第16話 ロリじゃないよ! ロロだよ!

「ん……あれ? 僕どうなって……」


 ベッドの上で目覚めたユーキが体を起こすと、自分がウエディングドレスを着させられている事に気付く。


「なっ! なんじゃこりゃあああ‼︎」


「はわあっ‼︎ ビックリしましたー……いきなり大きな声出さないでくださいよー」


 部屋の隅に座っていた、メイド服を着た白くて長い髪の女性が驚きの声を上げる。



「え、君誰? ここはどこ? 僕、一体どうなったの? 何で僕こんなとこで寝てたの?」


「はわわわ! いっぺんに質問しないでほしいです……一つずつお答えするのです。えと、私のスリーサイズですか?」

「いや聞いてねーわ!」



「冗談ですよー、私の名前はロロ……主(あるじ)よりユーキさんの事、諸々を任されているのです」



「ロロって言ったっけ? ここはどこ?」

「ここはオーナー、リッチさんのお屋敷なのです」


「リッチの屋敷? 何で僕そんなとこに……」

「ユーキさんがイベント中に倒れたので、屋敷に連れて来たって聞いてるです」


「倒れた? 確か僕、アイ君と逃げてて……ハッ! ロロ! 今って何時?」

「えとー、今は午前10時なのです」


「午前10時? 一晩中寝ちゃったのか? てかもうすぐイベント終わっちゃうじゃないかー‼︎ 早く戻んないと!」


 ベッドから降りようとしたユーキだったが、ドレスの裾を踏んで転んでしまう。

「あうっ!」


「はわっ! 大丈夫ですかー?」

「忘れてた! 何で僕ドレスなんか着てんだよ‼︎」

「オーナーの指示で私が着替えさせていただいたのです」


「もうっ! 着替えるから僕の服返して!」

「何だか濡れてたし、ちょっと匂いがしたから洗濯に出してるのです。だから今ここには無いのです」


「川に落ちたからなー……いや時間が無い! もうこのまま行く!」


 ユーキが部屋から出ようとドアノブに手を掛けるが、ピクリとも動かない。


「何だ? 動か……ない……」

「申し訳ないですが、この部屋からユーキさんを出さない様に言われてるのです」

「え? それってどういう?」



「やあ、お目覚めですか? ユーキさん」


 部屋の壁にある巨大なモニターにゲルト・リッチと、その後ろに並ぶ四天王の姿が移し出される。


「ゲルト・リッチ! とあいつらは!」

「ご気分はいかがですか? ユーキさん」

「たった今、最悪になったよ……なるほど、全部あんたの差し金って訳か」


「四天王が少々手荒な真似をしたみたいですが、全ては君をこの屋敷に招待する為だった、許してください」

「招待? 誘拐の間違いだろ?」


「そう思われても仕方ないですね……でもこのまま旅を続けていたら、あなたはどこかで命を落とすかもしれない……それなら旅などやめて、僕とこの屋敷で暮らす方が幸せになれます」


「勝手に決めつけんな! 僕は自分の意志で旅をしてるんだ! あんたにとやかく言われたくない。悪いけど、帰らせてもらうよ!」



 魔装具を具現化させようとペンダントを掴むユーキだったが、何故か何も起こらない。


「フフ、無駄ですよ……あなたの魔法は封じさせてもらいました」

「え? 封じた?」


 ユーキが自分の手足を見ると、両手首両足首にリストバンドの様な拘束具が着けられている。


「何だこれ? は、外れない!」


「それを外すには、この専用の鍵が必要です……僕のプロポーズを受けてくれるなら、すぐにでも外してあげますよ?」


「そんなの、完全に脅迫じゃないかー! こんな事されて受ける訳ないだろ!」


「すぐに結論を出す必要はありません……そこでゆっくり考えてください。それじゃあロロ君、ユーキさんのお世話を頼んだよ」


「ハイ! 頼まれましたです」


 モニターの映像が消える。


「あ、待てコラ! この誘拐犯ー‼︎」



(クソッ! 誘拐して閉じ込めて魔法まで封じて……これでオーケーするとか、本気で思ってんのか? あいつ。ハッ、待てよ? オーナーが黒幕だったのなら、景品も貰えないって事か……はあ、ガッカリだ)


(アイ君達、無事かなー? 僕がさらわれた事、気付いてるかなー? また助けに来てくれるかなー? ……こうなったらまず僕がやるべき事は!)


「ロロ‼︎」

「ハ、ハイです!」


「お腹すいた! 何か食べるもの頂戴!」

「ハイ、分かりましたです! 少々お待ちくださいです」


 部屋の端にあるキッチンで、料理を作り始めるロロ。


 昨晩から何も食べてないので、まずは腹ごしらえをする事にしたユーキ。





 街を歩いているパティ、メルク、セラの3人。


「さあ、どんな服が似合うかしら?」

「やめましょうよー、パティさーん」

「ダメよ! うんと可愛くしてユーキをビックリさせるんだから……ねえ、セラ?」


「……」


「セラ?」


「あ、ハイ! 呼びましたかぁ? パティちゃん」

「どうしたの? あなた昨日からボーッとして、変よ?」


「パティちゃん!」

「何? セラ」

「魔装具はいつ完成しますかぁ?」

「え? 多分もうそろそろ出来てる頃だと思うけど、それがどうしたの?」

「なら、早く取りに行った方がいいですぅ」

「どういう事?」

「ユウちゃんがピンチですぅ……私達の助けを待ってますぅ」


「え? ユーキが? ど、どういう事よ? セラ‼︎」

 セラの肩を掴んで激しく揺するパティ。


「ユ、ユ、ユウちゃんがぁ、あ、あ、そ、そんな、にぃ、ゆ、ゆすらないでぇ、え、き、気持ち悪っ、う、うぷっ!」


 羽をユーキに追尾させて、ずっと様子を見ていた事、ユーキがリッチの屋敷に幽閉されている事をパティに伝えるセラ。



「な! な! な! なんですってえええ‼︎」

「一度フラれたのに、力尽くで誘拐して屋敷で一緒に暮らそうだなんて! うらやま、いや許せない‼︎」


「今はまだ無事ですがぁ、あのオーナー、何をするかわかりません……急いだ方がいいですぅ」


「分かったわ! すぐ魔装具取りに行って来るわ!」




 ダッシュで魔装具屋に到着したパティ。


「おじさんっ‼︎ あたしの魔装具出来てる?」

「やあパティちゃん! バッチリ出来てるよ」

「良かった、すぐに所有権の譲渡をお願い!」

「あ、ああ……何やら急ぎのようだな?」


 魔装具の所有権の譲渡が無事終わる。


「ありがと! 料金、ここに置いておくわね!」

「あ、パティちゃん! 最初に魔装する時は……」


 しかし、すでにパティは店を飛び出していた。

「まあ、パティちゃんなら何とかするか」


 パティの置いて行った料金を確認する店主。

「おいおいパティちゃん、こりゃ多過ぎるよ……まあ、今度来た時にはいっぱいサービスしてやるか」



 待っていたセラ達と合流するパティ。


「お待たせ! セラ! メル君! さあ、行くわよ!」

「ハイ! 行きましょう!」

「行きましょぉ!」


「ユーキを助けに‼︎ あとユーキをむざむざ誘拐された、不甲斐ないアイ君をぶっ飛ばしに‼︎」





 ブルッ‼︎

 身震いするアイバーン。



「大丈夫でフか? 寒いんでフか?」


「いや……ちょっと背筋に悪寒が走ったものでね」

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