第18話 夢見るユーキ、その4(心臓を圧迫して寝ると、怖い夢を見るらしい)

 暗闇の中、声が聞こえる。



「ユーキサーン! オキテクダサーイ、ユーキサーン!」

「ん?」

「イツマデネテルデスカー? ハヤクオキヤガレコノヤロー!」

「口悪ー、今回は片言の外国人か?」


「ハハー! コンカイテメー、ヤクタタズダッタナー、シッカリシヤガレバカヤロー」

「うるせーな、てか読みづらいからやめろ!」


「じゃあ元に戻すニャ」

「もうそれが元なんだな」



「しかし昨日は大変だったニャ」

「うん、ホント大変だった」

「展開がシリアス過ぎて、見てて疲れたニャ」

「危うく大事な仲間を失うとこだったよ」


「仲間? 彼氏じゃなくて?」

「なっ‼︎ 何で彼氏なんだよ!」


「だってユーキってば……メル君……僕……もし僕が、本当の女の子だったなら……メル君と……なーんて言うんだもんニャ」

「うわあああああ‼︎ な、何でそんな恥ずかしいセリフ、一言一句覚えてんだよー‼︎」


「もう完全に乙女ニャ、恋する少女ニャ……ププッ! 35のおっさんなのにニャ」

「なっ! ……い、今おっさんなのにって言ったよね? じゃあ僕、やっぱりおっさんなのか?」


「ん? そう言ったら面白そうだったから言ってみただけニャ」

「くっ……テメェ……」

「かわいい乙女がテメェ、なんて言ったらダメニャ」

「むぐぐ……」


「僕だって混乱してるんだ、どっちなのかハッキリしてくれ!」

「ん? どっちと言うのは、ラーメンは醤油派か豚骨派かって事かニャ?」

「またそのパターンか、どっちでもいいっての」


「因みに味噌ニャ」

「いや、そこは塩って言っとけよ……パターン的に」

「あえて裏切ると言うパターンニャ」

「どこの芸人だよ」



「なあ! 冗談は置いといて、ホントの事教えてくれよ」


「でも最近はつけ麺というのも中々侮れない……」

「聞けっての‼︎」

「フニャ‼︎」


「前回と同じパターンはもういいって!」

「つまらないボケでも繰り返してると、だんだん面白くなって来るものニャ」


「お笑い講座はいいから! 頼む……それだけはどうしても知りたいんだ!」


「だから、ここで教えても忘れるって……」

「分かってる‼︎ でも知りたいんだ! 意地でも覚えておくから……お願い……」


「どうやらマジみたいニャ?」

「マジだよ」



「分かりました……では教えてあげましょう」

「うん……」



「あれは……雪が降り積もる寒い冬の夜……訳あって夜の街はずれを歩いていた私は、空腹と寒さの為にとうとう動けなくなってしまった」

「雪に埋もれながら、このままここで1人寂しく死ぬのかと思っていた時、ふと暗闇の中に1つの光が見えた!」

「私は残りの体力を振り絞って必死にその光の場所を目指した! そして、辿り着いた先にあったのは一軒のラーメン屋だった……」

「お金を持っていなかった私は、皿洗いでも何でもするからと必死に店主を説得して、何とか一杯の醤油ラーメンを食べさせてもらった……」

「美味しかった……今までに食べたどのラーメンより……いや、どんな食べ物よりも……私はあの醤油ラーメンの味を、今でも忘れない…………」




「……………………」


「いや何の話だああ‼︎」


「え? 忘れられない醤油ラーメンの話ニャ」


「どうでもいいわ! そんな話!」

「何だよ! 意味ありげに長々話して! 真剣に聞いちゃったよ! バカみたいだよ!」


「いきなりネタバレしたら面白くないニャ! だいたいユーキはまだ最初の街からも動いてないニャ! 推理小説で言えば、事件現場に来ただけニャ! そこでいきなり犯人をバラすバカな作者は居ないニャ!」


