第14話 修行と修業の違いってよく分からないよね

 修行1日目。

 闘技場の近くにある鍛錬場に居るユーキとパティ。



「まあ修行って言っても魔道士の場合は、イメージトレーニングがほとんどだけどね」

「イメージトレーニング?」

「ええ……そもそも魔法って言うのはイメージする事、出来るって思い込む事が1番大事なの」


「実際ホーミングアローズやグレイヴマーカーは、あたしが考え出したオリジナル技なのよ」

「そうなんだ……あ、グレイヴマーカーってワイバーンを倒した技だよね? あれ、詠唱がカッコよかったなー……僕も使いたかったけど、詠唱を覚えてなくて出せなかったんだー」


「詠唱? 別にしなくても出せるわよ?」

「へ?」

 キョトンとした顔のユーキ。


 魔装具を具現化させるパティ。

「ほら……グレイヴマーカー」

 パティがそう言うと、10センチ程の手の平サイズの十字架が空中に現れ、フヨフヨと落下して地面に落ち、ポテッと倒れる。



「ええええええー‼︎」

「な、何さ? その軽い感じ! 何さ? そのかわいいサイズ! あの時は詠唱とか唱えて、いかにも奥義! って感じでカッコよかったのにー‼︎」

 凄く残念そうなユーキ。


「そうは言われてもねー……別に奥義でも無いし」

「ああでも、全く無意味って訳じゃないわよ? ただ出すだけなら詠唱無しでも出せるけど、詠唱する事で実際に威力は上がる訳だし」

「でも特に決まった文句を言わなくても、自分のテンションが上がる言葉なら何だっていいの……極端に言えば、ドッコイショでもあっち向いてホイでも別にいいのよ」


「威厳ねぇー」


「あと……技の名前だって本当はいちいち言わなくてもいいし、何なら別の技名を叫びながら、違う技を出す事だって出来るわ」


「例えば……ウォーター!」

 パティの前に炎の玉が現れる。

「サンダー!」

 炎の玉から水の玉に変わる。

「ファイアー!」

 少し離れた所に雷が落ちる。


「まあ、頭の中にちゃんとイメージを持ってないと出来ないから、簡単ではないけどね」

「じ、じゃあ、何でわざわざ名前を叫んだりするのさ?」


「そりゃ、相手を欺くには言わない方がいいわよ? 昨日、ユーキと闘った時みたいにね」

「あ!」

 最後の一撃の前に、いつの間にかエアバインドに絡め取られていた時の事を思い出す。


「それでも敢えて詠唱したり叫んだりするのは、技のイメージを明確にする為と……何より、技の名前叫びながら撃った方が、カッコイイじゃない」


「うわー、何か最後のが凄く納得した」



「ああいけない、忘れる所だったわ……はいこれ」

 分厚めの封筒をユーキに渡すパティ。


「ん? 何?」

「昨日の闘技場での賞金よ……あなた、4人勝ち抜きしたでしょ」

「ああ、そう言えば1人でも勝ち抜きしたら賞金出るんだっけか?」

「ユーキ、気絶しちゃったからあたしが預かってたのよ」

「ごめん、ありがと」


「好きに使うのもいいけど、なるべくなら予備のカートリッジを買っておきなさい」

「うん……あ! 僕もパティに借りてたカートリッジ返さなきゃ」

「ああ、それはもういいわ……今日からの修行でもいっぱい必要になってくるだろうから、ユーキが持ってなさい」

「え? いいの?」

「ええ」

「そっか……じゃあ遠慮なく」


「さあ! それじゃあ、イメージトレーニング始めるわよ!」

「ユーキのレベルが上がるまで、あたし、アイ君、メル君の特訓を交互に受けてもらうからね……合間でまた闘技場に参戦するもよし! 初心者用クエストを受けるもよし!」


「あ、ただしクエストを受ける場合は絶対に1人では行かない事! 必ずあたし達の中の誰かと行く事! いいわね?」

「イエス、マム!」

 敬礼するユーキ。



