第10話 天使のユーキと悪魔のパティ
杖を構えるパティ。
「あんた達、よくもユーキをこんな目に……殺す‼︎」
魔装をするのかと思われた次の瞬間走り出し、正面に居た男の顔面に飛び膝蹴りをくらわすパティ。
「格闘戦かよ‼︎」
着地するまでの間に杖を30センチ程の長さに縮めて背中に装着する。
着地をし、右側から来た敵の側頭部に左回し蹴りを炸裂させ、その勢いのまま一回転して左から来た敵に右ハイキックを蹴り込む。
わずか5秒程の間に3人の男をKOしたパティ。
そのまま走り出し、更に遠方に居る集団の中に飛び込んで行く。
「つ、強い……魔法じゃないけど……」
驚いているユーキの横でメルクが否定する。
「いいえ、すでに魔法は使っていますよ」
「え? どこで?」
「ストレングスと言う、肉体強化魔法です」
「強化魔法……」
「ええ、じゃないといくら何でもあの細い体で大の男を一発KOなんて出来ませんからね」
「なるほど……確かにそうだ」
「くそ! そんな魔法があったのか……」
悔しがるユーキ。
「ところで……君誰?」
「ああ、これは申し遅れました……僕の名前はメルク・トーレ……アイバーン様の従者です」
「アイバーンって……さっきの変態かー‼︎」
「ハハ、否定は出来ませんが」
苦笑いのメルク。
「あ、でもみんなで助けに来てくれた……のか?」
「ええ、あのお二人が居ればもう大丈夫ですから、安心してください」
「そう、なの……?」
みんなが助けに来てくれた事に喜びを感じるユーキ 。
「来てくれてありがとう‼︎」
ユーキの笑顔を見て顔が赤くなり、目をそらすメルク。
「い、いえ」
「ああ、ところでメル君」
「クスッ」
ユーキの問いに何故か笑みを漏らすメルク。
「ん? 何かおかしい?」
「いえ、すみません! パティさんも僕の事をそう呼ぶもので、似た者同士なのかなって思いつい……」
一瞬ムッとした顔をするユーキだったが。
「まあいいや……そのメル君はパティを知ってる様な口ぶりだけど?」
「あ、ええ! 僕とアイバーン様とパティさんは、昔パーティーを組んでいた事があるんですよ」
「え! そうなんだ?」
「と言っても街から街へ移動する間だけの、一時的なものでしたけどね」
「一時的?」
「そうです……街の外には魔獣が出る為、移動する時はみんな一時的にパーティーを組むことが多いんですよ」
「ああ確かに……僕もパティが居てくれなかったら、危なかったもんなー」
「それはそうとユーキさん! 今のうちに早く魔力を回復された方がいいですよ」
「あ、うん、そだね」
魔装具を具現化し、シルバーカートリッジをセットすると魔石が光を放ち、その光が魔装具を通して体全体を覆っていく。
そのうちふと見慣れない金色のカートリッジの存在に気付く
(あれ? 何か増えてる? 何だこれ?)
疑問に思っていると。
「ユーキさんの魔装具はロッドタイプなんですね?」
「え? ああ、そうみたい……メル君は?」
「僕のは弓タイプなんですが、まだまだ修行不足ですよ」
「へー、色んなタイプがあるんだー」
体に力が戻った事を実感したユーキ。
「よし! これなら僕も戦える!」
参戦しようとするユーキをメルクが制止する。
「大丈夫ですよ、ユーキさん……もう終わりそうです」
パティの状況を見てみると、立っている敵は残り僅か3人だった。
「早っ‼︎ もうあんなに倒してる」
「このアマー‼︎」
1人の男がパティに向かって行くが、それを直立のまま裏拳で弾き飛ばすパティ。
残ったのは兄貴分の男とユーキに告白した男。
(あいつは……)
何かを思い近づいて行くユーキ。
「あ、ユーキさん!」
「あ、兄貴ー! 怖いっスー! おいらチビってるっスー‼︎」
「あ、安心しろ弟よ! 俺もだ!」
抱き合いながらガタガタと震えている2人
「あんたが……親玉ね……」
凄まじい殺気を放つパティに、どんどん後ずさりして行く2人。
ついに壁につき当たり逃げ場が無くなった。
「こ、この……悪魔めーーー‼︎」
半ばヤケクソで向かってくる兄貴。
「だ、誰が……悪魔だーーーーー‼︎‼︎」
渾身の右パンチが兄貴のみぞおちにめり込み、壁とサンドウィッチ状態になる。
「ぐぅええ‼︎‼︎」
白目をむいて崩れ落ちる兄貴。
「あ、兄貴ーーーー‼︎」
残りはユーキに告白した男だけ。
