第26話 ようやく次の街へ……いや、長いわー‼︎

 食料や、必要な物を買い込んだユーキ達。

 その後、念願のサーカスを見に行った5人。



「いやー、面白かったなー!」


 大満足のユーキ。


「あ、だけど、所々席が空いてたような?」


「みんなもう何度か見てるから、飽きて来たんじゃな……ぐぇ!」


 パティ必殺の、悶絶ボディブローがアイバーンの腹に突き刺さる。

「アイバーン様ー‼︎」


「ん? アイ君どうかしたの?」

 アイバーンの様子を見ようと、振り返ったユーキの視線を隠す様に立つパティ。

 その後ろで倒れているアイバーン。


「多分団体客の人達が、訳あって来れなかったのよ!」

「そう、なのかな?」

「そうなの‼︎」




 そして出発の朝。


 街の入り口の所に、レンタルした2頭立ての馬車が止めてある。

 荷台は大型の箱タイプで、5人が横になって寝ても、充分余裕のある広さだ。

 荷物は、大部分はセラの食料だった。



 どこで聞きつけたのか、大勢の人が見送りに来ていた。

 そこにはあの兄弟も。


「よお嬢ちゃん! 気を付けてな! 死ぬんじゃねえぞ!」

「ユ、ユーキさん……お、おいらもっとつ、強くなって、ま、またユ、ユーキさんにちょ、挑戦するッス」


「うん、頑張って! 待ってるよ!」




「セラちゃん‼︎」

「セラさん‼︎」

 馬車に乗り込もうとした時、セラを呼び止める声がした。


 だが振り返る事なく乗り込もうとするセラに。


「セラ? 誰か呼んでるよ?」

「気にしなくていいですぅ、早く行きましょぉ」

「え? でも知り合いなんでしょ? 挨拶ぐらいしてきなよ……あ、もしかして会いたくない人?」


「と、闘技場のぉ、救護班の人達ですぅ」

「ああ、セラがクビになったっていう……うーん、僕一言言ってくる」

「ああ、別にいいですよぉ!」


 引き止めようとするセラを振り切って、救護班の人達の所に行くユーキ。



「ねえ、あんたたち!」

「ん? 君は確か、闘技場に出てたユーキちゃん?」

「ねえ、何でセラをクビにしたのさ? あんな凄いヒーラーなのに」


「クビ? とんでもない! セラちゃんの方から辞めさせてくれって言って来たんだ! じゃないと、誰があんな優秀なヒーラーを手放すもんか! そりゃまあ、確かに食費は人一倍かかったけども」

「え? そうなの?」


「何でも、どうしても行かなくちゃいけない用が出来たからって言ってね……それが、君達について行く事だったのか?」


「あ、いや……詳しい事情は聞いてないんだけども……」

「とにかく、セラちゃんの事、よろしく頼むよ!」

「う、うん……」


 「ああそれと、用が済んだらいつでも戻っておいでって伝えて欲しい」

「分かった、伝えとくよ……それじゃ」


 何だか拍子抜けして馬車に戻るユーキ。



 無言でセラの横に座るユーキ。


「…………」


「何も聞かないんですかぁ?」

「いいよ別に……嘘ついたって事は、本当の事は言いたくないのか、何か言えない事情があるんだろうし」


「こんな嘘つきの私をぉ、信用するんですかぁ?」


「ハハ、正直うさんくさい所はあるけども……まあ、うさんくささで言ったら、僕の方がもっと怪しいしね」

「だって、異世界からやって来た元おっさんかもしれなくて? なぜか最高ランクの魔装具持ってて? 人の魔装をコピーして、自分の物にしちゃうとか? 終いには男にまで変身しちゃうし……怪しさ爆発だよ」


