第3話 前菜じゃなくて前夜祭

 前夜祭の会場に着いた、ヤマトとセラ。



「前菜楽しみですぅ」

「前菜じゃなくて前夜祭な」



「ようこそいらっしゃいました……お名前をどうぞ」

「俺はアイバーンだ」

 男の姿なので、アイバーンと名乗る事にしたヤマト。

「拙者はユーキと申す、よろしくお頼み申す」

「アイバーン様とユーキ様ですね、どうぞお入りください」

「ああ」

「かたじけない」



 会場に入るヤマト達。



「おいセラ、何だ? さっきの喋り方は」

「何って、ユウちゃんですよぉ?」

「ユーキはあんな喋り方はしない」

「うーん……やっぱりユウちゃんじゃないとぉ、ツッコミのキレが悪いですねぇ」

「ヤマトの時はこうなるんだ、仕方ないだろう」

「同一人物の筈なのにぃ、不思議ですねぇ」




 会場のオーナー室。


「リッチ様、先程例のユーキ様が来られました」

「そうか、来たか……フフ、会うのが楽しみだ」



 パーティー会場に入ると、いくつものテーブルに豪華な料理が並んでいる。



「うわぁ‼︎ 凄いですぅ! 料理だらけですぅ! この世の天国ですぅ! 全部食べきれるかなぁ?」

「いや、1人で食う気か」


 目を輝かせ、すでに大量のヨダレを垂らしているセラ。

「皿まで食うなよ」

「失礼ですねー、食べませんよー……たまにしか」

「食うのかよ!」



 司会者らしき女性がステージに上がる。



「みなさま! 今回のイベント、魔石争奪サバイバルマッチの前夜祭に、ようこそおいで下さいました! ここで、本イベントの発案者でもあり、バトルフィールドとなる山を貸して頂いたオーナー兼この屋敷の主人、ゲルト・リッチ様をご紹介いたします‼︎ 皆様、盛大な拍手でお迎えください‼︎」



 拍手の中、20代前半ぐらいの、かなりイケメンな青年がステージに上がって来る。



「みなさん‼︎ 僕の考えたイベントに、多数参加して頂きありがとうございます。まず始めに、今回のイベントのルール説明をさせていただきます」


「明日の正午にスタートしてから明後日の正午までの間、つまり24時間の間に1番多くの魔石を集めた方の優勝となります。魔石は量ではなく、トータル金額で審査いたします。」



「その間のぉモグ、食糧もぉモグモグ、自分達でぇゴクン、確保しないといけないんですねぇ」

「オイ! 今つまみ食いしただろ」



「フィールド内には魔獣が放たれていますが、ランクの低いものばかりですので、ご安心ください。」

「魔石の獲得方法は3パターン……魔獣を倒して手に入れるか、フィールド内から探し出すか、他のプレイヤーから奪うか……この場合、勿論相手を殺したりするのは禁止です」



「魔獣が居るんですかぁ、私生き残れるかなぁ」

「セラは出ないだろ」



「上位10名の方は見つけた魔石を、そのまま持ち帰って頂いて結構です。つまりそれが賞金の代わり、という事になります……更に3位までの方には、それとは別に賞金も用意させていただいております」


「他にも、フィールドの中には様々な景品の目録を隠してありますので、探してみて下さい。この景品に関しましては、順位に関係なく見つけた方に差し上げます。」



「中々の三段腹ですぅ」

「太っ腹な」



 ドリンクの入ったグラスを受け取るゲルト。


「皆様、グラスをお持ちください……」

「それでは、明日のイベントに備えて本日は思う存分飲んで食べて、力を蓄えてください」


「蓄えますぅ」

「だから、セラは出ないだろ」


「乾杯‼︎」


「乾杯ー‼︎」



「よかったな、やっと思う存分食べられるぞ」

 そう言って横を見るヤマトだったが、すでにセラは料理に食らいついていた。

 しかも並んだ料理を端から順に平らげて行くセラ。

「いつ見ても凄いな、本当に1人で全部食べきるんじゃないか?」



 感心しているヤマトに、メイド姿の女性が飲み物を勧めてくる。

「ドリンクはいかがですか?」

 おそらくはアルコールであろうそれを見たヤマト。

(ん? 酒か? まあこの姿なら飲んでも問題ないだろう)


