第96話 卒業パーティーそしてエンディング?な件について……


 卒業パーティーには卒業生とその家族が参加する。

 卒業後は社会人としてそれぞれの道を歩むことになるが、貴族は家を継いだり領地の経営に参加したりするものも多い。


 また、15歳の成人をもって、仮婚約を正式な婚約とし、成婚するカップルも多い。


 乙女ゲーム『花園で捕まえて』でも、この卒業パーティーの場で、キャスバル様は3人の婚約者候補である悪役令嬢との関係を白紙に戻し、カスミちゃんにプロポーズする設定だった。


 メインルートしか攻略していない私は、他のルートでのエンディングを直接見ていないが、はまっていた友達の情報では、どのルートでも卒業パーティーがゲームのエンディングとなっているらしい。


 さてそこで今世の卒業パーティーだが、式自体は滞りなく進んでいるが、半ばを過ぎても動きがないように思える。


 これは、もしかしてお友達エンディングという奴だろうかと安心していた時期が私にもありました。


 とりあえずクラスメイトと歓談しこのまま終わるのかと思われたとき、キャスバル様と家族枠で参加していた第1王子のレイモンド様が並んで壇上にたち、私とカスミちゃんはアーサー君とロバート君に半ば強制連行されて壇の近くに連れて行かれた。


 二人の王子の横には家族枠で参加のジオニール国王陛下が立ち、それに何故か一番端にお父さまとジョーイさんも並んでいる。


「お集まりのみなさん、ここで王家から重大発表を行います」

 レイモンド王子が大きな声で宣言した。


「本日この場を借りて、王家第1王子レイモンド・デル・アルタリアと第2王子キャスバル・デル・アルタリアの婚約者を正式に決めたいと思う」

ジオニール国王陛下がお言葉を発した。


 まてまて、こんな展開は乙女ゲームにはなかったはずだ。

 ここはカスミちゃんを伴ったキャスバル王子による婚約候補解消イベントと、それに引き続く断罪イベントではなかったのか……?

 といっても、今世で私は断罪されるようなことはしていない。むしろナターシャさんとイリアさんから嫌がらせされただけだけど……

 更に言えば、今世ではカスミちゃんも2年前からめでたく婚約者候補へランクインしている。


 私が混乱の最中にある状態でジオニール王が話を続ける。


「第1王子レイモンド・デル・アルタリアの婚約者をアイネリア・フォン・ヘイゼンベルグ侯爵令嬢、第2王子キャスバル・デル・アルタリアの婚約者をカスミ・レム・ワットマン男爵令嬢とする」


 うわーーーー

 パチパチパチッ


 パーティー参加者から一斉に完成と拍手が上がった。


「おめでとう、アイネリアさん、カスミさん。

 カスミさんには、できれば俺と結ばれて欲しかったが、ここは素直に祝福するよ」

「二人とも、おめでとう。

 正直に言うとアイネリアさんには僕と結婚してともに魔術の極限を目指して欲しかったんだけど、レイモンド様と結婚されても魔術の研鑽はできるよね。

 是非、宮廷魔術庁で僕らをサポートして欲しい。とりあえずおめでとう」

 アーサー君とロバート君から祝福される中、私とカスミちゃんは戸惑いの中にあった。


「アイネリア、僕との結婚を了承してくれるよね」

 レイモンド王子がまっすぐ私を見つめて段を降り、一歩近づく。

「カスミ、俺についてくると言ってくれ」

 キャスバル王子も降壇し、カスミちゃんに歩み寄る。


 私とカスミちゃんは事前にいくつかのパターンを話し合っていた。

 乙女ゲームのような断罪イベント発生に私が巻きこまれるときはカスミちゃんがサポートしてくれる手はずであった。

 特に何も無く、カスミちゃんへの婚約が提示された場合は、カスミちゃんが受けるかどうかも真剣に話し合った。

 カスミちゃんはできれば私と冒険者がしたいし、男爵家の後継のこともあり、可能ならば辞退しておきたいという意向だった。

 その際は私がサポートに回ってカスミちゃんの援護射撃をする予定だった。


 しかしこの状況は想定外である。

 まさかのダブル求婚……

 周りの盛り上がりから言っても、すごくノーと言いづらい。


「カスミ、家のことは心配しなくてもいいぞ。

 親戚から養子を取ることも可能だから安心しなさい」

「アイネリア、私はいい話だと思うぞ。

 お前と王子たちはお前がサラセリアから帰還して以来、本当に仲がよかった。

 これ以上の縁談はないだろう」


 くっ。ジョーイさんとお父さまからも援護射撃か。

 ここは頷くしかないのか……


 カスミちゃんの方を見ると、カスミちゃんからも仕方がないかという感情が読み取れる。


 確かに、縁談としては悪くは無いのである。いやむしろ最高の縁談話ではある。

 権力が大好きな人なら、王妃や王兄妃はのどから手が出るほど欲しい地位だし、安定した暮らしも約束されるだろう。


 しかしそんなものに興味が無い私たちにとっては自由な時間が減るだけの苦行にしかならないような気もする。


 二人の王子は私たちの正面にたち、私たちの返答を待っている。

 周囲も人々も、私とカスミちゃんの返事を聞こうと、さっきまでの完成と拍手は止み、辺りは静寂に包まれている。


 もう、仕方がない。頷くしかないと覚悟を決めたとき、突然それは起こった。

「その縁談、お待ちになってください。

 その二人は娘たちに大怪我をさせた犯罪者です」

「それに、残念ながら第1王子のレイモンド様におかれましては国家転覆、謀反の疑いがかかっています」


 大きな声でそう怒鳴る声が聞こえた。

 皆、驚いて声の主の方を見る。


 そこにはどこかで見たことがあるような小柄で太った男とひょろっとして陰険そうな男が立っていた。

 二人の影に隠れるように、ナターシャさんとイリアさんが見える。

 二人とも顔色が真っ青だ。


 間違いない。あの男たちはナターシャさんとイリアさんの父親にして、うちのお父さまとの賭に負けたヨークシャー公爵とステットブルグ公爵だ。


 予想外の展開の連続に、私は思考が停止していた。







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