第18話 語尾を伸ばせば、誰でもセラになれる
「随分と騒がしいが、何事かな?」
エントランスの奥から、リッチが現れる。
「あいつは?」
「奴がオーナーの、ゲルト・リッチだ」
「そう、あいつが誘拐犯の親玉って訳ね」
「お客さんですか……僕に何か御用ですか?」
「とぼけるんじゃないわよ、この誘拐犯が‼︎ 今すぐユーキを返しなさい! そうすれば、半殺しぐらいで勘弁してあげるわ‼︎」
「誘拐とは人聞きの悪い……彼女は僕の妻とする為に、この屋敷に招待したのです」
「な、ん、で、す、っ、てえー」
今にも怒りが爆発しそうなパティ。
「ロロ君!」
リッチが呼ぶと、奥からロロに後ろ手に掴まれたユーキが現れる。
「ユーキ‼︎」
「パティ! それにみんなも!」
ウエディングドレス姿のユーキを見たパティ。
「ユーキ……その格好……」
「い、一応言っとくけど、好きでこんな格好してるんじゃないからね‼︎」
「分かってるわユーキ! こいつらを片付けたら、そのままあたしと結婚式を挙げましょう‼︎」
「全然分かってなーい‼︎」
「ああー! パティちゃんずるいー! ユウちゃんと結婚するのはぁ、私なんですからねぇ!」
「いいや、私だ!」
「え? い、いや! 僕とです!」
パティに乗っかるアイバーン達。
「みんなして乗るなー‼︎」
「いや、俺と結婚しよう‼︎」
ついでに乗ってくるザウス。
「お前もかよっ!」
「わざわざユーキを連れて来てくれるなんて……これで探す手間が省けたわ」
「おっと! ユーキさんを連れて、旨く逃げようなんて思わない事です……これを見てください」
そう言ってユーキの腕を掴み、手首にある拘束具をパティ達に見せるリッチ。
「この魔道具には魔力を封じる術式が施されていて、これをユーキさんの両手両足の4カ所に着けています。外す為には専用のカギを使わないといけませんが、そのカギは四天王がそれぞれ一つずつ持っています……もうお判りですね?」
「四天王を倒して奪え……という事か……」
「その通り! 僕はゲームが大好きでして、こういう状況になる事を想定して、あらかじめ準備しておいたんですよ」
「揃いも揃ってとぼけていた訳か……ならば我々の事も調査済みなのだろう?」
「フフフ!」
「力ずくで外す、と言う手もあるが?」
「それはおすすめしません……強引に外そうとすると、中に仕込まれた毒針が飛び出す仕組みになっていますので……もしその毒を受けたら、10分と保たずにあの世行きとなるでしょう」
(いいっ! さっき結構強引に外そうとしたけど、大丈夫か?)
リッチの発言を受けて、セラと小声で話すパティ。
「今の話、どう思う? セラ」
「毒針の事ですかぁ? おそらくはハッタリですぅ……でも決定的な証拠が無い限りぃ、うかつな行動は取れないですぅ」
「今はあいつの言うことに従うしかない訳か……」
「実はベルクルの闘技場で闘うユーキさんを中継で見て一目惚れしましてね……みなさんがこの街に来るという情報を入手したので、ユーキさんを誘い出す為に今回のイベントを開催したんですよ」
(マジかっ!)
「何よ! あたしだって初めてユーキと出逢った時に、一目惚れしてるんだからね‼︎」
「何を張り合っているんだ? パティ君」
「では、ルールを決めたいと思います……四天王達とあなた方がそれぞれ戦って、勝った者は他の戦いに加勢する事を良しとしますが、1度負けた者は回復魔法などで、例え戦える状態になったとしても、他の戦いに参加する事を禁止します……」
「そして見事4つ全ての鍵を奪い取り、ユーキさんを救出できればあなた方の勝ち……その前にあなた方が全滅すれば我々の勝ち……ユーキさんは僕が頂きます」
「ぼ、僕の意志は……?」
「4対4の形式ではあるが、実質生き残り戦という事か」
「そういう事です」
「さて……それではゲーム開始と行きたいんですが、もっと緊張感を出す為に制限時間をもうけたいと思います」
「制限時間ですって?」
「ノーム君!」
「ハイ……デスタイム!」
ノームが魔法を発動させると、ユーキの両手足に着けられた魔道具から、黒いオーラが溢れ出す。
「な! 何だこれ? ……ふあっ」
急に身体中の力が抜けた様に座り込むユーキ。
「ユーキ‼︎」
「今、死の呪いを発動しました……とは言ってもすぐどうこうなる物では無く、完全に発動するのは約1時間後……それまでに 4つ全ての魔道具を外さなければ、ユーキさんは死にます」
「なん……だって……?」
へたり込みながら、リッチを見上げるユーキ。
「もっとも……それまでにユーキさんが僕のプロポーズを受けてくれれば、すぐにでも外してあげますけどね」
そう言ってニヤリと笑うリッチ。
「何……考えてんだ……あんた」
「いい加減にしなさいよー、あんたー‼︎」
パティから黒いオーラが溢れ出し、今まさにリッチに飛びかからんとした時、ユーキの後ろに居たロロがリッチの頭部めがけて、突如後ろ回し蹴りを放つ。
「何っ‼︎」
背後からの突然の攻撃に対処する事が出来ず、直撃を受けて吹っ飛ぶリッチ。
「ぐわあっ‼︎」
すぐさまユーキを脇に抱えて、凄まじい跳躍力でセラの近くまでひとっ飛びで到達するロロ。
「セラさん! ユーキさんをお願いしますです!」
「こっちへ‼︎」
ユーキの呪いを解除しようと駆け寄るセラの前に魔方陣が出現して、突如ノームが現れる。
「そうはさせませんよ……あなたは私と来てもらいます」
「なっ?」
そう言ってセラに触れると、一瞬で姿が消えるセラとノームの2人。
「セラ‼︎」
「セラさんが消えた?」
「転移魔法か?」
「ハッ! ユーキ‼︎」
ロロにより助け出されたユーキの元に駆け寄るパティ。
「ユーキ! 大丈夫? 苦しくない?」
「パティ……うん、大丈夫ぅ……ちょっと身体に力が入らないだけだからぁ」
「そう……良かった……」
ロロの方を見るパティ。
「もしかして、あなたがロロ?」
「ハ、ハイなのです! 私がただ今ご紹介に預かりました、ロロなのです!」
「誰も紹介してないわよ……それであなたは……味方?」
「私は今回のイベントの為だけに雇われた臨時メイドなのです! でも先程ユーキさんに買われたので、今はユーキさんの奴隷なのです!」
「ユーキ……あなたまた?」
「ま、またってなんだよぉ〜……力入んないんだからぁ、ツッコませないでぇぇぇ〜」
力無く否定するユーキであった。
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