第15話 細目キャラって誰が考えたんだろう

 修行4日目。

 パティとの魔法修行。


「ほら! 一対一の戦いで上級魔法を使う場合は、常に動きながら魔力を高められるようにしなさい!」

「イエス、マム!」





 修行5日目。

 アイバーンとの剣術修行。


「剣だけに気を取られるんじゃない! ゼロ距離からでも魔法は撃てるんだぞ!」

「イエス、サー!」



 午後にアイバーンと初級クエスト『フェンリル5匹討伐』をクリアし、報酬20万ジェルをゲットする。




 修行6日目。

 メルクとの花嫁修業。


「そっちを煮込んでる間に、次の品の下ごしらえをして下さい」

「フニャ! ……ってだから、何で花嫁修業が入ってんだよ‼︎」




 その日の午後、メルクと2人で街へ食材の買い出しに来たユーキ。


「この前いっぱい食材もらったのに、もう無くなったの?」

「いいえ、もらったやつはまだ充分残ってるんですが、今日は特売日なんですよ……だから安い時にゲットしておきたいんです」

「そっか……フフ、メル君はいい奥さんになれるね」

「えー! 旦那じゃなくて奥さんですかー?」

「ハハハハ!」



 2人が街中を歩いていると、とあるレストランの食品サンプルを、ガラスにへばりつくように眺めながら、大量のヨダレをたらしている1人の少女が目に入る。


「あれ? もしかしてあの娘って……」

 どこか見覚えのある少女に近づいて行き、声をかけるユーキ。


「あのー、もしかしてセラ?」

「あー! ユーキちゃんじゃないですか! こんなとこで会うなんて奇遇ですね? お買い物ですか? あれ? もしかして隣の人は彼氏さんですか? じゃあデートですか? デートなんですね? うわー、いいなー、羨ましいなー」


 目を見開き、早口で喋るセラ。

 闘技場で会った時の雰囲気とあまりに違い過ぎていて、圧倒されるユーキ。


「ちょ、ちょっと待って! 君って、闘技場で会ったセラだよね?」

「そうですよ? 正真正銘、本物のセラちゃんですよ? 触ってみます?」

「いや、触っても分かんねーし」


「てか、あの時と随分感じが違うから……目をハッキリ開けてるし、凄く早口で喋るし」

「ああ、その事ですか……私ってお腹が減ってくると危機感に襲われて、こうなっちゃうんです」

「危機感って……」



「あの、ユーキさん……こちらの方は?」

「ああ、闘技場の救護室で働いてたセラさん」

「セラです、セラちゃんって呼んでくれてもいいですよー」

「あ、どうも……僕はメルクって言います……よろしくお願いします」

「メルク……じゃあメルちゃんですね?」

「メルちゃ……」


「メルちゃん、いつもウチのユーキちゃんがお世話になっております」

「この前会ったばかりだよねー!」

「お二人はいつから付き合ってるんですかー?」

「別に付き合ってねーよ!」

(ユーキさん、そんなに全力で否定しなくても)

 残念そうな顔のメルク。


「付き合ってないんですかー? じゃあ私がもらっちゃってもいいですかー? ……ユーキちゃんを」

「こっちかよ‼︎」

(はあ……何かセラと居ると疲れる)

 うなだれるユーキ。



「ああ、ところでセラ、こんなとこで何やってんの? そんなに大量のヨダレ垂らして」

「ああ、そうでした! ユーキちゃん、お願いがあります!」

 真剣な顔でユーキの手をがっしり掴み、じっと顔を見つめるセラ。


「え? お願い? 何?」

「ユーキちゃんを食べさせてください!」

「な? なななな、何言い出すんだよ‼︎」

「あ、間違えました、私にご飯を食べさせてください!」

「いや、どんな間違え方だよ!」

「つい本音が出ちゃいました」

「今、本音って言ったよね!」


「行こう、メル君……何だか身の危険を感じる」

 メルクの肩を押し、立ち去ろうとするユーキ。

「え? セラさんほっといていいんですか?」

「いいのいいの」


 だがユーキにしがみついて来るセラ。


「ま、待って下さいー! 昨日から何も食べてないんですー! このままじゃ犯罪に手を染めちゃいそうですー! お礼に何でもしますからー! この前みたいに、裸エプロンだって我慢してやりますからー‼︎」

