第9話 どさくさ紛れのセクハラ

「ねーねー兄貴ー! ホントにあの娘殺さない?」

「ああ、心配すんな! 殺さねーよ!」

「約束だよー! 絶対だよー!」

「ああ、約束だ! 弟よ!」


「さあ、野郎共‼︎ 魔力が満ちるまで前祝いだ! じゃんじゃん飲めーー‼︎」

「おおーーー‼︎」




(ん? 話し声?)

 目覚めるユーキ。

 どこか遠くの方で話し声が聞こえる。


「顔が……冷たい……」

 意識がハッキリしてくると、自分が土の上にうつ伏せに寝ている事に気付く。

「あれ? 何で僕、土の上で寝て……あうっ!」

 体を起こそうとしたが、バランスを取れずにまた地面に崩れ落ちる。

 両手が背中側で縛られていた為に起き上がれなかったようだ。


「え? 何だこれ?」

 自分の状況がまだ理解出来ないユーキ。

「ん……この……よいしょ……」


 どうにかこうにか体を起こし、座る事に成功したユーキは周りを見渡すと、自分が祭壇らしき物の真ん中にある魔法陣の中に居る事に気付いた。

「これって、魔法陣……か?」


 少し離れた場所に見せ物小屋に居た男達が居る。

 こちらに気付いた様子はなく、何やら宴会をしているようだった。


「あいつら……そうか、僕あのままベンチで寝ちゃって捕まったって事か?」

「な、情けない……」

 ようやく現状を理解したユーキ。


「まいったなー、どうしよ……」




 ほぼ同じ頃、偵察に来ていたメルクがユーキを見つけ、写真と見比べて。

「あの娘……で間違いないな……敵の数は……」

 中の状況を確認した後、急いで入り口まで戻るメルク。


「アイバーン様! 居ました! 大丈夫です、ユーキさんはまだ健在です」

「そうか! ご苦労だった、メルク」

「ユーキ……良かった……」

 一安心の2人。


「では、打ち合わせ通りに」

「ええ!」

「はい!」

 作戦を確認し合い、中に入って行く3人。




 とりあえず、気付かれないように寝たふりをしながら脱出方法を考えているユーキ。


「さて……どうすっかなー……」

(このままの状態で走って逃げる? 無理! 間違いなく途中で捕まる)


(縄抜けを試みる? ダメだ! ガッチリロープで縛られているし、普通の少女並みの力しか無いことは実践済みだ)


(どうにかして魔装具を発動させる? いや、仮に上手く口とかを使って発動出来たとしよう……でもさっきまで魔力切れで気絶してた事を考えると、一発の魔法も打てない可能性が高い……そうなると結局捕まって終わりだ)


(パティが助けに来てくれるのを待つ? それが1番可能性が高いが、はたして僕の居場所が分かるだろうか? いや、それ以前にパティが僕を助けに来てくれるのか? 別に僕を助ける義理は無い訳だし……)


「うーん……どうすっかなー……」



「何だてめえは‼︎」

 その怒号を聞き、転がりながら体制を変え、入り口の方を見るユーキ。

 数時間前の光景が蘇る。

「あいつ! あの時の変態イケメン!」

 その服装は、またしても金の海パン一枚だけだった。

(何でまだ海パンなんだよ‼︎)