 その日の午後、初級クエスト『ヘルハウンド10匹討伐』をパティと受けクリア。報酬15万ジェルをゲットする。






 修行2日目。

 昨日と同じ鍛錬場でアイバーンに剣術を教わっているユーキ。




「そう、ユーキ君のバトルスタイルは、魔法を発動させてからその威力を高める事だ」

「相手が私の様に近接戦闘を得意とするタイプなら、必ずこうやって間合いを詰めてくるだろう……その時に、攻防の中でいかにロッドを効率良く回せるかが重要になってくる」

「イエス、サー!」



「よし、少し休憩しようか」

「イエス、サー!」



 座って水分補給する2人。

「ところでユーキ君……ひとつ気になっているのだが」

「ん? 何?」

「パティ君は私達の事を、アイ君、メル君と呼ぶ」

「うん、そだね」

「君もメルクの事はメル君と呼んでいる」

「うん」


「だが何故私はアイバーン、なのかね?」

「え? だってアイバーンでしょ?」

「いや、そうなのだが……な、何故私をアイ君、とは呼んでくれないのかね?」

「えー? そんな事気にしてたんだ? 意外ー」

 少しニヤッとした顔で言うユーキ。

「わ、私だってそういう事は気にするのだよ」


「うーん、何故って言われてもなー……メル君は最初から何となくその呼び方がしっくり来たからで……でもパティの事はそのままパティって呼んでるよ?」

「パティ君の場合は元々愛称みたいな物だしね」


「何だか、私だけ妙に距離を置かれている様で……イヤ、なのだよ」

 アイバーンの思わぬ言葉にクスッと笑うユーキだった。

「フフ……何か、かわいい」

 顔を赤くしながら、君の方がかわいいよと思うアイバーンであった。


「まあ正直、ちょっと距離を置いてたとこはあったかもね」

(何しろ、出会った時の第一印象がひどかったから)

 金の海パン姿を思い出すユーキ。


「じゃあ君がいいって言うなら、今日からアイ君って呼ぶけどいい?」

「うむ、勿論だとも!」


「じゃあ修行再開しようか、アイ君!」

「ああ、やるとしようか!」

 満足そうな顔のアイバーンであった。



 その日の午後、闘技場に参戦して見事5人抜き達成! 賞金100万ジェルと副賞に大量の食材をゲットする。




 修行3日目。

 宿屋の厨房で昨日ゲットした食材を使って、料理を作っているユーキとメルク。



「ユーキさん、次はこの野菜をカットして下さい」

「うん、分かった……」


 手際の良いメルクに対し、ぎこちない手つきのユーキ。

「ユーキさん、野菜をカットする時は猫の手です、猫の手」

 そう言って指を曲げて見せるメルク。

「フ、フニャ?」

 メルクを真似て猫の手にするユーキ。


「そうそう、いい感じですよ」

「フニャー!……って違ーうっ‼︎」

「い、いきなりどうしたんですか? ユーキさん」


「何だよこれ? 何で料理作ってんだよ? 修行するんじゃなかったのかよ?」

「何言ってんの! これだってちゃんとした修行じゃない」

 そばで見ていたパティが口を挟む。


「これのどこが修行なのさー?」

「花嫁修業って言う立派な修行よ」

「花っ? は、花嫁修業って何だよ!」


「花嫁修業も知らないの? 花嫁修業って言うのは、結婚前の女性が料理や掃除、洗濯等の家事全般を出来るようにする事で……」

「いや、意味を聞いてんじゃねーよ!」


「何で僕が花嫁修業なんてしなきゃいけないんだ!」

「ちゃんとやっといた方が結婚した時に助かるでしょ?」

「いや、だから! 何でおっさんの僕が花嫁修業するのかって言ってんの!」


「あなた、まだおっさんとか言ってるの? もうそのギャグ笑えないからやめなさい」

「ギャグちゃうわ‼︎」




 出来た料理はみんなで美味しくいただきました。

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