「あとはあんただけよ……覚悟しなさい……」
「ひい‼︎」
あまりの恐怖に腰を抜かす男。
「め、女神様お助けっスーーーーー‼︎」
拳が降り下ろされようとした瞬間。
「パティ‼︎」
その声に男の寸前で止まる拳。
「ユーキ?」
振り向くパティの近くまでユーキが来ていた。
「あ……あのさ……何ていうか……もういいよ」
「え? どういう事?」
「いや……あの……せっかく助けに来てくれたのに何なんだけど……もう、許してあげようよ」
気まずそうに言うユーキ。
納得のいかないパティはユーキに反論する。
「何で? ユーキはこいつらにさらわれたのよ? 殺されてたかもしれないのよ? いえ、現にさっきこいつらはユーキを殺そうとしてたのよ? あたし達が来なかったら今頃……」
「う、うん……まあそうなんだけど……ほらっ……この通り僕は何ともないんだし……ね」
そう言って両手両足を振って見せるユーキ。
「あ、いや! 勿論助けに来てくれた事にはホント感謝してます! 実際もうダメかと思ったし、もしかしたら誰も助けに来てくれないんじゃないかなー? とか思ってたし……だからパティ達が来てくれて、凄く嬉しかった! ありがとう‼︎」
深々と頭を下げるユーキ。
フッとパティの殺気が消え。
「ふうっ! 分かったわ……ユーキがそこまで言うなら許してあげる」
「うん‼︎ ありがとう! パティ‼︎」
ニコッと笑うユーキの笑顔に顔を赤くするパティ。
「あ、でも……ちゃんと平等にやっとかないとね」
そう言って渾身の張り手を男に食らわすパティ。
「痛いっスーーー‼︎」
「ヒーリング!」
一箇所に集められた男達に治癒魔法を掛けているパティ。
「全く……自分をさらい、更に殺そうとまでした者達を治療するとは……とんだお人好しだな、ユーキ君は」
「あたしだって助けたくはないけど、ユーキがそうしたいって言うんだからいいのよ」
優しい顔で言うパティ。
「ユーキが止めなかったら皆殺しにするつもりだったけどね」
怖い顔で言うパティ。
「ハ、ハハハ」
「ふむ……戦場においてあの優しさは、時に命取りになるが……フフ……私は嫌いではない」
「ゴメンねパティ、無理させちゃって」
戦いを終えたばかりのパティを気遣うユーキ。
「大丈夫よ、この程度……まだカートリッジの予備もあるしね」
「帰ったらマッサージでも何でもしてあげるから、頑張ってねー!」
去って行くユーキ。
「あたし頑張るわ‼︎」
目が血走るパティ。
意識を取り戻した男達が座っている。
その近くの小さな岩に座っているユーキ。
「おめえ、何で俺達を助けた?」
ユーキに問う兄貴分の男。
「んーーー、何となく?」
「俺らはおめえを殺そうとしたんだぞ‼︎」
「でも僕、生きてるし」
「おめえ、こんな事した俺達が憎くねえのか‼︎ 腹が立たねえのか‼︎」
「うーーん……そりゃあ初めのうちはぶっ飛ばしてやろう‼︎ とか思ってたけど、何かだんだんそんな気も薄れてきちゃって……それにもう、パティが充分ぶっ飛ばしてくれたしね」
「ユーキ……」
赤くなるパティ。
「だけどよー」
何か言おうとする男にバッ! と手で制して。
「もう済んだ事はいいの‼︎ それに、もし今日僕が殺されてたとしたら、パティがあんたたちを殺してたかもしれない……そしたら、あんたたちの仲間がまたパティを殺しに来るかもしれない……」
「そんなの……全然面白くないじゃない」
「みんなで笑ってる方が楽しいじゃない」
「この間のショー、とても面白かったよ! また見せてよ!」
ニコッと笑うユーキを見て、男達が口々に。
「て、天使だ……天使様だ……女神様だ……」
それを聞いたパティが憤慨する。
「何でユーキが天使であたしが悪魔なのよー‼︎ ま、まあユーキが天使なのは認めるけども……」
アイバーンが前に立ち。
「本来ならばお前達のやった事は決して許されない事だが、ユーキ君たっての願いにより不問とする‼︎ これからは真っ当に生きて行く事だな‼︎」
「すまなかった嬢ちゃん‼︎ これからはこいつらと真面目に生きて行く! だから許してくれ‼︎」
「うん! 許す‼︎」
満面の笑顔のユーキを見て、そこに居た全員の顔が赤くなる。
「か、かわいい…………」
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