第94話 ~3年間の回想~ 卒業パーティーが明日に迫った件について……


 この3年間、本当に色々なことがあった。


 カスミちゃんが私との再会のために作っていた花壇が、乙女ゲーム『花園で捕まえて』のエンディングスチルに使われていたツーショット背景だったことには驚かされた。

 今日の卒業パーティーで、もしもカスミちゃんの婚約者が決まれば、あの花園でツーショットとなるのだろうか……。


 カスミちゃんは1年生の1学期終わりには、めでたく王子の婚約者候補に名を連ねた。

 本人はいやがっていたが、私だって未だに名前が残っているのだ。我慢してもらおう。


 婚約候補と言えば、私とカスミちゃんは第1王子であるレイモンド様の婚約者候補としても名前が挙がっている。

 今日の卒業パーティーでは、親族招待枠で王や王妃に加え、キャスバル様の兄であるレイモンド様も参加されるそうだ。


 二人の公爵令嬢からの嫌がらせは、歓迎遠足からしばらくの間は沈静化し、このまま安定するかと思われたが、カスミちゃんが婚約者候補入りを果たしてから再び苛烈を極め、2年生の夏休み前には、ついに実力行使に及ぼうとする案件まで発生した。

 階段から私たちを突き落とそうとしたのである。


 エンパシーで悪意を感じ取っていた私たちは、レビテーションで難を逃れたのだが、突き落とすべき相手が空中に逃れたため、自らつけた勢いを止めることができずに二人の公爵令嬢は階段から転げ落ちた。

 2年1学期終業式前日のことである。


 その様子をたまたま階段を上がってきたレイモンド様が見ていてくれたことは後に大変助かることとなった。


 そのまま病院送りとなり、夏休みを病室で過ごした二人の公爵令嬢は、あろうことか私とカスミちゃんに階段から突き落とされたと主張したのである。

 下から階段を上がってきていたレイモンド様のことを、二人の公爵令嬢は気づいていなかったため、目撃者はいないと判断してのねつ造だった。

 ご丁寧に自らの取り巻きを目撃者に仕立てて告発したのだ。


 しかし、そこで目撃者として名を連ねた令嬢たちは、レイモンド王子の証言で嘘が暴かれ、結局私たちの断罪は空振りに終わる。

 立場を悪くしたナターシャさんとイリアさんはそれから少しおとなしくなった。


 王子たちはといえば、この3年間で剣術、魔法ともに飛躍的な成長を見せた。

 毎日のように私とカスミちゃんを訓練室に引っ張り出し、特訓を重ねた成果であろう。

 好奇心旺盛なところは変わっていないが、年齢相応の落ち着きも身につけつつある。


 果たして明晩の卒業パーティーでは、誰がカスミちゃんとくっつくのか……

 全く予想がつかない。


 恋愛関係のイベントがほとんど起きていないことから、このままお友達エンドもありえるが、王子たちとともに過ごした時間は、間違いなく私とカスミちゃんが最長である。


 少なくとも、このイベントで私が断罪されることはないだろう。



 サラセリアでもこの3年間で動きがあった。

 ヘンリー隊長が再婚したのである。

 お相手はサラセリアで調薬師をしているステレラさんだ。

 2年生の2学期に、私が眠り姫の二つ名をいただくことの原因となった熱病が、再びサラセリアで発生し、ヘンリー隊長が倒れたのだ。

 このとき、薬を取りに行く私に代わってヘンリー隊長の看病を引き受けてくれたのがステレラさんだ。

 すっかり勘違いしたヘンリー隊長が猛アタックして、めでたくゴールとなった。


 これを機に、稼いだお金で空き家を購入し、ヘンリー隊長の新婚生活を邪魔しないように配慮するとともに、サラセリアでの冒険者活動の自由度を上げることに成功した。

 私がアルタリアの夜間にサラセリアで一人暮らしをしていると知ったカスミちゃんが、

この時期からサラセリアでの冒険者活動に復帰し、一緒にビッグラビットやダークグリズリーを狩る機会が増えた。


 お父さんを故国に残し、私と一緒に冒険者をするためにサラセリアにもどったという設定である。

 実際は、毎夜毎夜、学園での授業が終わってから二人でテレポートしてきただけなのだが……


 カスミちゃんが羽目を外しすぎて寝不足となり、眠り姫が伝染したと噂されたことも今ではいい思い出である。



 何にしても勝負は、明日の卒業式後に行われるパーティーだ。

 私は今後の展開が読めずに悶々とし、なかなか寝付けないのであった。






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