第32話 そしてパーティーは増えて行く

「ん……僕どうなって……?」


 セラの治癒魔法を受けたユーキが目を覚ます。


「ユーキ!」

「姉様‼︎」


 ユーキを抱きしめようとしたパティを押しのけて、ネムがユーキに抱きつく。


「ネム⁉︎」

「姉様ー‼︎ 無事で良かったー‼︎」

「ち、ちょっとネム‼︎ あたしを差し置いてユーキに抱きつくとはどういう事よ⁉︎」

「ユーキ姉様はみんなの姉様よ! 遠慮なんかしないわ!」

「ああ、それもそうね! ユーキー‼︎」


 ネムもろともユーキに抱きつくパティ。


「みんなのって何だよー! 僕は物じゃないぞー!」

「ああー‼︎ 2人共ズルイですぅ! 私もユウちゃんに抱きつきたいですぅ!」




「じゃあ俺も抱きついていいって事か⁉︎」


 フラつきながら、ザウスが入って来る。


「やれるものならやってみるがいい! 今度は遠慮なく息の根を止めるがな!」


 アイバーンが威嚇する。


「へっ! 冗談だよ、団長さん! あんたの好きな娘を取ったりし……」

「ぬふおああああ‼︎」


 ザウスの言葉を遮るように、奇声を発するアイバーン。


「もう! 何変な声あげてるのよ? アイ君!」

「ああいや! す、すまない!」



「ずいぶん賑やかですね⁉︎」


 遅れてノームも帰って来た。


「ザウス! それにノームも……2人共無事だったんだね」


 2人の無事を安堵するビスト。


「ああ! 甘ちゃんに助けられたよ!」

「私もですわ……ユーキさんが悲しむからって」

「そうか……たった今そのユーキちゃんに、オーナーも助けられたとこだよ」

「オーナーが⁉︎」



「そうか……僕はユーキさんに助けられたのか……」


 リッチがようやく意識を取り戻す。


「オーナー‼︎」




「ありがとう! ユーキさん……そして、すまなかった!」

「まったくだわ‼︎ ユーキが助けるなんて言わなかったら、あたし達はあんたなんか見捨てるつもりだったんだからね!」


「ユーキさん……僕はあなたに酷い事をしたのに……本当にありがとう!」

「いやまあ、その……何だ! みんな無事だったんだから、オールオッケー‼︎」


「ユーキさん! あなたは僕の命の恩人です! お礼と、迷惑をかけたお詫びに、何でも欲しい物があれば言ってください‼︎ どんな物でも、可能な限りご用意いたします! 僕に出来る事と言ったら、それぐらいしかありませんので」


「いや、そんなのはいいって! 別に恩を着せたくてやった訳じゃ無いんだし!」

「そんな事おっしゃらずに! このままでは僕の気が済みません‼︎」



「うーん……あ! じゃあ、今回のイベントの景品にあったゲーム機頂戴‼︎」

「え? あんな物でいいんですか? なら他にも僕が持ってるゲーム機を全部差し上げますよ!」

「ああいや、そこまではいいって! 君もゲームが好きなのは本当なんでしょ? なら、それを奪うなんて事は出来ないよ! だからあの、PSAntaだけ頂戴!」


「そんな‼︎ 遠慮なさらずに、他にも言ってください‼︎」

「そうは言われても、僕は今ゲーム機以外に欲しい物なんてモゴモガ!」


 背後からセラが、ユーキの口を塞ぐ。


「モガー‼︎ モグモガガー‼︎」

「ああ、可哀想にユーキ……余りの怒りの為に言葉にならないのね……ならあたしが代弁してあげるわ」


 ユーキの口元に耳を近づけるパティ。


「ふんふん……ゲーム機程度で許されると思ったら大間違いだぞ⁉︎」

「モガ⁉︎ モググモグモガー‼︎」

「みんな死ぬとこだったんだから、慰謝料だせー‼︎ って言ってるわ」

「モガァ‼︎ モグモグモガガ‼︎」


 喋れない為に、何とか両手の素振りで意思を伝えようとするユーキだったが、両側からアイバーンとメルクに腕を掴まれる。


「モグ⁉︎ モググ⁉︎ モググ⁉︎」

「大丈夫だ! ユーキ君! 君の言いたい事は、全て我々が代弁する!」

「ごめんなさい、ユーキさん……はあ、後でみんなユーキさんに怒られますよー⁉︎」


 唯一残ったネムに、目で助けを求めるユーキ。


「モグ‼︎」


 コクリと頷くネム。


「魔石もよこせって言ってるわ!」

「モグー‼︎」



「ハハハ‼︎ 了解しました‼︎ 全て用意させて頂きます‼︎ それと、みなさんがこの街に居る間の滞在費に次の街へ行く為の費用も、全て僕が見させて頂きます‼︎ ああ勿論、ずっとこの街で住まれると言うのなら、家も用意させて頂きますが……」





