第4話 ユーキの誘い方、教えます

 会場中がザワつき始める。



「何だ? やけに騒がしくなったぞ?」

「オイ! あっちにユーキちゃんが居るらしいぞ!」

「マジか‼︎ サイン貰おう!」



 質問攻めにあっているユーキ。


「ユーキちゃん、いつこの街に来たの?」

「えと、昨日……」


「あれって本当に変身してるの? 幻術じゃなくて?」

「ほ、本当……」


「趣味は?」

「ゲームとアニメ鑑賞……」


「好きな食べ物は?」

「甘い物、かな?」


「ユーキちゃんって天使なの?」

「人間だよ……多分……」


「彼氏とか居るの?」

「いらない」


「今、何問目?」

「いや、クイズ番組か!」


 律儀に全ての質問に答えていくユーキ。



(何だよこれ? 僕はアイドルなんかじゃないぞ! みんな何を勘違いしてるんだ?)



「んーーーー」

 セラと同じように、幻術で隠しながら魔装具を具現化させるユーキ。

「さらば!」

 煙幕をはり、その隙にファントムウォールで姿を隠して脱出する。


「うわ! 何だこの煙?」




「ふう、やれやれ……何とか逃げられたな」

 ベランダに出て姿を現わすユーキ。

「まったく……まだほとんど料理に手を付けてないってのに! 何なんだ、この騒ぎは!」


「それだけあなたが魅力的だって事ですよ!」

 誰かが背後から声をかけてくる。


(げっ! また来た?)


 ユーキが振り返ると、そこに居たのはオーナーのゲルト・リッチだった。


「あ、えと……確かリッチ、さん?」

「ハイ、初めましてユーキさん」

「僕のこ……私の事、知ってるんですか?」


 主催者と言う事もあり、猫かぶりバージョンで喋る事にしたユーキ。


「ええ勿論……ベルクルでの闘いぶりは有名ですからね……素晴らしい試合でした」

「あ、ども……恐れ入ります」


「ところで、ユーキさんはゲームがお好きなんですか?」

「え? そうですけど、何で知って……ああ、さっきの質問を聞いてたとか?」

「え、ええそうです……僕も凄く好きなんですよ、ゲーム……今まで発売されたゲーム機は全て持ってる程です」


「マジで? あ……ほ、本当ですか?」

 興奮してつい地が出てしまったユーキ。


「ええ、本当です……どうです? もしよろしかったら遊んでみませんか?」

「いいの? やってみたい!」

「ハイ、ではこちらにどうぞ」

「うん!」


 ゲームの誘惑に負けて、懲りずにノコノコついて行くユーキ。

 ゲルトについて奥へ入って行くユーキを見た参加者達が口々に噂話をする。



「オイ、あれってオーナーとユーキちゃんだよな?」

「ホントだ、ユーキちゃん何だか嬉しそうだったなー」

「はあ……純粋そうに見えたのに、やっぱり金なのかなー?」


 メイド達も口々に噂をする。


「ああ、ユーキちゃんもオーナーの毒牙にかかってしまうのね」

「ルックスも経済力も申し分無いんだけど、あの女好きだけはねー」

「真剣に愛してくれたらいいんだけど、ほとんど遊びだしね」



 メイド達の話を聞いていたセラがメイドを呼ぶ。


「お姉さんお姉さん!」

「ハイ! お呼びでしょうか?」

「タッパーください、大量にぃ」

「あ、ハイ! 少々お待ちください」




 その頃、ユーキの身を案じているパティ。


「大丈夫かしらユーキ? 変な男に絡まれてなきゃいいけど……」

「少し過保護過ぎないかね? パティ君……仮にも君に勝ったんだ、もう少し信頼してやってもいいと思うが?」


「そりゃ強さだけならあたしだって認めてるわよ? でもユーキってば、自分の事をおっさんだって思い込んでるから、男に対しての警戒心がほとんど無いのよねー」


「ん? そうか? 初めて私と会った時は、随分警戒されていたように感じたが?」

「あんたはどうせ海パン一枚だったんでしょ? そんなの誰だって警戒するわよ」




 ゲルトの部屋でソファに座り、ゲームで遊んでいるユーキ。

 その横に座っているゲルト。


「よ! この! ほいっと!」

「お上手ですね、ユーキさん」

「へへー! 伊達に子供の頃からやってないよ」

「次はこのソフトで対戦してみませんか?」

「いいけど、僕手加減はしないからね」


 興奮していつもの喋り方に戻っているユーキ。


「フフ、何だかユーキさんさっきと喋り方が変わっていますね……でも僕は今の方が好きですよ」

「そ、そう? じゃあ失礼だけど、この方が楽だからもうこれで行くね」

「ええ……かまいませんよ」



 ジッとユーキを見つめているゲルト。

(やはりかわいい……是非手に入れたい……)



「ユーキさん、ゲーム楽しいですか?」

「うん! 凄く」

「毎日こうやってゲームで遊んでいたいと思いませんか?」

「ハハ、それは夢の様な話だね」


「それを実現させる方法が1つあるんです」

「え? マジで?」

「ハイ、マジです……僕と結婚すればいいんです」


 チュドーン‼︎

 ユーキの手が止まり、ゲーム画面のプレイヤーが爆死する。



(え、このバカ今何つった? 聞き間違いか……? うんそうだ! 聞き間違いだな!)



