第95話 卒業式が挙行された件について……


「卒業証書授与。

 卒業生代表、アイネリア・フォン・ヘイゼンベルグ」

「はい」


 何故か卒業生代表枠3人に選ばれた私は、式開始直後に行われる卒業証書の授与で、卒業生150人を代表して学園長からの卒業証書を受け取っている。


 代表枠の3人は、卒業証書授与が私、卒業生答辞がキャスバル王子、卒業記念品贈呈がカスミちゃんとなっており、やはりというか、いつものメンバーだ。


 羊皮紙に黒インクで書かれた卒業証書は、前世の厚いケント紙ものと比べても重厚感に溢れ、趣がある。

 もっとも、この世界にはまだ紙がほとんど普及していないので、ケント紙の卒業証書を作ろうにもできないのだが。

 我が領地で生産しているミツマタの紙は、少量ながら生産量こそ安定しているものの、厚みにバラツキがあり、卒業証書の紙としては品質に問題がある。


 証書を受け取りそんなことを考えている間にも式典は進む。


 入学当初は考えてもいなかったが、キャスバル王子やアーサー君、ロバート君、1学年上だったレイモンド王子など、多くの人と予想以上に仲良くなれた3年間だった。

 といっても、放課後の修行仲間といった意味合いが強いのだが……。


 レイモンド王子などは、卒業後に城での政務があるにもかかわらず、平日の夕方になると必ず練習部屋に現れ、結局ずっと一緒に訓練した。


 私もカスミちゃんも卒業後は冒険者を希望したのだが、何故か騎士団や宮廷魔術庁からしつこいくらいの勧誘が有り、王様の意向も働いて半強制的に城勤めとなる予定だ。

 部署は決まっておらず、色々な部門を1ヶ月ごとに回って研修せよとのお達しであった。


 この決定にレイモンド王子は

「これで学園まで来なくても毎日一緒に訓練ができる」と喜んでいる。



 学園長の挨拶、在校生代表の送辞と式は順調に進む。

「卒業生、答辞。

 卒業生代表、キャスバル・デル・アルタリア」

「はい」


 答辞の代表となったキャスバル王子が登壇し、学園長に向かって答辞を送る。

「水温む3月、草木は芽吹き、春の花があでやかに街を彩るこのよきに日、私たち150名は、無事にこの学園を巣立ち、一社会人として明日からこの国に貢献できることとなりました。

 思えば、3年前、何も分からなかった私たちを暖かく迎え、指導してくださった先生方のご恩は、いくつ感謝の言葉並べても足りるものではありません」


 あのやんちゃだったキャスバル王子がすごく立派なことを言っている姿に、歳月の流れを感じずにはいられない。


「私、キャスバル・デル・アルタリアは、王族としての素養を培うため、7歳の頃より研鑽を積み、学問、武術、魔術では同級生最強を自負して、この門をくぐりました。

 しかし、その思い上がりは、わずか数日で見事にへし折られ、砕け散ったのです。

 学問、武術、魔術、そのいずれもで私を遙かにしのぐレベルを見せつけてくれた二人の同級生の存在が、如何に甘やかされた環境にいたのかを私に思い知らせ、この国に貢献するためにはこの二人にどれくらいまで迫れるかだと知らしめられたのです。

 もはや圧倒的な差を見せつけられ、対抗するよりも師事するしかないと言う思いは、私のみならず、同級生皆の思いだったと確信しています。

 そんな私たちを見下すことも蔑むこともなく、一緒に毎日、訓練に付き合ってくれたカスミ・レム・ワットマンとアイネリア・フォン・ヘイゼンベルグの両名には、同級生ながら、感謝してもしきれません」


『おいおい、王子様、答辞に私たちの名前なんて入れていいのか』と突っ込みたくなった。

 隣を見るとカスミちゃんも自分の名前が出てきてビックリしているようだ。目が見開かれ呆然としている。


 しかし、カスミちゃんの名前を私の前に持ってきたと言うことは、王子の好感度はカスミちゃんにかなり傾いていると言うことなのだろうか。

 まあ、カスミちゃんが私を断罪するなどという事態は全く想定できないので、今世での破滅フラグは完全に消えたと思っていいだろう。


 そんなことを考えていると、王子が答辞を読み終える。


「以上、卒業生代表、キャスバル・デル・アルタリア」

 羊皮紙はつづら折りにできないので、巻いて小さくし、答辞の原稿を学園長に渡すと王子は降壇した。


 それにしても私が答辞でなくてよかった。

 正直、あんな長い文を考えるのは、根っから理系の私には向いていない。


「卒業記念品、目録贈呈。

 卒業生代表、カスミ・レム・ワットマン」

「はい」

 3人目の卒業生代表であるカスミちゃんが、登壇して目録を読み上げて学園長に渡す。

「記念樹10本、練習用長剣35本、記念花壇一式、右、卒業記念品として贈呈したします。

 卒業生代表、カスミ・レム・ワットマン」


 男爵家の令嬢であるカスミちゃんが代表メンバーに選ばれたのも、家の爵位より実力を重視する王立学園ならではのことだ。

 私たちの学年には公爵家の令嬢が二人もいるのだから、家柄で行けば私やカスミちゃんの出番はなかっただろう。


「以上を持って卒業式を閉じます」


 副学園長の閉式の言葉を持って、私たちは学園を巣立った。

 後は、今日の夜のパーティーを残すのみである。







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