第5話 ポテチは素手では触りません
「様々な攻防はありましたが、終わってみればボディブロー1発で仕留めたユーキ嬢‼︎ まずは1人勝ち抜き成功です!」
「凄え! 1発で倒しちまったぞ」
「キャー! ユーキちゃん強いー!」
「凄いぞ、嬢ちゃん! 次も頑張れよー!」
「あ……ども……どもども……やはは」
声援に手を振って応えるユーキ。
レフェリーが近づいてきて。
「ユーキ選手、次の対戦相手が決まるまで、あちらの控え室でお待ち下さい……試合開始10分前になったらお呼びしますので」
「ああそれと、ご自身で怪我や魔力を回復させるのは問題ありませんが、第三者に回復してもらうのは禁止となっておりますので、ご了承ください」
「うん、分かった」
案内された控え室に入るユーキ。
部屋の中には巨大なモニターがあり、闘技場の様子が映し出されている。自動販売機の様な物が置かれてあり、ご自由にお飲み下さいという張り紙がある。
「街中も色々見て来たけど、日用品とかは元の世界と殆ど一緒なんだよなー……まあこれならゲーム機があるのも不思議じゃないか……」
「……あ……そう言えばあいつ、大丈夫かな? 加減がまだよく分かんないから、結構思いっきりやっちゃったんだよなー」
「うーん……ちょっと見に行ってみよ」
ライトの様子が気になり、部屋を出るユーキ。
廊下を歩いていると、救護室と書かれた部屋をみつけた。
「ここ……かな?」
ノックして中に入ると、椅子に座ったパティと同じぐらいの年代の女性がこちらを向く。
目を開けているのか閉じているのかもよく分からないくらいの細目で、ニコッと言うより、ほわぁーん、と言った言葉の方が似合う笑顔だ。
手にはポテトチップスの袋を抱えている。
「えっとぉ、どちら様ぁ? あぁー! もしかしてぇ、さっき闘ってたぁ、ユーキちゃんじゃないですかぁ」
(な、何だ? この粘っこい喋り方は……)
「う、うん……そうだけど」
「うわぁー、やっぱりぃ、近くで見た方がぁ、うんとかわいいですぅ……」
近寄ってユーキの頬に触る。
(うわぁー! 油の付いた指でぇー……はあ……)
半ば諦め顔のユーキ。
「あれぇ? ユーキちゃんのほっぺからぁ、ポテチの匂いがしますぅ」
「君が今触ったからね‼︎」
「君じゃなくてぇ、セラですよぉ」
「セラ? ああ、名前ね」
「あぁー、ユーキちゃん美味しそうですぅ、色んな意味でぇ」
「色んなって何だよ! 怖いよ!」
「ところでぇ、どうしたんですかぁ? あぁー、バトル参加中はぁ、回復治療は受けられませんからねぇ」
「あ、いや、僕じゃなくて、さっき僕と闘ったライトって人の容体はどうかな? って」
「あぁー、さっきの男の人ですかぁ……」
椅子に座り、うつむき加減のセラ。
「え? 何かあったの?」
「あの人はぁ……」
言葉を濁すセラに嫌な予感がして、青ざめるユーキ。
「いや、まさか……いくら何でもパンチ1発で……」
反応の無いセラ。
「なあ! 何とか言ってくれよ!」
「…………」
「なあってば‼︎」
セラの肩を掴んで揺さぶるユーキ。
「は‼︎ すみませんー、ちょっと寝てましたぁ」
「寝てたのかよっ‼︎ 目が細すぎて分かんねーよ‼︎」
「さっきの人はぁ、私がバッチリ治療してぇ、今はあっちのベッドで寝てますぅ……襲いますかぁ?」
「襲わねえよ‼︎」
「どうしますぅ? 起こしますかぁ?」
「いや、寝てるならいいよ……無事かどうか確認したかっただけだから……あ、彼が起きたら、今度はお互い魔装してやろうって言っといて」
「分かりましたぁ」
「それじゃ、お邪魔しました」
「またのご来店をぉ」
「何の店だよ‼︎」
ツッコミながら帰って行くユーキ。
「だそうですよぉ、会わなくて良かったんですかぁ?」
ベッドのある方を見ながら言うセラ。
「魔装してなかったから負けたなんて言い訳はしたくない……もしまた闘う事があったら、今度は勝つ!」
カーテンの向こうでつぶやくライト。
「んーん、青春ですねぇ」
控え室に帰って来てモニターを見ると、次の挑戦者が映っていた。
かなり太めの中年男性で、まだ闘ってもいないのに、すでに大量の汗をかいていた。
「うわあ、何かかつての自分を見てるような……って、あんなに太ってへんわー!」
1人ボケツッコミをするユーキであった。
「それでは、選手紹介をさせていただきます! 名前はキスパー、30歳男性、クラスはアーマーナイト、魔装具はスピアタイプ、魔力レベルは1、魔装具ランクは素材1プラス魔石1のランク2でごさいます!」
「全部1かー、今回は楽勝じゃないですか? ユーキさん」
だがアイバーンは何故か怪訝な顔をしている。
「どうかしたんですか? アイバーン様」
「いや、あのキスパーと言う男の魔力……何か妙な感じがするんだが……」
「アイ君もそう思う? あたしもハッキリとは分からないけど、何か違和感があるのよねー」
「そうなんですか? 僕にはよく分かりませんが……あ、ユーキさんが出てきましたよ」
(ストレングスは消えちゃったかー……さて、次は何試そうかな?)