「ああ、ブリとよく合うよねー」

「それは大根です」


「君とは無縁な状態の事」

「貧困、ですか?」


「投げたボールがとんでもない方へ」

「ノーコンですね」


「シューティングゲームで使う拳銃型のコントローラー」

「それはガンコンです」


「幼女大好き!」

「ロリコン!」



「ユーキさんっ‼︎」

「ハ、ハイッ‼︎」

 誤魔化すユーキを制止するように、グイッと迫ってくるゲルト。


「茶化さないでください! 僕は真剣に言ってるんです! ユーキさん、僕と結婚しませんか?」


(マ、マジかー! 以前に告白された事はあったけど、付き合ってもいないのにいきなり結婚とか言うか、ふつー? いや、付き合ってたらいいって訳でも無いんだけど……)

(しまった……ゲームに釣られてまた妙な展開になってしまった……どうにか誤魔化して逃げないと……)



「あ、えと……私まだ14歳ですよー? 結婚なんて早いですよー」

「何言ってるんですか! 14で結婚なんて普通じゃないですか!」

(え? そうなの? この世界ではそうなの?)



「じ、実は僕にはすでに結婚を約束した人が居て……」

「大丈夫! 僕は一夫多妻でも一妻多夫でも容認しています」

(一妻多夫なんてあったのかー)



(くっ、こうなったら最後の手段)

「じ、実はこの少女は仮の姿で、本当の僕はおっさんなんだ!」

「おっさん……?」

 ジッとユーキの顔を見つめ。


「フッ……こんなかわいいおっさんなら大歓迎ですよ」

「え? いや、おっさんなんだよ? 男なんだよ?」

「それも大丈夫! 例え本当に男だったとしても、この国は同性婚が認められていますから」

「いや、この国何でも有りかー‼︎」



「これで何も問題無いですよね?」

 益々ユーキに迫るゲルト。

 冷や汗が大量に流れ出るユーキ。



「あ、ゴメン! 連れが待ってるから、僕帰るね」

 ラチがあかないので、立ち上がり強引に逃げようとするユーキだったが、ドアの寸前に壁ドンで行く手を塞がれてしまう。


「あまり手荒な真似はさせないで」

(このー!)


 ゲルトのしつこさに、力尽くで脱出しようと魔装具に手を掛けるユーキだったが、突如屋敷中の灯りが消える。


「な、何だ? 一体何事だー‼︎」

 突然の事に動揺しているゲルト。

 その時、ユーキを呼ぶささやき声が聞こえる。


「ユウちゃーん、こっちですぅ」

「セラ?」

「さあ、今の内に逃げましょぉ」

「うん」

「ユーキさん! どこですか? ユーキさん!」

「ゴメンねー」



 混乱に乗じて、屋敷から脱出して走り去るユーキと、巨大な風呂敷包みを背負っているセラ。

 



「あの停電ってセラの仕業?」

「そうですぅ、さっきユウちゃんに使ったぁ、魔法効果を消し去る結界をぉ、屋敷全体に張ったんですぅ」

「そうか、さすがに凄いな……ありがとうセラ! 助かったよ!」

「どういたしましてぇ」


「さっき急に変身が解けたの、やっぱりセラの仕業だったか」

「あの時はぁ、ごく小さな範囲でしたけどねぇ」

「でもぉ、これで1つぅ、ハッキリした事がありますぅ」

「え? 何?」


「マジックイレーズの結界に入ってぇ、その姿に戻ったって事はぁ、今の姿は魔法によるものじゃ無いって事ですぅ」

「え? つまり……どゆ事?」


「つまりぃ、ユウちゃんが元おっさんである可能性がぁ、極めて低くなったと言う事ですぅ」

「え、そう……なの? でもまだゼロじゃないんだ?」


「あと考えられるのはぁ、私の力を超えた存在による仕業とかぁ」

「え、だってセラって最高レベルの7なんでしょ? それ以上って居ない筈じゃ? あ……実は7って言うのも嘘なの?」


「レベル7なのはぁ、本当ですぅ……私の力を超えた存在って言うのはぁ、つまり神や悪魔の類って事ですぅ」

「神……神様や悪魔が実在するんだ?」


「何言ってるんですかぁ、現にユウちゃんは天使じゃないですかぁ」

「え?」

「あんな翼まで生やしてぇ」

「いや、あれはセラの魔装だよねー!」


「パティちゃんだってぇ、悪魔みたいなもんだしぃ」

「ああー、パティに言ってやろ」

「ごめんなさいですぅ、それだけは勘弁ですぅ、私まだ生きていたいですぅ」



「レベル6のアイ君やレベル7のセラを怖がらせるパティって……」

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