第11話 肉団子、再び

「さあ、そんな変態はほっといて俺達と来てもらおうか」

「だから行かないって言ってるだろー!」

「そうか……なら仕方ない……力尽く、という事になるな」


 ユーキの周りを取り囲む部下の男達。


「はあ……結局こうなるのか……」


 ユーキが魔装具を具現化させようとペンダントに手を添えると、服を着たアイバーンが制止する。


「待ちたまえ、ユーキ君」

「アイ君?」

「ここは私がやろう」

「え? でも……」

「まだ先は長いんだ、魔力を温存したまえ」

「う、うん……じゃあ任せるね」

「ああ」


「何だ変態? 彼氏じゃないなら引っ込んでな!」

「そうはいかない……たとえ彼氏でなくとも、少女のピンチを黙って見過ごすなど、男の恥だ!」

(頻繁に服を脱ぐのは恥じゃないのか?)

 心の中でツッコむユーキ。



「なら、邪魔者から先に片付けるまでだ」

「君、知っているかね?」

「ん? 何がだ?」

「そういうセリフは雑魚キャラが使うものなのだよ?」


「スカしてんじゃねぇ! やっちまえ‼︎」

「そういうセリフも雑魚キャラの物だ」


 部下の4人が、アイバーンの四方を取り囲む。

「ユーキ君、少し離れていたまえ」

「う、うん……気を付けて」


 距離を取るユーキ。

 魔装具を具現化させるアイバーン。


「やれ‼︎」

 ザウスの号令で、同時に襲いかかる4人の男。

 その4人全員をほぼ同時にたたき伏せるアイバーン。

「ぐわあっ‼︎」

「ぐっ!」

「ぎゃあ‼︎」

「あぐっ!」


「何だとおお‼︎ お、お前! 一体何者だ? 剣も抜かずに4人を同時に倒すなんて?」


 驚くザウスと、同じく疑問を持っていたユーキ。

(そうなんだよ……アイ君って、ワイバーン戦の時も一度も剣を抜いてないんだよ……いつも鞘に入ったままの状態で殴るだけなんだ……何でだろ?)


