第30話 姉様という響きが気に入ってる今日この頃

 ユーキとネムのやり取りを、羨ましそうに見ているパティ達。


「さっきから何を遊んでいるんだ? あの2人は」

「な、何よあの娘! ユーキとあんなに楽しそうに……ムキィィィィ‼︎」


 セラの頭を握りながら悔しがるパティ。


「い、痛い‼︎ 痛いですパティちゃんー‼︎ 頭がひょうたんになっちゃいますぅ‼︎ お酒を入れられちゃいますぅ‼︎」




 さっきまで楽しそうに笑っていたネムが、急に真面目な顔になる。


「さあ姉様! いつまでもふざけてないで、真面目にやりましょ‼︎」

「いや、仕掛けて来たの君だよねー‼︎」



 ようやくネムより策を聞いたユーキ。


「そんな事が出来るの⁉︎ いや、ぼくに出来るのかな?」

「さすがにSランクの魔獣をネム1人で倒すのは厳しいから、絶対に姉様にもやってほしいの! 大丈夫‼︎ 姉様なら出来るわ‼︎」

「根拠は?」

「女の勘‼︎」


「勘かよ! でもまあ、それしか手が無いって言うなら、やるしかないよね‼︎」

「そういう事! じゃあやるわよ‼︎ ハイ魔石!」


 ネムより渡された青い魔石を受け取るユーキ。

「オーケー‼︎」



 2人同じ様に魔石を床に置き、揃って魔道書のページをめくり同じ魔獣が描かれたページで止め叫ぶ。


「召喚‼︎ フェニックス‼︎」


 床に置かれた魔石を囲む様に魔方陣が現れ、炎をまとったフェニックスが召喚される。



「フェニックス‼︎ そうか! 同じ様に飛行タイプの魔獣を召喚して、リンドブルムに対抗するつもりなんですね」

「いや、あれではダメだ」


 ビストが口を挟んで来る。


「え? ダメとはどういう事ですか?」

「オーナー自身はレベルが低いとはいえ、あのリンドブルムには最高ランクの白魔石が使われている。でも今、あの娘達が使ったのは2つもランクの低い蒼天石だ……フェニックス自体は同じランクSの魔獣だけど、この魔石の差は大きいよ」


「だがそれは、あの娘も分かっている筈だ……何か策があるのかもしれない」




「じゃあ姉様! 観客を驚かせてあげましょ!」

「う、うん! やってみる」


 2人揃って、魔道書をペンダント状態に戻し叫ぶ。



「獣魔装‼︎」


 召喚されたフェニックスが光に包まれ、ユーキとネムそれぞれと重なり合い、共に光に包まれる。


「あの感じは、まさか⁉︎」


 光が消えると、フェニックスをイメージさせるような鎧と翼をまとった2人が現れる。



「なんですってぇー‼︎」

「魔獣を鎧に変えてまとったんですかぁ⁉︎」

「ふむ……召喚士が魔装するのさえ初めて見たのに、更に魔装を重ねるなど……末恐ろしい娘達だな」

「魔装の上に魔装を重ねるなんて……そんな事、可能なんですか?」

「おそらくは、召喚士が誰でも出来る訳では無いだろう! ネム君の才能と、ユーキ君の特殊能力があればこそだろう」




「飛ぶよ‼︎ 姉様‼︎」

「う、うん‼︎」


 翼を広げ、凄まじい速さで飛び立つネムとユーキ。


「は、速い‼︎」



 空を徘徊していたリンドブルムの前に現れるネム。


「と、止まんないー‼︎」


 だがユーキは止まる事が出来ずに、そのまま上空に飛び去って行く。


「え! 姉様? どこまで行くの⁉︎ ストップストーップ‼︎」

「速すぎて思う様に飛べないんだよー‼︎」


 その様子を見たリンドブルムが、ユーキに狙いを定めて襲いかかる。


「くっ、あいつー! ネムを無視すんなー‼︎」


 リンドブルムの後を追うネム。

 リンドブルムがユーキに向けてブレスを放つ。


「姉様‼︎ よけてー‼︎」

「え? くっ、このお‼︎」


 何とか方向を変えてブレスをかわしたユーキ。


「姉様‼︎」


 ネムがユーキに追いつき、手を取り誘導するように一緒に飛行する。


「姉様、大丈夫?」

「う、うん……ありがとう、ネム……ところでこの姿って、どうやって戦えばいいの?」

「フェニックスは全身が武器みたいな物なの! だからこのまま勢いを付けてぶち当たればいいんだけど……」

「だけど?」


「無差別に突っ込んだら、中の人まで殺しちゃう可能性があるから……」

「そうか……リッチの居る場所を特定しないと、迂闊には突っ込めないんだ……ネム、場所は分かんないの?」


「食べられた訳だから、胴体のどこかだとは思うんだけど」

「そっか……なら手足は攻撃してもいい訳だ!」

「そうなるわね! 姉様、もう飛べる?」

「な、何とか頑張ってみる!」

「じゃあやりましょ!」

「お、おう!」


 ユーキから手を離し、炎を吹き上げながらリンドブルムに突っ込んで行くネム。

 ネムの攻撃はリンドブルムの右腕を斬り飛ばすが、ユーキは上手く飛ぶ事が出来ず、どこにも当たらずに通り過ぎてしまう。


「姉様‼︎」


 再びネムがユーキの手を取り、ぐうっと大きく旋回してリンドブルムに突っ込む2人。

 ユーキ達の方に向き直り、ブレスを吹くリンドブルム。


「姉様! 離すよ!」

「うん!」


 ブレスをかわすように離れた2人が、共に炎を吹き上げながら突っ込んで行く。

 今度は2人共上手く命中して、リンドブルムの両足を斬り飛ばす。


「グギャアアアア‼︎」


 またユーキの手を取り旋回するネム。



「翼を狙えば落とせるけど、この高さから落ちたら多分中の人死んじゃうよねー?」

「それはダメだ! 何とかしてリッチを引きずり出さないと!」




「それにしてもあの2人、Sランクの魔獣を相手によく戦ってますよね」

「まあSランクとは言っても、召喚したリッチのレベルが低いという話だから、リンドブルム本来の強さでは無いのだろうが……」

「だとしても凄いわよ……あのネムって娘、少なくともレベル5……あるいはそれ以上だわ」




(どうする? 迂闊に突っ込んだり無理矢理落としたりしたら、中のリッチが死ぬ恐れがある。かといってこのまま何もしなかったら、リッチの魔力が保たないだろうし……何とかリッチの居場所、もしくは魔石の場所が分かれば……あっ‼︎)




「姉様! もう一度行くよ!」

「ちょっと待って! ネム‼︎」


「なぁに? 姉様……おトイレ?」

「違わいっ‼︎」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る