第9話 洞窟と言ったら罠だよね
ようやく服を着るアイバーン。
「危ない所を助けたんだから、普通ここは熱い抱擁を交わすとこじゃないのかね?」
「ああそうねっ! 僕だってアイ君と合流出来て嬉しかったけど、あの格好を見せられるとねっ‼︎」
少し怒り気味に言うユーキ。
「ユーキちゃん……」
声をかけて来た男達の方に振り返り。
「分かったでしょ? 君達が倒せなかったサイクロプスを僕が倒した……つまり僕の方が強いって事! これでもう勝負しなくてもいいよね?」
「ほとんど私が倒したんだがね」
「アイ君、うるさい‼︎」
「ああ分かった……今回は引き下がるよ」
「良かった……分かってもらえたか」
(今回はってのが気になるけども)
「そもそもユーキ君は私の彼女なんだ……諦めたまえ」
そう言って背後からユーキを抱きしめるアイバーン。
「んなっ‼︎」
顔が真っ赤になるユーキ。
「この痴漢ー‼︎」
ユーキの掌底が、アイバーンのアゴを下から撃ち抜く。
「がはぁっ‼︎」
「な、な、な、何を言ってんだ君はー‼︎」
「いや、こう言っておけば諦めるかと思ってね」
「逆に変な噂が広まるだろー‼︎」
「私としては願っても無い事なのだが……」
「ん? 何か言った?」
「いえ何も」
再び男達の方に向き直り。
「いや違うからね?」
「そうか……やっぱり2人は付き合ってたんだなー」
「え? いやだから違うって‼︎」
「ああ、恥ずかしいからって隠さなくてもいいよ……2人のやり取りを見てたら分かるよ」
「完全に節穴だからー‼︎」
ユーキの絶叫が響き渡る。
ようやく納得して去って行く男達。
「ふうっ、やっと落ち着いた」
「さて、とりあえず合流も出来たし、これからどうするね? ユーキ君」
「うん、いきなり大量に魔石をゲット出来たから、今度は景品を探したいな」
「ふむ……どこか心当たりはあるかね?」
「そういうのは洞窟とかに有るのが定番なんだ」
「洞窟か……では行ってみようか」
「行ってみよー!」
水分補給しつつ、洞窟を探している2人。
ふとユーキがアイバーンに疑問を投げかける。
「ねえアイ君……」
「ん? 何だね?」
「僕ってかわいい?」
「ブーーーー‼︎」
唐突なユーキの質問に口に含んだドリンクを吹き出すアイバーン。
「ゴホゴホッ‼︎ い、いきなり何を言い出すんだ? ユーキ君‼︎」
「あ、いや……ベルクルの闘技場でも今回も、みんな僕に付き合ってって言って来るからさ……そんなに言う程かわいいのかな? ってちょっと思ったから」
「ま、まあ確かにユーキ君は他に類を見ない程かわいい」
「そうなんだ……じゃあアイ君も惚れる?」
少し小悪魔的な表情で質問するユーキ。
「なっ! あ、いや、その……わ、私はお、王国騎士という立場があああってだね……」
「ええー、じゃあ僕の事嫌いなんだー?」
「い、いやいや! 嫌いなどとは言っていない! も、勿論好きだとも!」
顔を真っ赤にしながら取り繕うアイバーン。
「フフッ、照れちゃって……かわいい」
「か、からかわないでくれたまえ! ユーキ君!」
そうこうしてる内に、いかにもという感じの洞窟を発見するユーキ達。
「あった! 洞窟!」
「ふむ……では入ってみるとしようか」
「うん、入ってみるとしよう!」
洞窟の通路は道幅高さ共に3メートル程あり、歩くには充分な広さだったが、灯りが無く奥に進むに従いどんどん暗くなって行く。
「ユーキ君……」
「な、何?」
「さっきから、何故私にしがみついているのかね?」
「ふえっ! い、いや……暗いからはぐれない様に、ね」
アイバーンの腕にしがみつく様にして歩いているユーキ。
「ユーキ君……」
「な、何?」
「もしかして……」
「な、何だよ?」
「怖いのかね?」
「んなっ! な、ななななな! な、何バカな事言ってんだよ? おお、乙女じゃあるまいし! こ、こんな暗闇が怖い訳ないだろ? ほら! 暗闇なんか平気だって事、証明してあげるよ‼︎」
思いっきり動揺しながら、強がってツカツカと前に出て行くユーキ。
「あ、ユーキ君! 不用意に進むのは危険だ!」
「大丈夫だよ! こんなのは多分、イベント用に作られた洞窟なんだから!」
そんなユーキの言葉を裏付ける様に、突然ユーキの足下の地面が、扉を開く様に大穴を開ける。
「へ?」
「ユーキ君‼︎」
体がほとんど穴に落ちた所で、アイバーンに腕を掴まれるユーキ。
「何とか掴めたか……大丈夫かね? ユーキ君‼︎」
「あ、うん……大丈夫、ありがとう」
「ところでユーキ君……」
「な? 何?」
「何故飛行魔法を使わないのかね?」
「あ……」
フライを唱えて、穴から上がって来るユーキ。
「いやー、普段空を飛ぶ習慣が無いから、つい飛行魔法忘れちゃうんだよね……ハハ、ハハハ……」
「ユーキ君が言うようにイベントの為に作られた洞窟ならば、他にも罠が仕掛けられていると見るべきだろう」
「うん、気を付けて進もう」
再びアイバーンの腕にしがみつきながら進むユーキ。
「ユーキ君……」
「な、何?」
「魔法で灯りは出せないのかね?」
「うーん……瞬間的に光を放つ事は出来るんだけど、小さい光や炎を持続して出し続けるのは結構難しいんだ」
「そうか……」
「何か燃やす物があれば、火をつけられるんだけど……」
「木の枝でいいなら持っているが?」
「え! 木の枝持ってるの?」
「役に立つかと思って、さっき拾っておいたんだが……」
「もう! それなら早く出してよ!」
「いや、暗闇ならユーキ君が頼ってくれるかと思ってね」
ほとんど聞こえないぐらいの声で呟くアイバーン。
「え? 何か言った?」
「いや、何も……」
「ファイアー!」
木の枝に火をつけるユーキ。
「よし! これならしばらくは保つぞ!」
木の枝をたいまつとして辺りを照らすユーキ。
その灯りをアイバーンの方に向けると、何故かまた海パン姿になっているアイバーンが浮かび上がる。
「脱ぐなあああ‼︎」
「ぐはぁっ‼︎」
ユーキの華麗な右ストレートが、アイバーンの顔面に炸裂する。
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