「そう言われればぁ、そうですねぇ」


「でもこんな僕を、パティ達は仲間だって言ってくれるし、何度も助けられた……とても感謝してる」


「セラだって、メル君を助けてくれた……あの時セラが居なかったら、メル君だけじゃなくて僕まで死んでたかもしれない……だから、嘘ついてまで残ってくれてありがとう」


「ホント、ユウちゃんはぁ、甘々ですねぇ……ユウちゃんを信用させる為にぃ、全部私が仕組んだ事、とは考えないんですかぁ?」


「え? 何で? だってセラはそんな事しないでしょ?」


「そういう可能性もあるってぇ、言ってるんですぅ……ユウちゃんはぁ、簡単に人を信用し過ぎですぅ」

「それはぁ、長所ではあるけどぉ、弱点にもなるんですよぉ?」


「心配してくれてありがと……フフッ、やっぱりセラは優しいね」


「ぶぅ! 茶化さないでくださいぃ」

「しょうがないですねぇ……じゃあユウちゃんにだけはぁ、特別にぃ、私の正体を教えちゃいますぅ」


「え、マジで? なになに?」

 おそらくは嘘だろうと分かっているが、あえて乗っかるユーキ。



「実は私はぁ……ユウちゃんを殺す為に雇われたぁ、暗殺者なのですぅ!」

「うん、だったらターゲットに正体バラしちゃダメだよね? ハイ却下ー」


「実は私はぁ……某国のお姫様でぇ、囚われの王子様を探す旅をしているのですぅ!」

「いや逆だよね? 普通は王子様がお姫様を助け出すもんでしょ? ハイ却下ー」


「実は私はぁ……神の化身でぇ、この世界を救う為に舞い降りて来たのですぅ」

「いやスケールでか過ぎるわ! もっと現実的な嘘つこうね? 却下ー」


「もぉー! 何で嘘だって決め付けるんですかぁ?」

「いや、どれも設定がぶっ飛び過ぎてるからさ」


「じゃあ、実は私はぁ……ユウちゃんの生き別れの姉なんですぅ」

「お? それ1番現実的な設定だね」

「そ、そうだったの? お姉ちゃん!」

 かなり芝居染みた口調で言うユーキ。


「そうなのよ! 会いたかったわ、妹よー!」

「お姉ちゃんー!」



「さっきから何2人で漫才やってるのよ?」

 冷めた目で馬車に乗り込んで来たパティ。


「あ、いや、暇だったもんで」

「楽しかったですぅ」



「全員乗っているね? ではそろそろ出発するとしようか」

 パティに続いて乗り込んで来るアイバーン。

 メルクは前で、馬の手綱を握っている。



「みんな乗りましたね? では出発しまーす‼︎」

「オー‼︎」



「気を付けてなー‼︎」

「また来いよー‼︎」

「ユーキちゃーん‼︎ 絶対また挑戦するからなー‼︎」

「パティお姉様ー‼︎」


 見送りに手を振って応えるユーキ達。




 しばらくして、メルクが口を開く。


「今回は色々ありましたねー」

「ホントだよ! 僕からしたら、まだ1番始めの街なのに、いきなり色々あり過ぎだよ!」


「フフッ、先が思いやられるわね……何しろ魔獣だけでも、サイクロプス、ワイバーン、ガーゴイルにレイスまで……ああ、あとあたし達が討伐に行ったウロボロスなんかも……」


「あっ‼︎」

 いきなり大声をあげるメルク。


「どうしたんだ? メルク」

「ウロボロスで思い出しました……討伐に行く前、確かアイバーン様僕に何か言いたい事があるとか言ってませんでしたか?」


「あ、ああ、あれか……いや、別に大した事では無いからいいんだ」


「えー? 何か気になるじゃないですかー!」

「そうよ、言いなさいよ!」


「う、うむ……いや何、メルクの顔立ちは結構女性的だと思うんだ」

「まあそうよね」

「だから、女装させたら似合うのではないかと、ふと思ってね」


「んなっ‼︎」

 それを聞いたメルクが絶句する。


「意味深な表情するから何かと思えば、そんーなくっだらない事だったんですか? ハアッ……僕は今までアイバーン様の変態ぶりは、あくまで照れ隠しなんだとばかり思ってましたが、まさか本物の変態だったとは」


「いや、ちょっと思っただけではないか」

「そう思う事が問題なんです……この際、パティさんも何か言ってやってくださいよ」


「いや……アリね」

「え? パティさん?」

「ハイー、いいと思いますぅ」

「セラさんも? ちょっとユーキさん! 2人の暴走を止めてくださいよー!」


「メル君なら似合うと思うよ?」

「ユーキさんまで?」


「じゃあリーベンに着いたら、色々服着せて1番似合う服を探しましょう」

「賛成ぇー!」

「それイイね」

「ふむ……楽しみだ」





「いや、絶対着ませんからねー‼︎」





 馬車は次の街、リーベンを目指す。


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