 悪漢共に聞こえないように、心の中でツッコむユーキ。


「あー‼︎ 兄貴‼︎ あいつだ‼︎ 俺達の邪魔をした変態野郎は‼︎」

「ほー、てめえが……それで、その変態騎士様がここに何の用ですかね?」

「かわいいお嬢さんがさらわれたと聞いてね……出来ればこのまま大人しく返してくれないかな?」


「ふざけんな‼︎ お宝を前にしてこのまま引き下がれるか‼︎ 行け! お前ら‼︎」

 数名の男達が武器を手にアイバーンに向かって行く。


「やれやれ、手荒な真似はしたくなかったのだがね」

 そう言って胸のペンダントを引っ張ると、瞬間に服が装着され、立てれば肩口まであるであろう長さの、鞘に収まった黄金色の大剣が現れた。


 男達がいっせいに斬りかかると、剣を抜かないまま数名の男達を一瞬にして叩き伏せるアイバーン。


「あいつ強い! しかもカッコイイし……剣士かー、いいなー……」

 ユーキのペンダントが淡い光を放つ。


「や、やべえよ兄貴ー‼︎ やっぱあいつ強いよー‼︎」

「ぐ……くそう……せっかくもう少しでお宝が手に入る所だったのに……」

「えええい‼︎ こうなったらあのガキを殺しちまえー‼︎」


「げ? ヤバイ! ヤバイってー‼︎」

 イキナリのピンチに焦るユーキ。


「ええ? ちょっと待つっス兄貴ー! 殺さないって約束したじゃないっスかー‼︎」

 必死に兄貴にしがみつく弟。

「離せ! 馬鹿野郎! あの変態野郎にガキを守れなかった事を一生後悔させてやるんだよー‼︎」

「フッ……愚かな……」

 何故か焦る様子もなく動こうとしないアイバーン。



 ユーキに迫る男達。

「んーーーー‼︎」

 目を伏せるユーキ。



「ウインドウォール‼︎」

 聞き慣れた声が響いたと同時に、ユーキの数メートル前に風の壁が現れた。

「ぐわっ‼︎ ぐえっ‼︎」

 イキナリ現れた風の壁に次々とぶつかって行く男達。


 ユーキが顔を上げると、何もない空間からパティとメルクが現れた。


「パ、パティ?」

 目に涙を浮かべながら静かにユーキに抱きつくパティ。

「パ、パパ、パティ?」

「良かった……ユーキ……良かった…………」

「パティ……」


 しばらくユーキを抱きしめたあと、バッと離れて身体中を触るパティ。

「大丈夫? どこも怪我は無い? 変な事されなかった?」

「ひゃ、ひゃひゃひゃひゃ、だ、大丈夫だって‼︎ ひゃひゃひゃ、くすぐった、ひゃひゃひゃ! な、何かデジャビュー! ひゃひゃひゃひゃ‼︎」


 グッタリするユーキ。

「ごめんなさいユーキ……あたしが側に居ながらこんな目に合わせてしまって……」

 凹んでいるパティ。

「いやいや、パティは全然悪くないよ‼︎ 僕が不注意だったのがいけないんだから‼︎ 来てくれてありがとう! とても嬉しい‼︎」


 ユーキの笑顔に顔を真っ赤にするパティ。

「んーーー! やっぱりかわいいっ‼︎」

 再びユーキを抱きしめるパティ。

「な、何だよ! 恥ずかしいってばー‼︎」


「あ、あのさ! 助けてくれるなら早くこのロープほどいてよ! もう窮屈でさー‼︎」


「え、ええそうね、ごめんなさい」

 ロープをほどこうとするが、ふと手が止まり。

「いや、いっそこのままにしておけばユーキは抵抗出来ないから触り放題……」

 良からぬ事を考えだしたパティに。

「怒るよ‼︎」

 冷ややかな目で言うユーキ。

「い、いやあねえ? 冗談よ冗談!」


「ウインドカッター!」

 かぜの刃でロープを切断した後。

「ユーキ、早くこれで魔力を回復させて」

 銀色のカートリッジを渡すパティ。

「この前のと色が違う?」

「奮発して1つ上のランクのを買ったのよ」

「おおー」



 パティ、スッと立ち上がり男達の方を向き。

「さあて……それじゃあお仕置きタイムと行きましょうか‼︎」

 指をポキポキと鳴らすパティ。

 体の周りから黒いオーラの様な物が立ち昇っている。




「こ、怖い……」


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