ひめてん〜姫と天使と悪魔と猫〜

第17話 サンドバッグ？ サンドバック？

　食事を終えたユーキ。

「ふうっ！　生き返ったー！　メル君に負けず劣らず美味しかった……ところで、ロロ」

「ハイ！　何ですか？」

「何で君はこんなとこで働いてるの？　その……あんな誘拐犯の元で」

「仕方ないのです……これも仕事なのです……背に腹はかえられないのです」

「生活の為って事？　ならさ！　僕が君を雇うってのはどう？」

「はわっ！　お、お金でロロを買うと仰るのですか？　ロ、ロロはそんな安い女ではないのです！　主に忠実なのです！　忠犬ロロなのです！」

「いや、変な言い方すんな！」

「別にお金で買うとかじゃなくてさ……もし、生活費の為に嫌々働いてるなら、僕達と一緒に来ないかな？　って思っただけで……あ、僕達はいずれこの街を出て行くから、それでも良ければ、だけど」

「元々流浪の身なので、別に街を出る事に問題はないのです……ただ……」

「ただ？」

「連れて行ってくれるなら、ロロの主も共にお願いしたいのです」

「え？　主って、リッチの事？」

「違うのです！　あんな女好き野郎はロロの主ではないのです！」

「え？　じゃあ君の主って誰？」

「ユーキさんは、もうすでに主と会っているのです」

「え？　すでに会ってるって……一体誰だ？」

「ぶフッ！　ここにユーキたんが居るでフ」

「本当かね？　何故そんな事が分かるんだ？」

「すでに召喚獣を放っているんでフ……その召喚獣から状況が伝わって来るんでフ」

「そうなのか？　中々便利な物だな……さて、ではどうするか？　迂闊に飛び込むとユーキ君を盾にされる恐れがあるし……」

　アイバーンが作戦を考えていると、キスパーが考え無しに突っ込んで行く。

「ユーキたーん‼︎」

「なっ‼︎　ま、待ちたまえキスパー‼︎」

「侵入者だー‼︎」

　すぐに警備兵に見つかるキスパー。

「な、何を考えているんだ？　奴は……」

「こっちにも1人居るぞー‼︎」

　アイバーンも見つかってしまう。

「くっ！　こうなったら仕方ない‼︎　強行突破するぞ！　キスパー‼︎」

「ハイでフ‼︎」

　イベントの閉会式に参加しているリッチに、屋敷に侵入者が来た事が知らされる。

「そうか……やはり来たか……すぐに戻る」

　警備兵を一瞬で叩き伏せて行くアイバーンと、ただの突進で弾き飛ばして行くキスパー。

「クソッ！　何だこいつら？　強過ぎる！」

「さあ！　怪我をしたくなかったら、道を開けたまえ‼︎」

　外の警備兵を全員倒し、屋敷の中に入るアイバーンとキスパーの前に、またしてもあの男が現れる。

「よお！　金の変態！　何か用か？」

「貴様は！　四天王の、ざるそば‼︎」

「やっぱそばといえばざるそばだよな……違ーう！　俺の名はザウスだと言ってるだろ！　微妙に言葉の響きが似てるだけじゃねーか」

「こちらは真剣なんだ！　悪いが貴様のおふざけに付き合っているヒマは無い！」

「いや、お前が先に言ったんだろうがっ‼︎　ちっ！　まあいい……それで、何しに来たんだ？　金の変態！」

「知れた事！　貴様達が連れ去ったユーキ君を取り返しにだ！　……それと、一つ言っておく……私は金の変態ではない！　黄金の変態だっ‼︎」

「そっちを訂正すんのかよ‼︎」

「さっきから何、漫才やってるんだい？」

　四天王の残りの3人も現れる。

(見慣れない顔があるな……あれが四天王の最後の1人、という訳か……)

「いらっしゃい、お二人さん！　あれ？　ユーキちゃんは居ないのかい？」

「とぼけるなでフ！　ユーキたんがここに居る事は分かってるんでフ！　大人しく返すでフ！」

「とんだ言いがかりだよー！　でもそう言い張るなら、僕達を倒してから探してみればいいよ」

「言われずとも、初めからそのつもりだ！」

「4対2で勝てるなら、だけどね‼︎」

　バガーン‼︎

　一触即発の状態になった時、突然アイバーン達の後ろにあった玄関のドアが凄まじい勢いで飛んで来て、キスパーに直撃する。

「ぶフおおおお‼︎」

「ユーキー‼︎　助けに来たわよー‼︎」

「もう、パティさん！　派手過ぎますよー！」

「殴り込みですぅ」

「パティ君？　メルクにセラ君まで、何故ここに？」

「ユーキを助けに来たって言ったでしょ！　セラのストーカー能力で大体の状況は分かってるわ」

「ぶぅー！　ストーカーじゃ無いですぅ」

「あと、むざむざユーキを誘拐されたアイ君！　後でサンドバッグの刑ね！」

「うぐっ……返す言葉も無い……」

　四天王を見るパティ。

「4人居るって事は、あいつらが四天王ね？」

「あ、ああそうだ」

「プッ！　いまどき四天王とか……」

「ああ！　君、今笑っただろー！　僕達だって好きで四天王とか言ってるんじゃないんだからねー‼︎」

「何っ‼︎　そうだったのかー？　俺はてっきりみんなノリノリで言ってるもんだとばかり」

　ぶっちゃけるエストに驚くザウス。

「そう言えば、キスパーって召喚士なんだってね？」

「そんな事まで知っているのか？」

「あのワイバーンを召喚出来る程の召喚士が味方なら、これ程心強い事はないわ……魔獣を召喚しまくって、あいつらを蹂躙してやりましょう！　さあ、そのキスパーはどこ？」

「いや……さっきパティ君が吹き飛ばしたドアの下敷きに……」

　パティの前方を指差すアイバーン。

「え？」

　ドアの下敷きになっているキスパーを見て、冷や汗を垂らすパティ。

「さ、さあ！　正々堂々、4対4で戦いましょ！」

「誤魔化したね？　パティ君」

「誤魔化しましたね」

「誤魔化したですぅ」