第31話 本当に信じてたら、わざわざ言葉に出して言わないよね

「ネム! 魔石の位置が分かれば壊せる?」

「うーん、あの子に使われてるのは白魔石らしいから、フェニックスの突撃では壊せないかもしれないわ。一撃必殺の技じゃないと……」


「必殺技持ってるの?」

「まあ、一応……でもその技は加減なんか出来ないから、中の人まで殺しちゃうよ?」

「そっか……じゃあやっぱりリッチを引きずり出さないとダメかー。よし! ネム! リンドブルムの背中まで誘導してくれる? 僕まだ微調整が出来ないから!」


「え? 何するの? 姉様!」

「リンドブルムの上で魔力探知をかける!」

「そんな⁉︎ 危ないよ‼︎」

「ほんの数秒だから大丈夫! ね!」



「うーん……分かったわ……でも、危なくなったらすぐ逃げてね⁉︎」

「オッケー!」



 リンドブルムに気付かれない様に、大きく旋回して背中に回るネムとユーキ。

 リンドブルムと軸が合った時、手を離すネム。


「姉様! 気を付けて!」

「ありがと! ネム!」


 どうにかリンドブルムの背に乗ったユーキが手の平をつき、素早く探知魔法を使う。


「ウェイブソナー!」


(……来た! ……あれ? 魔力反応が1つしかない? まさか、すでに死んじゃったの? ……いや、1つじゃない! 同じ場所に2つ固まってるんだ!)


 リッチの居場所を突き止めたユーキが、リンドブルムの背中より飛び立つと、ネムが近づいて来て手を取る。


「姉様どう? 分かった?」

「うん! ちょうど翼の付け根の辺り……魔石も同じ場所にあるよ‼︎」

「そっか! なら好都合ね。付け根より前の部分をネムが切り落とすから、再生する前に姉様は中の人を助け出して! 出来れば魔石と一緒に!」

「了解‼︎」


「じゃあ行くよ‼︎ ちょっと手を離すね!」

「うん‼︎」



 ユーキの手を離し、体の正面で両手を合わせてからゆっくりと手を左右に広げて行くと、手と手の間に、巨大な炎の刃が現れる。


「フレイムサイズ‼︎」


 ネムが叫ぶと、炎の鎌はリンドブルムを追尾するように飛んで行き、リンドブルムの翼の付け根より前方をバッサリ斬り落とす。


「凄い威力!」


 既に動き出していたユーキが、頭部を失って動きの止まったリンドブルムに接近して行く。

 切断面に触れたユーキが再びウェイブソナーを使いつつ、腕の炎で削りながら胴体部分を掘り進んで行く。


「ゔぇぇ! あんま気持ちいいもんじゃないな」


 1メートル程掘り進んだ所でリッチと、その側に魔石を発見する。


「居た‼︎ やっぱり魔石もある! よし、早く切り離してっと……」

「どう? 姉様、居た?」


 ユーキを手伝おうと、ネムが近付いて来る。

 だが、リッチを助け出そうとしていたユーキが、徐々にリンドブルムの体に取り込まれて行く。


「くっ! ヤバイ!」

「姉様! 早く脱出して‼︎」


 慌ててユーキを手伝うネムだったが、体の一部がリンドブルムに触れた瞬間、ネムまで取り込まれ始める。


「ヤダもう‼︎ 離してよ‼︎」

「ネム‼︎ 離れて‼︎」

「嫌よ‼︎ 姉様を置いては行けないわ‼︎」

「このままじゃ、2人共取り込まれちゃうよ‼︎」

「い! や! だー‼︎」

「ネム‼︎」


 ネムを取り込もうとしていた肉片を切り離して、ネムを外に突き飛ばすユーキ。


「姉様‼︎ 何を⁉︎」

「僕はちょっと抜けられそうにない」

「そんな! 姉様‼︎」


「だからさ! 例の必殺技ってので、僕達ごと吹き飛ばしてよ」

「ダメよ‼︎ そんな事したら、姉様が死んじゃう‼︎」

「心配しなくても、シールドを張るから大丈夫だよ!」

「で、でも……」

「僕を信じて! ね?」


「ヤダー‼︎ 信じられないー‼︎」

「いや、そこは信じようよ‼︎」

「ちゃんとシールド張る?」

「僕だって死にたくないんだから、ちゃんと張るよ!」

「耐えきれる?」

「ネムの必殺技がどれ程の威力か分かんないけど、頑張って耐えてみせるよ! まあ、少しぐらいケガしても、セラが治してくれるしね」


「分かったわ……すぐ助けるから待ってて、姉様!」

「うん、お願い!」



 全身を完全に取り込まれるユーキ。

 リンドブルムと距離を取り、魔力を高め始めるネム。





 両手を斜め下に下げて詠唱を始める。

 リンドブルムの斬り飛ばされた頭部や手足が再生を始める。



「火の神アグニより賜りし炎」

 全身から炎が立ち昇る。


 

「冥界より蘇りし火の鳥よ」

 右腕を体の正面の水平位置まで上げる。

 完全に再生を終えたリンドブルムが、ネムの魔力に反応する。


「地獄の業火をもって我が敵を焼き尽くせ!」

 左手で右手首を掴む。

 炎が、更に激しく吹き上がる。

 ネムの魔力も吸収しようと、迫って来るリンドブルム。



「インフェルノ‼︎」

 全身の炎が右腕に集まって行き、手の平より一気に放射される。

 放たれた炎は帯状となり、リンドブルムを焼き尽くして行く。


「グギャアアアア‼︎」





 跡形も無く消滅したリンドブルムの居た空間に、シールドに包まれたユーキとリッチの姿があった。


「いやー、凄まじい威力だねー! 死ぬかと思ったよ……」

「姉様‼︎ 良かった……」

「でも、さすがに限界みたい……ネム! 後は……お願い……ね……」


 魔装が解けて落下して行くユーキとリッチ。


「姉様‼︎」


 すぐさまユーキとリッチを両手でそれぞれキャッチして、共に落下して来た魔石を口でくわえるネム。


「ほれひほふほひへ、ほほひへはうほんへふは(どれ1つとして、落としてなるもんですか)」



 ゆっくりとパティ達の居る場所に降り立つネム。


「ユーキ‼︎」


 ユーキに駆け寄るパティ達。

 

「お姫様を目覚めさせるにはキスをするのが定番よね!」


 ウェディングドレス姿に戻っているユーキにキスをしようとするパティ。


「ハイハイ! ふざけてないで治療しますからね!」


 パティを押しのけてユーキの治療を始めるセラ。


「なによセラ! 今がチャンスだったのにー!」

「いや、ダメだろう」

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