第11話 君は全員言える?

 ユーキをさらった男達を解放した後、まだ採掘場に残っているユーキ、パティ、アイバーン、メルクの4人。



「ああ、いいわー! ユーキ! そこ、そこよ! あん、痛い! ねえ、もっと優しくして……ああ、そうよ! ああー! ああーん!」

「定番のボケすんな‼︎」

 ポカッ‼︎

 パティの頭を叩くユーキ。

「痛あーい‼︎ 酷いわユーキったらー! せっかく助けてあげたのにー」

「だからこうしてマッサージしてあげてるだろー」

 うつ伏せに寝ているパティをマッサージしているユーキ。

「ああ、至福の時だわ……」

 ご満悦のパティ。



「ところでさー、ユーキ?」

「ん?」

「ちょっと思ったんだけど、ユーキってば35のおっさんとか言ってるくせに、時々妙に女の子っぽい所があるのよねー、言葉遣いとか仕草とか」

「むぐっ‼︎」

 ユーキの手が止まる。



「ん? おっさん? とはどう言う事だね?」

 気になったアイバーンがパティに質問する。

「ああ、この娘自分は35歳のおっさんだーとか言ってる、ちょっと痛い娘なのよねー」

「む……痛い娘ゆーなー‼︎」

 パティの背中を思いっきり摘むユーキ。

「いいっ‼︎ い、痛い‼︎ 痛! 痛いってばー‼︎」

「まだ言うかー‼︎」

「ええ? ち、違っ! ユーキじゃなくて! あ、あたしが痛いー‼︎」


「ふむ……よければ詳しく聞かせてもらってもいいかな? ユーキ君」

「う……うん」

 以前パティに話した経緯をアイバーン達に話すユーキ。



「うーん、ちょっと信じ難い話ですねー」

「そうだな……ただ見た目だけを変えるならば幻術で可能だろうが、実際に年齢や性別まで変える魔法など聞いた事もない……ただの魔導書にそれ程の力があるとは思えないが……」


「そうなのよ、だからあたしもイマイチ信じられないのよねー」


 アイバーン、少し考えて。

「ユーキ君、1つ可能性の話をしよう……」

「う、うん」

「君はその……おっさんだった頃の記憶はあるんだね?」

「うん」

「ではもし、その記憶が偽物だったとしたら?」

「え?」


 まさかの言葉に動揺するユーキ。

「さっきも言ったように、年齢や性別を変える魔法など、私は聞いた事がない……もしそんな事が出来るとしたら、それはもう神の所業だ! ならばどう言う事か?」

「簡単な話だ……君の記憶を書き換えればいい……異世界に居た35歳のおっさんだったと思い込ませればいい……それならば邪法を使えば不可能ではないだろう」



「え? あ……えと……ど、どう言う、事?」

 もう分かってはいたが、余りの衝撃に素直に受け入れる事が出来ずに聞き返すユーキ。



「つまり……君は異世界から来たおっさんなどでは無く、元々この世界に存在する、正真正銘の女の子だと言うことだ‼︎」



 言葉を失うユーキ。



「そうよねー、そう考えるのが自然よねー」


「えと……ちょっとゴメン……」

 考え込みながら、フラフラと洞窟の奥に歩いて行くユーキ。


「ユーキ君‼︎ あくまで可能性の話をしただけだ‼︎ 気を悪くしないでくれたまえ‼︎」

「メルク、ユーキ君の側についていてやってくれ」

「はい、わかりました」

 ユーキの後を追い奥に歩いて行くメルク。





 洞窟の奥の細い通路の途中で、壁を背にして体育座りをしているユーキ。




(元々本物の女の子だった? おっさんだった頃の記憶が偽物? 35年分の記憶があるんだぞ? この記憶が全部作られた物だって言うのか? そ、そりゃ人生全ての出来事を鮮明に覚えてる訳じゃないけど……)


(色々遊んだゲームの事だって覚えてる! 今まで見たアニメの事だって覚えてる! 歴代プリキ◯アの名前だって全部言える!)

(その記憶が全部偽物だって? 書き換えられた? 誰に? 何の為に?……)




「ユーキ、大丈夫かしら?」

「ふむ……思いの外ショックが大きかったようだね……だが本当の所は今の私達にも分からない」

「そうね……」




「ところでパティ君、そろそろ魔力は回復したかね?」

「え? ええ、もう大丈夫よ」

「そうか、ならばなるべく早くここを出た方がいい……こういう地脈の集まる場所には魔獣が集まりやすい」


「そうね、こんな狭い場所で大物に出会ったりしたらシャレにならないわ……」



「ハッ‼︎ そう言えば、今洞窟の奥ではユーキとメル君の二人きり……メルク‼︎ もしユーキに手を出したら殺す‼︎‼︎」


 奥に入って行くパティ。


「パ、パティ君‼︎ やめてくれたまえ‼︎ メルクは私の大切な友なんだ‼︎」





「……………………キ◯アミラクル、キ◯アマジカル、キ◯アフェリーチェ! どうだ‼︎ 全員言えたぞ‼︎」


 歴代プリキ◯アの名前を全員言い終えた頃、メルクが隣にやって来た。


「ユーキさん、大丈夫ですか?」

「メル君」


「いやー、ちょっとビックリしちゃってね」

「アイバーン様はあくまでその可能性もあるって言っただけで、まだそうと決まった訳じゃないですから」


「うん……でも本当の自分がどっちなのか分かんなくなっちゃってね」

「別にどっちだっていいじゃないですか?」

「え?」

「元おっさんだろうと、元々女の子だろうと、今ここに居るユーキさんは本当のユーキさんなんですから」


 顔が赤くなるユーキ。

「うん、ありがと……優しいね、メル君は」

 メルクの顔も赤くなる。


 2人共顔をそらす。






「……‼︎‼︎‼︎」

 アイバーンが何かの気配に気付く。


「いかん‼︎ 3人共‼︎ 早く戻ってくるんだー‼︎」

 洞窟の奥に向かって叫ぶアイバーン。



「え? 何?」

 パティも気配に気付いて後ろを振り返ると、巨大な龍のような魔獣が洞窟の入り口から歩いて来るのが見えた。

「あ、あれは、まさか……ワイバーン‼︎」



「ユーキー‼︎ メルクー‼︎ 早く戻って来てー‼︎‼︎」


 パティが叫んだ時、ワイバーンが巨大な炎のブレスを吐いた。

 その炎は洞窟の奥に当たり、天井が崩れ落ちた。





「ユーキーーーー‼︎‼︎」

 パティの声が洞窟に響き渡る。


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