第16話 死亡フラグを立てまくってみた

 宿屋に戻ってきたユーキ達



「ただいまー!」

「おかえりなさい! ユーキ、メル君、と……誰?」

「初めましてぇ、セラですぅ……この度ユーキちゃんの下僕になりましたぁ」


「ユーキ……あなた……」

 引いているパティ。

「違ーう‼︎」




「そう、それは大変だったわね……専門のヒーラーなら、こちらとしても助かるわ……あたしはパティ、よろしくね、セラ」

「私はアイバーンだ……よろしく、セラ君」

「パティちゃんにアイちゃんですねぇ、よろしくですぅ」


「アイちゃん……」

 まんざらでもない様子のアイバーン。



「パティ君、例の件を」

「あ、そうだったわ……あたしとアイ君は魔獣討伐の依頼を受けたから、明日から2、3日留守にするわね」


「依頼? え? 僕達は?」

「今回の依頼条件が魔力レベル4以上なのよ……だからユーキとメル君は留守番ね」


「ええー! 僕だって戦えるのにー!」

「クエストの依頼ってのはそういうものだから、仕方ないのよ……悔しかったら、早くレベルを上げる事ね」

 少し意地悪な顔で言うパティ。

「ぶー!」

 ふくれっ面のユーキ。


「そう言えば、セラのレベルはいくつ?」

「私ですかぁ? 私はぁ、3ですぅ」

「え? レベル3?」


 ジッとセラを見つめるパティ。

「いやあん! そんなに見つめられたら惚れちゃいますぅ」

 頬に手をやり、顔を赤くするセラ。

「べ、別にそんな趣味は無いわよ‼︎」

 顔を赤くしながら否定するパティ。


「え?」

「え?」

「え?」

 他の3人が、同じタイミングで驚く。

「あ、あんたたち……まとめて燃やすわよ」

 怒りを押し殺すパティ。



「ったく……でもちょうど良かったわ……ユーキとメル君を2人きりにさせるのは抵抗があったけど、セラが間に入ってくれれば安心だわ」

「ハハ……僕ってそんなに信用無いんですか?」

 涙目で落ち込むメルク。




 翌日、出発前のパティとアイバーンを見送るユーキ達。


「それじゃあ行ってくるわね、ユーキ」

「うん、気を付けて」

「大丈夫よ! パパッと倒してすーぐ帰ってくるわ!」


 ユーキに耳打ちするパティ。

「もしメル君が襲ってきたら、遠慮なく殴り殺しなさい」

「いや、殺さねーし! メル君はそんな事しないよ」



 セラの前に立つパティ。

「セラ……留守の間ユーキと……その他の事、頼んだわよ」

「はぁーい! セラにお任せあれぇー!」

「パティさん……僕ってその他なんですか?」

 また落ち込むメルク。



「メルク……」

 何故かジッとメルクを見つめているアイバーン。


「あの、アイバーン様? どうかされたんですか?」

「いや……戻ってから言うよ」

「はあ……」



 そして出発の時。


「じゃあね! あたし達が居ないからって、修行サボっちゃダメよー!」

「ビックリするぐらい強くなってるかもよ」

「フフ、期待してるわ」

「パティ! アイ君! 行ってらっしゃい!」

「アイバーン様! パティさん! お気を付けて!」

「行ってらっしゃいませぇー!」




 この後悲しい出来事が起ころうとは、この時のユーキ達には知る由もなかった。




「さて……これからどうしますか? ユーキさん」

「うーん……僕達も何か簡単なクエスト受けたいなー」

「僕達だけで大丈夫ですかね?」

「ヒーラーのセラも居るし、大丈夫でしょ?」

「お任せぇ!」

「まあ、初級クエストなら問題無いですね……じゃあ、案内所に行きましょうか」

「行こう!」

「行きましょぉー!」



 クエスト案内所で、初級クエスト『キマイラ3体討伐』を受けて、とある洞窟に入って行った3人。



 メルクの水の矢がキマイラを貫く。


「よし! これで2体……あと1体! ユーキさん! そっちに行きましたよ!」

「ユーキじゃなくてヤマトだって言ってんだろ!」

 ヤマトに変身したユーキが最後のキマイラを切り裂く。

「やりましたね! ユ……ヤマトさん!」



 セラが、変身したユーキを舐め回す様に見ている。


「まさかこんなイケメンさんに変身出来るなんてぇ、ユーキちゃんって何者なんですかぁ?」

「何者って言われてもなー……まあ、一応セラも仲間になったんだから、話してやるか」


 セラに一通りの事情を話すヤマト。


「へえー! ユーキちゃんっておっさんだったんですかぁ……じゃあこんなイケメンさんだったんですかぁ?」

「い、いや……イケメン、と言うか……ごく普通の平凡な顔だ」


「じゃあこの顔は誰がモデルなんですかぁ?」

「モデルは居ないが、何となくイメージでこうなった……」


「何で喋り方までそんな男っぽくなるんですかぁ?」

「別に意識してる訳じゃないが、ヤマトの時は自然とこんな口調になるんだ……それを言うなら、セラだって同じだろ?」


「私の場合はぁ、ただ喋るスピードが変わるだけですよぉ……お腹がいっぱいだとぉ、眠くなっちゃってぇ、こんなスピードになるんですぅ」