「このぉ……屁理屈を……」


「じゃあ今日もユーキを小馬鹿にして楽しかったから、そろそろ帰るニャ」

「テメッ! 小馬鹿にって言ったなー! 待てコラ! いつもいつも好き勝手言って帰りやがって!」


「さいニャらー!」

「待て化け猫! 卑怯だぞっ! 姿を表せー‼︎」






「てか、味噌派じゃなかったのかよ……」






 目がさめるユーキ。



「んん、何か苦し……」

 目を開けると、セラがユーキの体に完全に覆いかぶさる様にして寝ていた。


「セ、セラ? 何でこんな体制で……」

「ちょっとセラ! 起きてよ、ねえ!」

 セラの体を揺するユーキ。



「んんー? あぁ、おはようございますぅ、ユーキちゃん……随分うなされてましたけどぉ、どうしたんですかぁ?」

「明らかに君のせいだよねー‼︎」


「だからぁ、君じゃなくてセラですってばぁ」

「分かってるからどいて! 重いー!」

「ぶぅっ! 失礼ですねぇ、私そんなに重くないですよぉ」

 そう言って、ユーキの上で体をウネウネと動かすセラ。


「や、やめて! ウネウネ動かないで! 重くない重くない! 謝るからどいてー!」

「分かってくれればいいんですぅ、じゃあ今どきますねぇ……ああでも、ユーキちゃんの温もりをぉ、体で感じてるとぉ、凄く心地よくってぇ……」

 再びユーキの胸元に顔を埋めるセラ。



「寝るなー‼︎」


「うぁ? 朝ごはんですかぁ? いただきまぁす」

 そう言ってユーキの首筋に噛み付くセラ。

「ギャアアア‼︎ 食われる‼︎ 助けてえええ‼︎」




 身支度を終えて、メルクの部屋に訪れるユーキとセラ。


「痛いですぅ、ユーキちゃーん」

 頭を押さえているセラ。

「魔装具まで食べようとしやがって!」



「おはよう、メル君! 調子はどう?」

「おはようございますぅ」

「あ、おはようございます! ユーキさん、セラさん」

「おかげさまで、快調です! 今からでも全力疾走出来そうなぐらいですよ」

「ハハハ! そっか、良かった」


「何だか、朝から随分賑やかでしたね?」

「ああ、うるさくしてゴメンね……危うくセラに食べられるとこだったもんで」

「寝ボケてただけですよぉ」



「僕とセラは鍛錬場で修行してくるよ……お昼には帰って来るから、何か食べたい物無い?」

「いえ、お二人にお任せします」

「そう? んじゃ、何か美味しそうな物買ってくるから待ってて」

「はい、楽しみにしてます」


「ププッ、何だか新婚夫婦の会話みたいですねぇ」

 口元に手を当てながら笑うセラ。

「んなっ‼︎ べ、別に普通のやり取りだろー!」

 顔を真っ赤にしながら訂正するユーキ。


「すみません……僕が動ければ料理作って待ってるんですが」

「気にしなくていいよ、絶対安静ってセラに言われたでしょ?」

「そうですよぉ、傷は塞がったばかりだしぃ、失った血液は再生出来ないんですからぁ」

「はい、そうですね……ではお言葉に甘えて休ませていただきます」

「うん、よろしい!」




(ンフフー、まあ嘘なんですけどねー……傷は勿論、血液量だって完全に再生してるのですぅ……ホントに今すぐ全力疾走しても、全く問題無いのですぅ……でも絶対安静って言っておけばぁ、今日はセラがユーキちゃんを独り占めできるのですぅ……ンフフフー)



 何故かユーキがセラの顔をじっと見つめている。


「んんー? どうしたんですかぁ? ユーキちゃん……セラの顔に何か付いてますかぁ? ご飯粒でも付いてるなら食べてくれてもいいですよぉ?」


「別に付いてても食べないけども……いや、何か今セラの顔が、悪巧みをしてる時のパティの顔に似てる気がしたもんで……」


 ギクッとなるセラ。


「いやゴメン、気のせいだよね」







(ユ、ユーキちゃんってば、意外と鋭いですねぇ……)



 冷や汗が頬を伝うセラであった。

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