「さあ、第2戦目となりましたユーキ嬢争奪戦! 見事倒してユーキ嬢ゲットなるかー‼︎」
「だからそのタイトルやめろー‼︎」
「それでは、試合開始です‼︎」
開始早々走ってユーキに迫るキスパー。
「ユ、ユーキたーん‼︎」
「あっと、キスパー選手! 魔装具を具現化もせずにユーキ選手に向かって行くー‼︎」
(何だあいつ? いきなり無防備に突っ込んで来て……」
迎撃しようと魔装具を構えるユーキだったが、キスパーの異様な圧力にーー
「う……な、何かやだー‼︎」
「おっと、ユーキ選手何と逃げ出したー‼︎」
闘技場の中を逃げるユーキと追いかけるキスパー。
「ユーキたん待つでフ、僕とお友達になってほしいでフ」
「あ、あいつ……太ってるのに、何であんなに足が速いんだよ!」
「この光景はまるで、少女を追い回す変質者だー‼︎」
逃げるユーキを見てレフェリーが警告を与える。
「ユーキ選手! 闘う気が無いなら反則負けにするぞ!」
「そんな事言ったって……」
キスパーを見ると、全身汗まみれで凄まじい顔をしている。
「やっぱやだー‼︎」
仕方なくレフェリーが本部席に行きーー
「あっと、只今レフェリーの方からユーキ選手が闘う意思を見せない為、反則負けの裁定がくだされるようです」
それを聞いた観客達が猛反発する。
「ふざけんなー‼︎ 勝手に止めんじゃねえ‼︎」
「あんなの誰だって逃げたくなるわよ!」
「そうだそうだー‼︎」
「ユーキちゃんが可哀想だ!」
「いいのよユーキちゃん! 逃げてー‼︎」
「ブー! ブー! ブー!」
この声を受け、レフェリーが裁定を覆す。
「あっと、みなさんの熱い声のおかげで、どうやらこのまま続行するようです‼︎」
「やったー‼︎」
「頑張れユーキー‼︎」
「そんなキモい男やっつけちゃえー‼︎」
「何だか早くも観客を味方に付けてしまったね、ユーキ君は」
「ユーキにはそれだけ人を惹きつける何かがあるのよ! だってこのあたしが簡単に落とされたんですもの」
「頑張って! ユーキさん!」
「ハアッ! ハアッ! ハアッ! な、何で……ぼ、僕の方が……さ、先に息切れ、してんだよ……」
だんだん走るスピードが遅くなって来た時、地面に溜まったキスパーが流したであろう大量の汗に足を滑らせ転んでしまうユーキ。
「あうっ!」
「あっと、ユーキ選手転んでしまったー‼︎ これは危険だー‼︎」
その隙を逃さないキスパー。
「チャーンス‼︎ 愛の! フライング・ダイナマイトボディプレスー‼︎」
空高く舞い上がり、体全体でユーキを押し潰そうとするキスパー。
「どこがダイナマイトボディだー‼︎」
ユーキがツッコミを入れた直後、キスパーが落下し、その衝撃で砂埃が舞う闘技場。
「ユーキ‼︎」
心配するパティ。
「ああっと! 砂埃の為、状況が分かりません! ユーキ選手、無残にも潰されてしまったのかー‼︎」
徐々に砂埃が晴れてくると、宙に浮いているユーキの姿があった。
「ユーキ選手です‼︎ 押し潰されたかと思われたユーキ選手! 間一髪空に逃げていたー‼︎」
地面に倒れているキスパーに対し。
「君、そこ濡れてるから危ないよ?」
「ブフ?」
「サンダー‼︎」
ユーキの放った雷がキスパーを直撃する。
「シビビビビビビ‼︎」
「ブフゥ……」
雷の直撃を受けてダウンするキスパー。
「ダウン‼︎ カウント‼︎ ワーン‼︎ ツー‼︎……」
「あの娘、フライまで……」
「それだけじゃない……飛行する前にアイスミラージュで残像を残した……だから皆にはユーキ君が潰されたように見えた」
「……ナーイン‼︎ テン‼︎」
「キスパー選手立てません‼︎ ユーキ選手の勝利でーす‼︎」
「飛行魔法の事すっかり忘れてた……テヘッ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます