結婚出来ると聞いた時は、そりゃあ大喜びしたさ」

「私も昔マナちゃんに聞いた事があるんですぅ……そしたら、戦争しなくて済むならその方が良いって……それに、私と本当の姉妹になれるって喜んでましたぁ」


「そう……つまり本人達は承知の上だったって訳ね……」

「その話が持ち上がった時、マナちゃんはまだ幼かったのでぇ、マナちゃんが14歳になった時に正式に結婚をする事になっていたんですぅ」


「でも居なくなったと⁉︎」

「そうなんですぅ、マナちゃんがちょうど14歳になった日に、突然行方不明になってしまったんですぅ」


「わがヴェルンでは、やはり結婚が嫌で逃げたのではないかという噂が広まりましたな……」

「マナは断じてそのような娘では無い‼︎」


「そうですぅ、マナちゃんは何より誰よりも国民の事を思っていた娘ですぅ。本当に結婚が嫌だったんだとしてもぉ、まあ確かに相手がこんなど変態なんて私だったら断固拒否しますけどぉ」


「オイ‼︎」


「例え最悪の結婚相手だとしてもぉ、国民の未来を見捨てて自分だけ逃げるなんて事はぁ、絶対にぜぇーったいにぃ‼︎ あり得ないんですぅ」


「つまりその日に、何者かの手により記憶と魔力を封印されたという事か……」

「でも、それじゃあ2年もの間、ユーキさん……いえ、マナさんはどこで何をしていたんでしょうか?」

「あたしがユーキを見つけたのは、つい最近だしね」


「そればっかりはぁ、ユウちゃんの記憶が戻らない事には分からないんですぅ」

「我々も色々調査をしたが、その間の足取りが全く掴めなかった……だが先日、フィルス大陸に捜索に来ていた者が闘技場の中継でマナを見つけてな……そしてようやく再会できたという訳だ」




 数時間後、船はノーヴェ大陸に到着する。

 


「ここが……僕の故郷……なのか?」

「どうですかぁ? 何か思い出しましたかぁ?」

「いや……思い出してはいないけど、何か懐かしさ? みたいな物は感じてる」

「いい傾向ですぅ、それじゃあ王宮に行きましょう」

 


 ユーキ達が王宮を目指し歩いていると、ユーキを見た人々が騒ぎ出す。



「あ、あれはまさか‼︎ マナ王女⁉︎」

「ホ、ホントだ‼︎ 姫様だ‼︎」

「オイみんなー‼︎ 姫様だ‼︎ マナ様がお戻りになったぞー‼︎」

「姫ー‼︎ いったい何処行ってたんだよー‼︎」

「マナちゃん‼︎ よく無事で‼︎」

「心配かけさせんじゃねーよ!」

「マナ姉ちゃーん‼︎」

「マナー‼︎」


「セラ様とレノ様も一緒だ!」

「じゃあお二人が見つけてくださったのか⁉︎」

「ありがとうセラちゃーん‼︎」

「レノ様ー‼︎」


「な、なんて言うか……みんな王族に対して、随分馴れ馴れしいわね」

「マナちゃんが堅苦しいのは嫌いだからってぇ、自然とこういう感じになったんですぅ」


「確かに……僕はこういう方が好きだ」




 そして王宮に到着したユーキ達。

 だが中に入るのを少しためらうユーキ。


「ユウちゃん、どうしましたぁ?」

「あ、いや……何だか妙に緊張しちゃって……記憶の事とかもあるし、どうリアクションしたらいいのか……」

「大丈夫ですよぉ、ユウちゃんが記憶喪失だって事はすでに伝えてありますからぁ」

「そ、そうなの?」

「さあ、行きましょぉ」



 恐る恐る中に入ると、玉座を待たずして国王と王妃らしき人物、そして大勢の臣下達がすでに待ち構えていた。


「フフ、お二人共待ちきれなかったんですねぇ」

「あの人達が、僕の両親?」



「マナ……」


 王妃が大粒の涙を流しながら、両手で口を覆う。

 その隣でワナワナと震えていた国王がユーキに向かって走り出す。


「マナああああああ‼︎」

「父……さん⁉︎」


 ユーキを抱きしめるのかと思われた次の瞬間、そのまま走り込んでのランニング・ネックブリーカー・ドロップをユーキに炸裂させる国王。


「この、じゃじゃ馬娘がああああ‼︎」

「うぐうっ‼︎」


「いったああああ‼︎」


 後頭部を抑えながら悶絶するユーキ。


「いったい今まで何処をほっつき歩いてた⁉︎ このバカ娘があああ‼︎」

「な⁉︎ 何すんだよ、いきなりぃぃ‼︎」

「む……どうやら記憶を失っていると言うのは、本当の様だな……ならば体で思い出させてやろうっ‼︎」


 そう言って王妃の元に走って行く国王。


「レナ‼︎」

「ハイ! あなた‼︎」


 国王とアイコンタクトした王妃が体の正面で両手を組むと、その手を踏み台にして後方へ宙返りしてムーンサルトプレスを仕掛ける国王。


「くらえぃっ‼︎」

「あぶっ!」


 それを寸前でかわすユーキ。


「ぐうっ‼︎」


床に自爆して苦しんでいる国王に向かって走り出し、シャイニング・ウィザードを炸裂させるユーキ。


「殺す気かあああっ‼︎」

「ぐはあぁぁぁ‼︎」


 だがすぐに起き上がって来て、右腕でラリアットを放つ国王。

 それをさっとかがんでかわし、右腕で首を、左腕で国王の右足を抱え込んでエクスプロイダーを放つユーキ。


「がああ‼︎ ま、まだまだああああ‼︎」

「いい加減に……」


 なおも起き上がって来る国王の背後から、胴に両腕を回して組み付き、ジャーマン・スープレックス・ホールドで後方へ投げるユーキ。


「しろおおおお‼︎」

「あぐうぅぅぅぅ‼︎」


 そのままブリッジで固めると、すかさずカウントを数える王妃。


「ワーン! ツー! スリー‼︎ 勝者、マナちゃーん‼︎」


 マナの手を上げて、勝利宣言をする王妃。


「おおおおおっ‼︎」

「あの国王様をあっさり倒されるとはっ!」

「やはりマナ様はお強い!」

「やはり姫様だあああ‼︎」

「我らの姫様が帰って来たあああ‼︎」

「うおおおおおっ‼︎」


 歓喜の雄叫びを上げる臣下達。




 そんな光景を、呆気に取られながら見ていたパティ達。



「な……何なの? この人達……」

「ああ、ご心配なくぅ……いつもの事ですからぁ」

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