「お前ら、いい加減にしろおおお‼︎」






 ようやく宿屋に戻って来たユーキ達。

 勿論、リッチより慰謝料と魔石等を大量にせしめて来ていた。


「まったく……僕は礼が欲しくて助けたんじゃないんだぞー!」

「まあまあユーキ君! 奴のおかげで、皆苦労させられたんだ……迷惑料として当然だと思うぞ?」


「そ、それはまあ、そうなんだけどさ……」

「あいつはユーキをさらった上に、無理矢理結婚まで迫って……挙げ句の果てにはユーキを殺そうとまでしたのよ? 生かしてやってるだけ感謝してもらいたいもんだわ!」


「あぁー、その事なんですがぁ……ユウちゃんにかけた呪いは命を奪う物じゃなくてぇ、ただ単に力を弱らせるだけの物だったらしいですぅ」


「え? 本当なんですか? セラさん」

「ハイぃ! 術をかけたノームちゃんに吐かせましたぁ……ついでに言えばぁ、魔道具を無理に外そうとしたら毒針が出るって話も嘘でしたぁ」


「つまり、奴はユーキ君を殺すつもりなんて、初めから無かった訳か……」

「そうだったのか……言う程悪い奴でも無かった……のかな?」

「だ、だとしても! ユーキをさらって魔法を使えなくして、無理矢理結婚させようとした事は事実よ! それだけで充分罪だわ!」



「まあ、過ぎた事は良いとして……」

「良くない‼︎」

「今は彼女達をどうするか? が問題なのだが……」




「はうっ‼︎ やっと触れてくれたのです! ずっと待ちぼうけだったのです! 忘れられたかと思ったのです!」

「ロロ、うるさい……」

「はううっ‼︎」



 そこには、元の姿に戻っているネムとロロが居た。



「どうするも何も、僕が面倒見るって言ってるだろー‼︎」

「いや、しかしだなユーキ君! 10歳の少女を共に連れて行くというのは、色々問題がだね……」


「じゃあアイ君はこんな小さい子を置いて行くって言うの? あの時ネムが居なかったら、僕達だってどうなってたか分からないのに⁉︎」

「いくら強いとは言っても、やはり年齢が……」


「ふーん……そういう事言うんだ? 短い間だったけど、お世話になりました!」


 ペコリと頭を下げるユーキ。


「ど、どういう意味だね? ユーキ君!」

「アイ君がこんな分からず屋だとは思いませんでした‼︎ 僕はネムとロロを連れて出て行きます‼︎」

「な、なんだってー‼︎」


「あら! ユーキが抜けるなら、当然あたしもユーキについて行くわ! 元気でね、アイ君メル君!」


 そう言って手を振るパティ。


「アイバーン様‼︎ みんな行っちゃいますよ⁉︎ いいんですか⁉︎」


 アイバーンにすがるように訴えるメルク。




「わ、分かった‼︎ 私の負けだ‼︎ ネム君とロロ君の同行を認めよう‼︎」

「やったー‼︎ 良かったね! ネム、ロロ‼︎」

「ハイ……姉様のおかげです……ありがとうございます」

「良かったのです! これで生活に困らなくて済むのです! もう雑草を食べなくて済むのです!」

「いや、食べて無いから……」


「まったくアイ君は、素直じゃ無いんだから……あれ? そう言えばセラは全然入って来なかったけど、別に良いわよね⁉︎」


 ずっと黙っていたセラに尋ねるパティ。



「私は……反対です‼︎」

「え⁉︎ セ、セラ⁉︎ 何でさ? ネムは充分強くて頼りになるし、何よりほっとけないしさー‼︎」


「私が反対しているのはロロの方です‼︎」

「はううっ‼︎ わ、私ですか? 私、何かセラさんを怒らせるような事をしたのでしょうか?」

「そうだよ‼︎ 理由を言ってよセラ!」



 少しの沈黙の後、セラが口を開く。


「ロロ、あなた……」

「ごくり、なのです……」




「私とキャラがカブってるんですー‼︎」

「はわああああっ‼︎」


 セラとロロ以外の全員がズッコケる。


「な、何だよその理由‼︎」

「同年代の女の子で、敬語使って、おっとり口調で……1つのパーティーに、同じキャラは2人要らないんですー‼︎」

「何のこだわりだー‼︎」





 その後、無事にパーティーに加わる事が出来た、ネムとロロだった。








 ーー ネム・クラインヴァルト ーー


 後に『銀の妖精』と呼ばれるようになる。

 最年少でありながら、パーティー1と言われる程の戦闘力を持つ。

 ユーキに1番なついているが、アイバーンの事はまだ少し苦手なようだ。





 ーー ロロ・クラインヴァルト ーー


 後に『無敵の着ぐるみ』と呼ばれるようになる。

 召喚獣でありながら自我を持ち、戦闘から家事全般まで何でもこなす為、メルクの存在を脅かしつつある。

 しかしセラの計算されたボケと違って、純粋な天然ボケである。



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