第103話 誤算……
後はブラックホールの消滅を待つだけだが、少々大きく作りすぎたのだろうか……
敵艦50隻を吸い込んだブラックホールは消える様子がない。
まずい。
あんな超重力の空間歪曲領域が惑星軌道や衛星軌道近くに存在し続ければ、下手をすると公転軌道に影響を与えて取り返しがつかないことになりかねない。
「どうしよう、カスミちゃん。ちょっと大きく作りすぎたみたい……。あのブラックホール、消える様子がないよ」
「落ち着いて、アイネちゃん。敵はいなくなったんだから、あのままでもいいんじゃない」
どうやら文系のカスミちゃんはブラックホールの脅威についてあまり理解していないようだ。
「このままだと、ブラックホールの重力で衛星や惑星の公転軌道に影響が出るわ」
「それってどういうこと……」
「月が落ちてきたり、惑星が太陽に飲み込まれる軌道に突入するかも知れないってことよ。
昔、小さな隕石だか小惑星だかを地表に落としたことがあるけど、直径10キロほどのクレーターが砂漠にできたわ……
あの連星の月が落ちたら、私たちの惑星そのものが壊滅的な被害を受けてしまう」
私の説明に、ことの重大さを認識したのか、カスミちゃんの顔色が青くなる。
「大変ね……。新魔法ムーンインパクトとかサテライトアタックとかできちゃいそう……」
でも、冗談を言う余裕はあるみたいだ……
「とりあえず、ブラックホールを作るときと逆の空間制御を二人でぶつけて中和できないかやってみましょう」
「分かったわ」
私たちは三次元空間を下にゆがませるイメージでブラックホールを作るが、今は逆に上にゆがませるイメージで空間を歪めていく。
徐々にブラックホールが小さくなる。
あと少しだ。
「もうちょっとね……
一気に行くわよ」
「うん」
私とカスミちゃんが気合いを込めて空間を制御するとブラックホールが消えて代わりに白い点が現れた。
何だろう……
何か猛烈に嫌な予感がする。
「アイネちゃん、何か白いのができたね」
「そうだね、とりあえず行って見よう……」
私はサイコキネシスで張りぼて宇宙船を操船し、白い点へと近づこうとするが、ある程度進んだところで全く近づけなくなった。
「ダメだわ。これ以上近寄れない。あの点からはじかれているみたい……」
「私も手伝ってみるね」
カスミちゃんもサイコキネシスで張りぼて宇宙船を動かそうとするが、少し近づいたところでそれ以上進まなくなる。
私とカスミちゃん、二人がかりでも近づけない。
これは、もはや何者もあの白い点には到達できないだろう。
どうやら私たちは、ブラックホールを中和する際にやり過ぎてしまったようだ。
ブラックホールが、光すら脱出できない引力空間であるとするなら、あの白い点は光すら到達できずにはじき返される斥力空間ということになるのだろうか。
あんなものを放置しておけば、巨大な斥力で公転軌道に影響が出て、ブラックホールと同じ悲惨な結果を招きかねない。
あれがブラックホールを消すときにできたのなら、今度はブラックホールを作る要領で、あの白い空間を通常空間に戻すしかない。
私はカスミちゃんと協力し、今度はやり過ぎないように細心の注意を払って、白い空間を消滅させた。
この日の夜に私とカスミちゃんは久しぶりにあの脳内アナウンスを聞き、ホワイトホールクリエイションという魔法を覚えたことを知ることになる。
一刻の猶予もないときに、思わぬ時間を取られてしまった。
次は地上に展開しているシャトルを何とかする番だ。
私は張りぼて宇宙船を敵シャトル団が駐機する平原から少し離れた森の中へとテレポートさせた。
【本作におけるホワイトホールの設定について】
こんにちは。作者の安井上雄です。
本話で登場したホワイトホールですが、論理的に導かれるホワイトホールの理論とは異なる設定です。
アインシュタインの一般相対性理論では、事象の地平を超えて物質が吹き出す場所と設定されるそうですが、斥力ではなく重力による現象なので、ホワイトホールの外側にはブラックホールが形成されて、結局事象の地平を超えることができず、吹き出した物質は事象の地平に溜まっていくという解釈もあるそうです。
ブラックホールについては、最終的には大きいものでもホーキンス放射によって蒸発すると言うことらしいのですが、本話では、簡単に蒸発しないブラックホールに焦った主人公たちが、空間特性をブラックホールと逆にしてしまったため、何者も到達できない点が出現してしまいました。
一般的なSF作品では、ブラックホールを入り口、ホワイトホールを出口に設定して、ワープしたり、ワームホール等を想定することが多いようですが、本作ではブラックホールとホワイトホールをつないでワープするような設定はありません。
基本的にブラックホールに吸い込まれる時点で、物質は極限まで圧縮されて、分子も原子も崩壊し、全ては中性子だけになってその後消滅しまうようなイメージで執筆しています。
御了承ください。
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