第93話 『公爵令嬢の性格矯正大作戦』を決行した件について……


 クレヤボヤンスで確認したところ、ナターシャさんもイリアさんもよく眠っている。

 まずはナターシャさんから反省してもらおう。


 私はサイコキネシスでそっとナターシャさんを持ち上げると、起こさないように気をつけてカスミちゃんの待つ浜辺へとテレポートする。


 浜辺にはカスミちゃんによって砂のベルサイユ宮殿が建っていた。折しも寝待ちの月が天空にかかり、砂の城は荘厳な異様を見せつけている。


 私は宮殿の入り口にそっとナターシャさんを横たえると、風魔法を発動してナターシャさんに微風を吹き付ける。


 まだ肌寒い季節の夜半に、就寝用の出で立ちで浜辺に連れてこられ、風に吹かれたナターシャさんは寒さにブルリと震え目を開ける。


「うーん、寒い………

 って、ここはどこ?」

 状況がつかめていないナターシャさんはきょろきょろと辺りを見回し、自分の背後にあった巨大な砂の城に気がついた。

「えっ何、このお城…

 すごくきれい…」


 ここで私は、自分の声帯をサイコキネシスで少し引っ張ることで声色を低く変え、物陰からナターシャさんに向けて声を発する。


「砂の仲間を破壊せし罪人に砂の罰を与えよう…

 思い知るがよい。

 砂の守人よ、出ませい!」


 台詞と同時にサイコキネシスで砂を操り、7体の砂の人型を出現させる。

 1体の大きさは身長3メートルくらいにしてあるので、威圧感もバッチリだ。


 巨大砂人形7体に囲まれたナターシャさんは事態の推移について行けなかったが、砂人形に囲まれたところで顔を引きつらせて怯えはじめた。


 私はサイコキネシスで上空の空気を操り、強風を作ることで風鳴りの音を出し、それに併せて砂の人形をナターシャさんに向け動かす。


「ウオォォォーーーーン」

 風の音がまるで砂の巨人の咆哮のように聞こえる。


「ひっ」

 ナターシャさんは上半身だけ起こして座っていたが、砂の人形が迫ってくると膝行(いざ)りながら距離を取ろうとする。


 もくろみ通り、砂の宮殿の入り口へ誘導されている。

 後一押しだ。


 私は一番前に出てた砂人形の腕をナターシャさんの方へ伸ばし、更に威嚇する。

「ウオォォォーーーーン」

 風の音が絶妙のタイミングで効果音となる。


「ひーーーーいぃ」

 悲鳴を上げながらナターシャさんは立ち上がると、宮殿の中へと逃げ込んだ。


 砂の巨人は巨体故に宮殿の入り口は通れない。

 入り口から腕を伸ばし、ナターシャさんをつかもうとする。


 自然にナターシャさんは奥へ奥へと逃れる。


 ナターシャさんが奥へ逃れて届かない距離になったところで、巨人を一旦引かせ、辺りを静寂につつむ。


 しばらくすると、ナターシャさんは恐る恐る壁ののぞき窓から外の様子を伺いはじめた。

 計画通りである。


 私は7体の砂巨人を合体させ、大きな砂巨人を1体出現させる。

 そして大巨人は、砂の巨大な球体を両手で抱え上げる。


「砂の恨みーーー、思い知れーーー」

 私の声に合わせて砂巨人は巨大な砂の球体を砲丸投げのようなフォームでナターシャさんが隠れているあたりめがけて投げつけた。


「ひーーーーいぃーーーー」

 ナターシャさんは悲鳴を上げながらのぞき窓から離れるが、砂の球体は砂城の壁をぶち破り、ナターシャさんの頭上をかすめて反対側の壁へと激突した。


「ひぃひぃっ」

 ナターシャさんはもはやまともに悲鳴すら上げられていない。

 あと一押しだろう。


 私はカスミちゃんに合図を出す。

 と同時に、カスミちゃんは形状を維持させていたサイコキネシスを弱める。

 当然のごとく、砂城は崩壊をはじめる。


 最初は大穴の空いた壁の部分から崩れはじめ、天井の砂もドンドン落ち、ナターシャさんの頭上にもぱらぱらと砂が落ちる。

「ひぃひぃっひぃーーーー」

 このままでは生き埋め必至の状態であることは自明で有り、将に命の危険を体感できていることだろう。


「ひっ…うぅぅーーーーん」

 最後にとどめとばかり、大量の砂を天井が崩壊することで頭上に降り注がせるとナターシャさんはついに気絶した。


 私はサイコキネシスで落ちてくる砂の塊を寸止めし、気絶したナターシャさんを城の外へ移動させた。


「どう、こんなものかな?」

「バッチリだと思うよ。これだけやればさすがに反省するでしょ」

 私の問かけにカスミちゃんが満足げに同意してくれた。


 この後、気絶したナターシャさんを自宅のベッドにお返しし、イリアさんにも同じ体験を享受してもらい、この夜の私たちのミッションは終了した。




 余談だが、それから1年ほど立った休日に、たまたまナターシャさんたちと休日の公園で鉢合わせしたとき、砂場で遊んでいた小さい女の子たちを、少し年上の男の子たちが嫌がらせしている場面に遭遇した。


 それを見たナターシャさんとイリアさんは、私たちには目もくれずに砂場に急行し、少女の作った砂の造形物を破壊した少年たちを猛烈な勢いで怒ったのである。


「あなたたち、なんてことをするの!」

「人が一生懸命作ったものを壊したりしたら、砂の巨人の怒りに触れて世にも恐ろしい目に遭うわよ!!」


 どうやら性格の矯正は上手く行っていたようである。







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