第5話 あなたが落としたのは、この普通の海パンですか? いいえ、金の海パンです
ユーキ達の前に現れた青年は、何故かずっと目を閉じたままポーズをとっている。
「何だ? てめえは‼︎」
「詳しい事情は知らないが、私はその少女の味方だ」
ポーズをとったまま男達に近づいてくる青年。
「な、何だこいつ‼︎」
「顔はいいくせに変な格好で変なポーズしやがって……この変態イケメンが‼︎」
「いやいや、私はイケメンなどではないよ」
「変態は否定しねーのかよ」
さり気なくツッコむユーキ。
「関係ねー奴は引っ込んでろ‼︎」
声を荒げる男の横で、何かに気付いた男が小声で耳打ちする。
そっと近付き、聞き耳を立てるユーキ。
「お、おい! ちょっと待て! あ、あの紋章を見ろ!」
「あん?」
そう言われペンダント状態の魔装具に装飾された紋章を見る。
「イースの紋章がどうしたってんだ? このフィリス大陸はイース信仰者が多いんだ、別に珍しくないだろう」
「何か説明っぽいセリフだなー」
「そ、そっちじゃなくてもっと下!」
目線を下に移す男。
同じ様に目線を移すユーキ。
すると、金色の海パンの真ん中に紋章らしき物が見える。
「何てとこに着けてんだ‼︎」
一応ツッコむユーキ。
「あ、あれは王国騎士団の紋章じゃねえか‼︎ こ、こんな変態が王国騎士だってのか?」
少し考えた後。
「わ、分かったよ! 今日の所は引き上げてやるよ!」
大人しく去っていく男達。
「うむ、賢明な判断だ」
「さて、お怪我はありませんか? お嬢さん」
青年に近付いて行き。
「あ、うん……助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして……ああ、自己紹介がまだだったね……」
「うん、別に聞いてない……」
ボソッと言うユーキ。
「私の名はアイバーン‼︎ アイバーン・サン・クルセイドだ‼︎」
「あ、僕の名前はユーキだ」
「ユーキ……美しさと勇ましさを兼ね備えた、いい名だ」
「あ、ありがと……」
少し照れているユーキ。
「ところで、そのアイバーンさんは何で僕を助けてくれたの?」
「い、いや、変な所で切らないでくれ……アイバーンさんではなく、アイバーン! サン! クルセイドだ!」
「いたいけな少女が悪漢共に追われていたなら! それを助けるのは男として当然だろう?」
「ハハ、確かに納得の理由だけど、実際に出来る人はそうは居ないよね……ま、何にしても助けてくれてありがとう」
「それじゃあ僕、人と待ち合わせしてるから」
左手を振りながらアイバーンの横を通り過ぎるユーキ。
シュバッ‼︎
一瞬目の前の風景が歪んだように見えた次の瞬間、後ろに居たはずのアイバーンがいきなり目の前に現れた。
同じポーズのままーー
「待ちたまえ‼︎ ユーキ君!」
「うわおっ‼︎」
「び、び、びっくりしたー‼︎ いきなり現れんなよ‼︎」
「いやーすまない、少々聞きたい事があってね」
「てか何でずっとポーズ取ってんだよ」
「今朝方この街に着いたのだが、街である噂を聞いてね」
「噂?」
「何でも昨日、この街の近くに現れたサイクロプスを2人の少女が倒したとか……」
何だかめんどくさい事になりそうだったので、とぼける事にしたユーキ。
「へ、へえー……そんな事があったんですかー、知りませんでしたー」
「それじゃ」
アイバーンの横を通り過ぎるユーキ。
「まあ待ちたまえ!」
「ひっ‼︎‼︎」
またもや一瞬で目の前に現れるアイバーン。
同じポーズのままーー
「トドメを刺したのはピンク色の髪をした、かわいい少女だったとか?」
ドキッとしたが尚もとぼけるユーキ。
「やだなぁ、今時ピンク色の髪なんて珍しくないですよー」
かわいいということは否定しないユーキであった。
(ずっと目をつぶってるのに、何で気付かれるんだ?)
今度は物音を立てないように、なるべくアイバーンから離れて壁伝いにゆっくり歩くユーキ。
「その魔装具!」
「ギャアッ‼︎‼︎」
またしてもイキナリ現れるアイバーン。
同じポーズのままーー
「それやめろー‼︎‼︎」
涙目のユーキ。
(てか周りからみたら少女を追い回す変質者だぞ?)
「君の着けている魔装具……見たところ、かなりのランクのようだが?」
少し間が空きーー
「こ、これは祖父の形見なんですよー! でも私、魔法の才能全然無くってー!」
「だからさっきも逃げる事しか出来なかったんですぅ! あーん、怖かったー」
かなりわざとらしい物言いだが、一応理屈は通ってると思う。
「そうだったのか……これは無粋な事を聞いた、許してほしい」
「あ、いや……大丈夫、気にしてない……です」
(信じた……のか?)
「それじゃ、失礼します」
アイバーンの横を通り過ぎようとした時、バッとアイバーンの方を見て移動してない事を確認するユーキ。
3歩程歩いて再びアイバーンの方を見るユーキ。
「ハハッ! 安心したまえ、もう引き止めはしないよ」
ホッとひと安心して去っていくユーキ。
(いやー、ああいう危ない奴とは関わらないのが1番だ……)
ユーキと別れて少したった頃、残ったアイバーンの元に1人の少年が駆け寄ってくる。
「こんなとこにいらっしゃったんですか? アイバーン様」
「やあメルク、よくここが分かったね」
「そりゃ海パン一枚の変態が居たってみんな騒いでましたからね」
「ん? 何か言ったかね?」
「いえ何も」
「ところで……」
「ん?」
「いつまでそのポーズ取ってるつもりですか?」
「いやー、格好つけて登場したものの、やめ時を見失ってしまってねー、ハハハハ!」
両の手のひらでアイバーンの頬を挟み込むメルク。
「ムギュッ」
アイバーンのポーズが解ける。
「これで大丈夫ですか?」
「いやー、助かったよメルク、かなり腕が辛くなってきた所だったんだ」
「早く服も着てください! みっともない!」
「ハハ、相変わらず辛辣だなー、君は」
アイバーンが胸のペンダントに触れると、一瞬にして服が装着された。
「お探しの方が見つかりましたよ、アイバーン様」
「そうか、では久しぶりに会いに行くとするか……黒い悪魔に……」
目を見開くアイバーン。
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