第29話 イタズラっ娘、世にはばかる

「行くわよ‼︎ 姉様‼︎」


 リンドブルムに向かって走って行くネム。


「え⁉︎ 質問の答え……んもうっ!」


 ネムを追うように走って行くユーキ。



「姉様‼︎ ネムが突っ込むから、援護お願い‼︎」

「え⁉︎ 突っ込むってそのまま⁉︎」


 ユーキが聞き返した時、すでにネムは攻撃を仕掛けるべく、10メートル程の大ジャンプをしていた。


「んもうっ! 人の話聞かない娘だなぁ!」


 ロッドを数回回してから、魔法を放つユーキ。


「バーニングファイアー‼︎」

 

 巨大な炎の塊がリンドブルムに直撃した直後、ネムのかかと落としが頭部に炸裂し、強烈に床に叩きつけられるリンドブルム。


「グフゥゥゥ‼︎」

「す、凄い威力……」


 ネムの攻撃に驚くユーキ。


「えと……何の質問だっけ? 姉様⁉︎」

「え? あ、えと……なんだっけ⁉︎ あ、そうだ! ロロ! ロロって何者‼︎」



 ネムが質問に答える前に、リンドブルムがネムに向かってブレスを放つ。


「グオオオ‼︎」

「ネム‼︎」


 素早い動きでブレスをかわし、リンドブルムに接近して行くネム。


「ムチャするなぁ……マーキュリー‼︎」


 リンドブルムの頭上から水の塊を落とすとブレスが止まり、その隙にネムがリンドブルムの下に潜り込む。


「姉様、ありがと‼︎」


 飛び上がり、リンドブルムの下顎にアッパーカットを打ち込むネム。


「ガアアアア‼︎」


 リンドブルムの頭部が跳ね上がった隙に距離を取り、横っ飛びして胴体部分に蹴りを放つネム。


「やああああ‼︎」

「グフゥゥ‼︎」


 再び前のめりに倒れ込むリンドブルム。



「あっ! 質問なんだっけ⁉︎」

「ロロの事‼︎」



 ネムの戦いぶりを見て、驚いているパティ達。


「凄いわね、あの娘……魔装状態とはいえ、素手の格闘であの破壊力」

「ふむ……しかも、未だ魔法を使っていない……まあ、あれがネム君の戦闘スタイルなのかもしれないが」





「察しの通り、ロロは召喚獣だよ!」

「人型の召喚獣なんてあるんだ? って、キスパーもそうか⁉︎」


「キスパーとロロはちょっと違うわ! もっとも、ロロはネムが召喚したんじゃないけどね」

「え? じゃあ誰が?」



 2人がやり取りをしているとリンドブルムが起き上がり、何故か天井に向けてブレスを放つ。


「ブオオオオ‼︎」

「あいつ、何を⁉︎」


 崩れた天井の破片が大量に落下してくる。


「あ、危っ! 危なっ!」


 必死に破片を避けるユーキ。


「マジックシールド‼︎」


 魔法による防御壁を張るセラ。


「ありがとうセラ!」

「ありがとうございます、セラさん!」

「ドンと来いですぅ」



 天井に、空が見渡せるぐらいの大穴を開けると、翼を広げるリンドブルム。


「まさか! 逃げる⁉︎」


 翼を羽ばたかせ、大穴から上空へ飛び立つリンドブルム。



「ホントに逃げた?」

「いけない!」

「ネム?」

「リンドブルムは、空の戦いでこそ真価を発揮するの……並みの飛行魔法では太刀打ちできないわ!」

「え⁉︎ じゃあどうすれば……」



「姉様! ネムの魔装、コピー出来てる?」

「え? 何でその事知って……あ、そうか! キスパーの時にずっと見てたんだっけか⁉︎」


「そうよ! だから魔装をコピー出来る事も、ヤマト兄様に変身出来る事も、姉様が元おっさんだっていう……笑えないギャグを言う事も、全部知ってるわ!」

「ギャグちゃうわ‼︎」



「で、どうなの?」

「あ、うん……ちょっと待って、見てみるから」


 ユーキがロッドのリボルバーを確認すると、中から銀色のカートリッジが出て来る。


「銀色だけど、セットした覚えは無いからこれだと思う」

「じゃあ今すぐ変身して!」


「う、うん……魔装‼︎」


 理由は分からないが、とりあえずネムの言う通りに召喚士に変身するユーキ。

 だが、魔装具がロッドから魔道書に変わったぐらいで、見た目には大して変化は無かった。



「見た目はあんま変わんないんだなぁ⁉︎ それでどうするの? あ! リンドブルムに対抗できる魔獣を召喚する、とか?」


「ウフフ、姉様! ちょっと耳貸して!」

「ん? 何?」



 ユーキの耳元に顔を近付けたネムだったが、いきなりユーキの耳にフッと息を吹きかける。


「ヒャアッ‼︎」


 驚いて、顔を赤くしながら耳を押さえるユーキ。


「なっ! なっ! なっ! 何すんだよー‼︎」

「ウフ、ごめんなさい! 姉様のかわいい耳を見てたらつい……」

「ついじゃないよ‼︎ それに、聞かれてマズイ事でもないんでしょ⁉︎ 何で耳打ちする必要があるのさ⁉︎」


「だっていきなり見せた方が、みんな驚くじゃない?」

「む……? ま、まあ一理あるな」


 アッサリ納得するユーキ。


「じゃあもう一度耳貸して!」

「うん……」


 再びユーキの耳元に顔を近付けたネムが、今度はユーキの耳をペロッと舐める。


「ヒイッ‼︎」


 また顔を赤くして耳を押さえるユーキ。


「舐めたー⁉︎ 今、舐めたー⁉︎」

「アハッ! 美味しそうだったからつい」

「もうヤダッ‼︎ このままで聞く‼︎」

「あんっ! ごめんなさい姉様ぁ‼︎ もう絶対やりませんからぁ‼︎」


 ジトーっと疑わしい目でネムを睨むユーキ。


「こういう時はパターン的に、絶対またやるんだ! 分かってんだから!」

「そんな定番のパターンやらないわよー! ね! 今度こそは真面目にやるから! お願い姉様‼︎」


 祈る様に手を合わせて懇願するネム。


「もう次で最後だからね……次またやったら殴るよ!」

「ハーイ‼︎」



 三度ユーキの耳元に顔を近付けるネム。

 少し耐えていたが、ガマン出来ずにパクっとユーキの耳に噛み付くネム。


「キャアッ‼︎」


 ポカッ‼︎


「痛あーい‼︎ 姉様が殴ったー‼︎」

 涙目で頭を押さえるネム。


「次やったら殴るって言ったよね‼︎」

「だってどうしてもガマン出来なくって……あ、でも姉様、キャアッ! とか言っちゃってかわいい‼︎」


 ポカッ‼︎


「2度もぶったぁ‼︎ ロロにもぶたれた事無いのにー‼︎」

「ア○ロレイかっ‼︎」



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