「そんな事してねーだろ‼︎」


「ユ、ユーキさん……そんな趣味が……」

 ジトーっとした目でユーキを見つめるメルク。

「いや、してないからね‼︎」



 セラの大声に周りの人が集まって来る。

「え、何だ?」

「ピンク髪の娘が紫の髪の娘をいじめてるみたいなんだけど?」

「裸エプロンがどうとか言ってたような?」

「あんなかわいい娘が? まさかー!」


「あれ? あのピンク髪の娘って、この前闘技場に出てたユーキちゃんじゃないか?」

「ああ、そう言えば! 俺もどっかで見た事あるなーと思ってたんだ」



 周りの声を聞き、顔が真っ赤になるユーキ。

「わ、分かったよもう! ご飯おごってやるから、根も葉もない噂広めるのやめてくれ‼︎」

「わーい、ありがとうございますー……やっぱりユーキちゃん優しいー」

「お前、絶対わざとだろ」

 セラの背中を押し、店の中に入って行く3人。



 その頃宿屋に、クエスト案内所のスタッフの女性が、パティとアイバーンを訪ねて来ていた。



「緊急クエスト?」

「はい、ここベルクルと次の街リーベンの間にある山に、ウロボロスが出現したとの報告がありまして、この街の長が討伐隊を結成する事を決めたんです」


「ウロボロス……ワイバーンと同格だね」

「はい、その為今回の募集は魔力レベル4以上の方に限らせていただいてます。アイバーン様とパティ様には是非参加していただきたいのですが?」


「どうするね? パティ君」

「でもあたし達2人共居なくなると、残ったユーキが心配だわ」


「メルクが居るじゃないか」

「だから余計に心配なのよ」




 レストランで食事しているユーキ達。


「ヘブシュッ‼︎」

「もう、またー?」

 自分の料理の皿をかわしているユーキとセラ。

「す、すみません……あれ? 今日はちゃんとパティさんに許可を貰って出かけて来たのに」



 再び宿屋。


「勿論報酬はそれなりに用意させていただきます。レベル4の方には100万ジェル……そしてレベルが上がるごとに100万ずつ加算させていただきます」

「他に何か欲しい品があれば、なるべくご用意させていただきます。」


「あ、ならこんなのは用意出来る?」

 スタッフに耳打ちするパティ。

「はい、すぐ手配させていただきます」

「そう、なら行ってもいいわ……さすがにユーキも、これ以上目立つ事はしないでしょうし」




「ヘクシュ‼︎」


「ユーキさーん……」

 ユーキの口から飛んだ食べカスがメルクの顔にべっとり付いていた。

「うわあ! ご、ごめんメル君!」

「わあー、メルちゃんの顔もぉ、美味しそうですぅ」

「ん? この粘っこい喋り方は」


 セラを見ると、最初に会った時の様な細目になっていた。


「あ! あの時のセラだ」

「ええー、セラはいつでもぉ、セラですよぉ」

「いや、もはや別人と言ってもいいレベルだった」


「ところでセラ……昨日から食べてないとか言ってたけど、どうしたの?」

「聞いてくれますぅ? 実は救護班の仕事ぉ、3日前にクビになっちゃったんですぅ」

「え? そうなの?」


「元々ぉ、日払いでお金貰ってたからぁ、宿代払ったらぁ、ご飯食べるお金が無くなっちゃってぇ、そしてその宿もぉ、今朝追い出されたのでぇ、今は宿無し文無しで路頭に迷ってますぅ」


「な、何か大変そうだね……」

「ユーキちゃん、何かお仕事ぉ、紹介してくれませんかぁ?」

「いや、そう言われてなー……セラってヒーラーなんでしょ? 冒険者とかから結構需要ありそうなのに? うーん……とりあえず泊まるとこ無いなら、僕達の泊まってる宿屋に来る? 勿論お金は僕が出すからさ」


「ええー! いいんですかぁ? ありがとうございますぅ、ユーキちゃんは命の恩人ですぅ、一生ついて行きますぅ」

「もう、大袈裟だなあ」


「一生喰らい付いて行きますぅ」

「食うなよっ!」







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