第20話 何でもとはよく言うけれども、何事にも限度はあるものだ

 そして、パティとの再戦の日がやって来た。




「さあみなさん、ここでビッグニュース! 本日お集まりの方は運がいい! 只今より、スペシャルシングルマッチを執り行わせていただきます‼︎」



 騒つく客席。


「何だ? スペシャルシングルマッチ?」

「勝ち抜き戦じゃなくて、一対一でやるって事?」

「え? 誰がやるの?」



「まず1人目はー! 先日突如この闘技場に飛び入り参加して、あっという間に観客のハートを鷲掴みにした、超絶美少女! 魔法使い、ユーキちゃんだー‼︎」



 闘技場に入って来るユーキ。


「おおー‼︎ ユーキちゃーん、待ってましたー‼︎」

「キャー、ユーキちゃーん! 今日も頑張ってー!」

「アイ、ラブ、ユーキー‼︎


「や、どもども……どもー」

 声援に応えるユーキ。


「ユーキさん、もうすっかり人気者ですね」

「結局パティ君に負けた以外は、全戦全勝で来てるからね」

「ユウちゃん頑張ってぇー!」




「この闘技場に参戦して今まで全15戦、数々の男達がユーキ嬢をゲットしようと挑戦して来ましたが、勝てたのは唯一の女性であるパティ嬢ただ1人! さあみなさん、もうお分かりですね? ……そう、本日のスペシャルマッチ! 白の天使、ユーキ嬢の対戦相手は、漆黒の悪魔! パティ嬢だー‼︎」



「だから悪魔ゆーなー‼︎」

 パティが叫びながら入場して来る。



「パティ様ー‼︎」

「お姉様、今日もカッコイイー!」

「ムチで叩いてください‼︎」



「だから、何であたしの声援は変なのばっかなのよ」




「今回初めて2人をご覧になったと言う方の為に、改めて2人のプロフィールを紹介させていただきます」



「まず始めに、ユーキ選手のプロフィール! 名前はユーキ、14歳女性、クラスは魔道士、魔装具はロッドタイプ、魔力レベルは2、魔装具ランクは素材5プラス魔石5の、最高ランク10でございます‼︎」



「次に、パティ選手のプロフィール! 名前はパティ、17歳女性、クラスは魔道士、魔装具はワンドタイプ、魔力レベルは5、魔装具ランクは素材3プラス魔石4のランク7でございます‼︎」



「前回はあと一歩の所で5人抜きを阻止され、パティ嬢にお持ち帰りされてしまったユーキ嬢ですが……」

「変な言い方すんな‼︎」

「今回は、見事リベンジなるか⁉︎」




「頑張れユーキちゃーん! 今度こそ勝てよー‼︎」

「パティお姉様男前ー!」

「ユーキちゃーん、もし負けそうになったら私が守ってあげるわー!」

「パティ様、僕もイジメてー!」



「どうも声援がかたよってる気がするんだけど……」

「ハハ、僕もそう思う」




「前回の対戦の際に、パティ嬢が勝ったらユーキ嬢は何でも1つ言う事を聞くと言う約束をしました! その願いは、ユーキ嬢がレベル2になったらもう一度対戦すると言うものでした……そしてこの程ユーキ嬢が見事レベル2に上がったので、今回のスペシャルマッチが実現した訳です」



「そうだったのかー、ユーキちゃんおめでとー!」

「おめでとー!」



「しかし! しかしですよ、みなさん! せっかくこんなかわいい娘をゲットして、しかも何でも願いを聞いてくれると言うのに、その願いが、ただ再戦するだけなんて……なん……っと、勿体無い事でしょうか‼︎」

「もし私なら、1日彼女になってとか、メイド服で1日ご奉仕してとか、他にもここでは言えないあんな事やこんな事をー‼︎」



 冷めた目で実況者を見るユーキ。



「何口走ってんだおっさーん! でも気持ちは分かるぞー!」

「あー、俺だったら何してもらおうかなー?」

「勿体無いぞー! パティー!」



「うるさいわねー‼︎ 成り行き上そうなったんだから仕方ないでしょー! あたしだってホントはもっと違う願いにしたかったわよー‼︎」


「例えば例えば! お姉ちゃんって呼んでもらうとか? 出かける時はいつも手を繋ぐとか? お風呂は毎回一緒に入るとか? 夜は同じ布団で寝るとか? 寝る前には必ずキスしてもらうとか? もう挙げればキリがな……」


 妄想が爆発しているパティと、ドン引きのユーキ。



「……コホンッ……さあ、冗談はこれぐらいにしておいて……かかって来なさい! ユーキ!」

「絶対に負けられない……行くよ! パティ!」



「さあ、ついに始まりました、リベンジマッチ! ユーキ嬢、見事雪辱なるかー‼︎」




「メルちゃんはぁ、もしユウちゃんがぁ、何でも願いを聞いてくれるとしたらぁ、何をお願いしますかぁ?」

「え、僕ですか? ぼ、僕は……えと……い、一度ちゃんとデートしてみたい……です」

「わぁ、いいですねぇ」


「私は2人で海に行きたい……」

 正面を向いたまま真顔で呟くアイバーン。


「え?」

「え?」


 さり気なく会話に入って来たアイバーンに驚くメルクとセラ。



「いや、何でもない……」



 無表情で正面を向いたまま、サラリと流すアイバーンであった。




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