第102話 実力行使……
月面コロニーの端っこに放置していた張りぼて宇宙船は、当時のままの姿をとどめている。
さすがに、外宇宙でも耐えられるように頑丈な機体にした効果があったと言うことだろう。といっても張りぼてだけど……。
今回は、一刻を争う。現在進行形で侵略を受けている真っ最中なので、科学的な宇宙戦争を装う余裕は無いと考えている。
「カスミちゃん、クレヤボヤンスで確認しながら、敵母船団をブッラクホールに吸い込ませようと思うんだけど、意見を聞かせて」
「それだと私が手伝えないけど……」
「今回は、他にも地上に降下した部隊がいるから、そっちで手伝ってもらうわ」
「分かったわ。アイネちゃん」
私は連星の月付近に展開している敵船団をクレヤボヤンスで確認すると、徐々に空間を歪めていく。
敵の巨大な串団子型宇宙船は何が起こったのか分からないうちに、徐々に空間の歪みへと引き寄せられはじめる。
旗艦と思われる宇宙船の至近距離に発生させた大きめの歪みはついに三次元空間の限界を超えて歪み、宇宙に真っ黒い穴が出現した。
徐々にその穴へと船団が引き寄せられる。
最もブラックホールの至近距離にいた旗艦が、事象の地平に近づくにつれ、徐々にその形状を変形させていく。船体を維持できず、外壁から押しつぶされながら徐々にブラックホールへと飲み込まれて行く様は圧巻だ。
異変に気づいた敵艦隊は回避行動に移った船が出始める。が、多くはブラックホールの巨大な重力に逆らえず、徐々に旗艦が消えたあたりへと引き寄せられている。
しかし、もっとも旗艦から離れて展開していた艦が10隻ほどブラックホールの重力を押し切って脱出しそうになっている。
「まずいわ。何隻か逃げ出しそう……」
「アイネちゃん。私も手伝うからテレポートして」
「分かった」
私はブラックホールの空間制御を一時中断して張りぼて宇宙船ごと敵艦隊が目視できるぎりぎりの距離へテレポートした。
「小さいブラックホールだとすぐに蒸発するから、少し大きめのを作ってみんな吸い込ませようとしたんだけど、何隻か逃げ出しそうになっているの」
「もう一つ二つ私が作ろうか?」
「ブッラクホールは私たちでも制御できるか分からないから、宇宙船を吸い込むようなブラックホールをこれ以上増やしたら、この星域にどんな影響が出るか分からないわ」
「それじゃあ、アイネちゃんが作ったブラックホールに押し込んじゃいましょう。
私はサイコキネシスで押してみるね」
そう言うとカスミちゃんは集中し、近いところにいる宇宙船から順番にサイコキネシスでブラックホールへと押そうとする。
「それじゃあ私は向こうの艦のエンジンを壊してみるね」
わたしはブラックホールの向こう側に展開していた宇宙艦を透視し、推進装置と思われる部分をサイコキネシスで潰してみた。ちょっと乱暴だが、エンジンを引きむしった感じだ。
効果はてきめんだった。
推力を失った艦から順に、どんどんブラックホールへと吸い込まれていく。
私が5隻目のエンジンを破壊し終わると、カスミちゃんも3隻目の敵艦をブラックホールへと押し込んだところだった。残敵数は後2隻だ。
とそのとき、残った2隻の後部エンジンが明るく輝きはじめる。
もしかして、ワープエンジンが起動したのだろうか。
「まずいかも。ワープで逃げられるとやっかいだわ」
「急ぎましょう、アイネちゃん」
「あの一際明るいところを壊しましょう。私は右をやるわ」
「分かった。私は左ね」
私たちはサイコキネシスで敵艦のワープエンジンと思わしき部分を船体から引きちぎる。
敵船体はきしんで後方装甲板が剥がれ落ち、輝いていた部分は沈黙しブラックホールへと消えていった。
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