「眠かっただけかよっ!」



「お二人共! 他の魔獣が集まって来る前に、早く洞窟から出ましょう!」

「ああ、そうだな」

「はーい」



 出口を目指す3人。


「ところでぇ、メルちゃんはぁ、何で魔装しないんですかぁ?」

「ハハ……僕、まだ魔装出来ないんです……強くなって、アイバーン様みたいな騎士になるのが夢なんですけどねー」

「ええ? そうなんですかぁ? 変ですねぇ、今のメルちゃんなら充分魔装出来るはずなんですけどぉ?」

「え? それってどう言う……?」


「やめとけ、メルク! それは死亡フラグだ!」

 セラの真意を聞こうとしたメルクに、ヤマトが割って入る。

「え? 死亡フラグ?」

「アニメや映画だと、戦場で仲間に夢を語ると死ぬ確率が高くなるんだ」


「ハハ、大丈夫ですよ……もう帰る所なんですから」

「フッ……ならいいがな」

「大丈夫ですよぉ、どんな死亡フラグでもぉ、私がみーんなへし折ってあげますぅ」

「ハハ、頼みますね、セラさん」

「はい! 頼まれましたぁ」



 ヤマト達が洞窟の入り口に差し掛かった時、突如地面が揺れ始める。



「な、何だ? この揺れは?」

「ああ! あれ見てくださぃー‼︎」



 セラの指差した方を見ると、洞窟の入り口の所にあったガーゴイルの石像が動き始めていた。


「オイ、メルク! あれは何だ?」

「ガーゴイル……ですね」

「石像じゃなかったのか?」

「そのはずです」

「じゃあ何故動く?」

「分かりません……本物の魔獣が石になってたのか、いつの間にか、魔獣と入れ替わってたのか……」


「あいつ、ヤバイのか?」

「かなりヤバイですね」

「どのくらい?」

「ワイバーンに匹敵するくらいです」

「そりゃヤバイな」

「ヤバイですね」

「この面子で勝てるか?」

「おそらく無理ですね」

「じゃあどうする? 逃げるか?」

「逃げた方がいいですね」


「逃げましょぉー‼︎」

 セラの号令で一斉に逃げ出すヤマト達。

 ヤマト達が走り出して間もなく、空に飛び上がり、ヤマト達を追いかけて来るガーゴイル。


「くっ! ウォーターアロー‼︎」

 メルクが水の矢をガーゴイルに向けて放つが、高度が高過ぎて途中で水が形を保てなくなり、四散してしまう。


「ダメです! 高過ぎて届きません!」

「なら、俺がひとっ飛び行ってぶった切ってくる……フライ‼︎」

 飛行魔法を発動させようとしたヤマトだったが、一向に体が浮く気配がない。


「何だ? 何故飛ばないんだ?」

「もしかしてぇ、魔道士タイプじゃないとぉ、飛べないって事かもぉ」

「マ、マジか‼︎ それならっ!」


 剣士の魔装を解き、黒いカートリッジをセットするユーキ。

「魔装‼︎」

 だが何も起こらない。


「もう! どうなってんだよー!」

「今度はぁ、魔装する魔力がぁ、残ってないのかもぉ」

「ヤ、ヤバイ……」


「やっぱり逃げましょぉー‼︎」

 再びセラの号令で逃げ出すユーキ達。



 走りながら考えを巡らせるメルク。


(例えこのまま街に逃げ込めたとしても、今度は街が襲われる……いくら結界が張ってあるとはいえ、いつまでもは持たない。高レベルの人達はみんな討伐隊に参加していて援護は望めない……何としてもここで食い止めないと、ユーキさんや街の人達が……)


「街が見えた‼︎ 頑張れ! もうすぐだ!」

「はい!」

「はぁーい!」



 何とか街の中に入ったユーキ達。


「早く門を閉めてください! ガーゴイルが来ます‼︎」

「何だって? わ、分かった‼︎」

 メルクの指示に従って門を閉め始める門番の男達。



「ふう……何とか逃げられたね」

 一安心して後ろを振り返るユーキだったが、そこにメルクの姿は無かった。


「あれ? ねえセラ! メル君は?」

「メルちゃんなら……あそこです」

 セラが指差した先に、門の外でガーゴイルの襲撃に備えているメルクが居た。



「え? ちょっと‼︎ 何やってるんだメル君‼︎ 早く入って来るんだ‼︎」

「僕はここであいつを仕留めます‼︎」

「何言ってんだ‼︎ 3人がかりでも倒せないって言ってたじゃないかー‼︎」

「例え無茶でも無謀でも、やらなければいけないんです!」

「メル君‼︎」


「ユーキさん‼︎ 僕にだって、少しはカッコつけさせてくださいよ!」

「ダメだよ! メル君‼︎」



「セラさん! ユーキさんの事……よろしくお願いします!」

「はい! お願いされました!」


「ユーキさん‼︎ 結局ユーキさんはおっさんなのか女の子なのか分かりませんでしたが……例えどっちだったとしても……僕はユーキさんを好きになってましたよ」




 門が完全に閉まる。




「メル君‼︎ それもう死亡フラグじゃなくて、死亡確定だからぁ‼︎」


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