「ありがとう、いただくよ」

 そう言ってヤマトがドリンクを取ると、メイドは嬉しそうに走り去って行く。


「キャー! 近くで見たら更にカッコイイよ!」

「いいなー、今度は私が行くわ」

「ええー、あたしよあたし」

 メイド達が何やら向こうで楽しそうに喋っていたが、特に気にかけないヤマト。


 酒を口にするヤマト。

「うん、美味いな」



 その頃、一心不乱に料理を食べているセラに、1人の男性が声をかける。


「ねえ君かわいいね、名前教えてよ」

 食事を邪魔され、少し不機嫌なセラ。

「む? 貴様に名乗る名などぉ、持ち合わせてはおらぬぅ」


「ハハ、君面白いね」

 また違う男性が近付いて来る。

「ねえ良かったら、明日俺と一緒に行かない? 君もイベントに出るんでしょ?」


「あいにくとぉ、一緒に周る人が居るのでぇ、お断りしますぅ」

 その場から離れようとするセラの行く手を、更に別の男が塞ぐ。

「いいじゃん! そんな奴ほっといて、俺と一緒に周ろうぜ?」



(むうぅー、しつこいですねぇ……それにしてもぉ、連れの女性が絡まれてるのにぃ、ヤマちゃんは何やってるんですかぁ?)

 ヤマトの姿を探すセラ。

 すると少し離れた場所で、メイド達に囲まれ楽しそうに喋っているヤマトを見つける。


「私どこかで見た事あるんですよー」

「何だそりゃ? ナンパのつもりか?」

「ホントですってばー!」



(カチーン! 私が困ってるっていうのにぃ、女の子達と楽しく喋ってるなんてぇ)


 周りに気付かれないように幻術で隠しながら、魔装具を具現化させるセラ。

 指先をクイッと動かすと魔装具より6本の羽がヤマトに向かって飛んで行き、ヤマトの足元を取り囲むように床に刺さり、見えない魔法陣が現れる。



 一瞬光を放つヤマトに、眩しさで目をそらしていたメイド達が再びヤマトを見て驚いている。

 そんなメイド達の様子を気にする事なくグラスに口を付けるヤマトが、いきなり口に含んだ酒を吹き出す。


「ブーッ‼︎ え、何だ? いきなり酒が不味くなったぞ? 何で?」


「ユーキちゃん?」

「え?」

「キャー‼︎ ユーキちゃんよー‼︎」

「ホントだ‼︎ え? いきなり現れたわよ? 何で?」


 何故か元の姿に戻っている事に気付くユーキ。

(え? 変身が解けてる? 何で? まだ魔力は余裕ある筈なのに?)



「そうだわ! 思い出した! さっきの彼、どこかで見た事あると思ってたら、ユーキちゃんが変身した姿よー!」

(バレた!)



(ンフフー、その結界はぁ、あらゆる魔法効果を無効にするのですぅ……人が困ってるのに助けてくれなかった罰なのですぅ)


「あー! あそこに居るのはベルクルの闘技場で大活躍したぁ、超絶美少女魔法使いのぉ、ユーキちゃんじゃないですかぁ‼︎」

 わざとらしく周りの男達をあおるセラ。


「え? ユーキちゃん?」

 セラの指差す方を見る男達。

「ホントだ! ユーキちゃんだ!」

「参加者リストに名前あったけど居ないから、来てないのかと思ってた」


 セラに群がっていた男達が、一斉にユーキの元に集まって行く。


「ふう、これでやっと食事に専念できますぅ」

 再び料理を食べ始めるセラ。


 たちまち大勢の人に取り囲まれるユーキ。


(何でいきなり変身が解けたんだ?)

 疑問に思っていたユーキが、チラッとセラを見る。

 するとユーキの方を見て、ニヤリと笑うセラ。

 セラの表情を見て、全てを理解したユーキ。




「やりやがったなー! セラあああ‼︎」

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