「さあ、残るは君だけだ」

「けっ! 俺をそいつらと同じと思うなよ!」

「期待しよう」


 ザウスがペンダントを引くと、アイバーンと同じような大剣が現れる。


「同じタイプの魔装具か……ランクもほぼ同じようだね」

「あとは魔力次第って事だ」

「ふむ……ユーキ君! 少し手こずりそうだ……もう少し距離を取った方がいい!」

「あ、うん……分かった!」

「だが、あくまで私の目の届く範囲に居るように!」

「イエス、サー!」



「アイ君が警戒するなんて……かなりの実力者って事か?」

 アイバーンから離れるユーキがふと上を見ると、崖の上に宝箱らしき物を発見する。

「あれってもしかして宝箱か? 周りに人は……居ないな? よし! 今の内にゲットしとこ」



「さあ、剣を抜きな! それとも錆びてて抜けないのか?」

「フッ、必要ならば抜くさ」

「いつまでも涼しい顔で居られると思うなよ!」


 ザウスが抜いた剣を横に構え、柄の方から剣先に手でなぞって行くと、刀身が炎に包まれる。


「やはり炎使いか……まあ紅蓮の、と言うぐらいだから当然と言えば当然か……それで風使いだったら笑ってしまう」

「何ごちゃごちゃ言ってんだ! 行くぜ!」



 その頃、崖の上に上がって来たユーキが宝箱を開け、景品の目録をゲットする。

「よし! まだ中身入ってた、ラッキー!」

 だが、中を確認しようとした瞬間、ユーキの座っていた場所が岩ごとボロっと崩れ落ちる。

「へ? 嘘……にゃああああああ‼︎」

 そのまま谷底へ落ちて行くユーキ。



 その声はアイバーンにも聞こえていた。

「にゃああああああ‼︎」

「ユーキ君?」

 ドボーン‼︎

「な? まさか、川に落ちたのか? ユーキ君‼︎」

 だが返事は無い。


「くっ! ザウスとやら! 勝負は一時預けた!」

 声のした方へ走って行くアイバーン。

「あ、おい! 逃げんのかー‼︎」


「ちっ! 仕方ねえなー、生かして連れて来いって言われてるしな……おいお前ら、起きろ‼︎ 俺達もあの女探しに行くぞ‼︎」



 ずぶ濡れになりながら、何とか岸に辿り着いたユーキ。

「はあ……どうも僕ってテンパると飛行魔法忘れちゃうんだよなー」


 身震いするユーキ。

「寒っ‼︎ な、何か燃やす物燃やす物」

 辺りに落ちている木切れや木の葉を集めて火を点けるユーキ。


「日も落ちて来たし、着たままじゃ乾かないか……仕方ない」


 リュックを降ろし、上着とズボンを枝で作った即席の物干し竿にかけて乾かすユーキ……今は下着の上にインナーを一枚着ている状態だ。


 リュックを開けて中の状態を確認してみる。


「ゔぇ……やっぱり中までびしょ濡れかー……せっかくメル君にお弁当作ってもらったのに……」


 グウッ

 弁当がダメになったと思うと、急に腹の虫が騒ぎ出す。


「ひもじい……乾かしたら食べれないかなー?」


 ユーキが弁当に未練を感じていると、茂みから人影が出て来る。

(誰か来る?)


 咄嗟に乾かしていた服を取り身体を隠すユーキだったが、まるで少女のような自分自身のリアクションに顔を赤くして、地団駄を踏むユーキ。


(な、何だ今のリアクションはー? 僕は乙女か? 乙女なのかー‼︎)



「やあこんにちは……僕は四天王の1人、激流のエスト……君、ユーキちゃんだよね?」

(またか……)

「あ、いえ……人違」

「人違いなんてネタは通用しないよ? ほら、ちゃんと写真もあるし」

「チッ!」


「聞いたよ……さっきザウスに会ったんだって? なら僕の用件は分かるよね? あ、逃げてもムダだよ? 周りには僕の部下が潜んでるからね」

「だから行かないって言ってるだろー! それにこんなカッコの女の子の前に現れて脅すなんて、男として恥ずかしく無いのか!」



「男? ああゴメン……僕、女だよ?」

「へ? 女、の子?」

「うん、因みに隠れてる部下もみんな女だから安心して」

「そう、なんだ……」

(しまった……それを口実に断ろうと思ってたのに、どうしよ?)


「わ、分かった……行くよ……でも服ぐらいは着させてよ」

「ああ勿論、どうぞ」

「そ、そんなジッと見られてたら恥ずかしい」

「ハハ! 照れ屋さんだなー、じゃあ後ろを向いてるからその間に着なよ」


 そう言ってユーキに背を向けるエスト。

 それを見計らい、素早く服を着てリュックを背負い、物音を立てない様にゆっくり離れて行くユーキ。

(うう、背中が冷たい)


「もういーかい?」

「まーだだよー‼︎」


「もういーかい?」

「まーだだよー!」


「もういーかい?」

「まーだだよー」


「もういーかい?」

「……」


「ユーキちゃん?」

「……」


 エストが振り返ると、すでに数十メートル先を走っていたユーキ。


「フウッ、やっぱり逃げたかー」




 追いかけて来る様子が無いので不思議に思い、後ろを振り返るユーキ。

「あれ? 何で誰も追いかけて来ないんだ? まさかまだ律儀に後ろを向いてる訳でも無いだろうに」


 再び前を向いた時、後ろに居た筈のエストがいきなり目の前に現れた。

「何ぃ‼︎」


 急制動をかけるユーキにエストが迫って来て、足を斬りつけられ転倒してしまう。


「痛っ‼︎ え? 何で? さっきまで確かに向こうに居たのに!」

(アイ君の得意なアイスミラージュ? いやでも、ずっと向こうで声を出してたし……)


「殺すなとは言われてるけど、傷を付けちゃいけないとは言われてないからね……さあ、これ以上痛い思いをしたくなかったら、一緒に来てよ」


 エストの部下達も集まって来て、囲まれるユーキ。


「さあみんな! ユーキちゃんをお連れして!」

 ユーキを捕まえようと、迫って来る部下。


(くそっ! 無駄な魔力使いたく無いけど、やるか!)

 ユーキがペンダントに手を添えた時、どこかで聞いた事のある声が響き渡る。



「愛の! フライング・ダイナマイト・ボディプレスー‼︎」



 崖の上から巨大な人影が、エストの部下めがけて落ちて来る。

 だがスッとかわされ、そのまま地面にめり込む人影。


「え? 今の技って……まさか?」

 ユーキには見覚えのある技を放った人影が、陥没した地面から這い上がって来る。


 それは以前、ベルクルの闘技場で闘ったあの男だった。



「お久しぶりでフ、ユーキたん」

「き、君は確か……あー、えとぉ……エスパー‼︎」

「キスパーでフ……僕は超能力者じゃないでフ」

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