第49話 二人だけの防衛戦争! ハイテク vs ESP … (49話)

私たちはテレポーテーションでシャトルに乗り込む。

 というのも、このシャトルは完全密閉構造で、出入り口すら造っていないからだ。

 別名、完全張りぼてともいう。

 動力はもちろん二人のサイコキネシスだ。


 戦闘が始まれば、酸素を供給するために能力を発動する余裕はなくなるだろうことから、シャトル内の空気量を考えて戦闘は1時間以内。

 それを超えるようなら一旦撤収とする。


 私たちはエリアテレポートでシャトルごと小惑星帯へ移動し、サイコキネシスで小惑星を衝突させて岩盤を小さく砕く。

 惑星の輪を形成している小惑星帯だ。

 2センチほどの小石サイズの岩石を無数に造ると、造った小石ごと敵の死角になる赤い月の影にエリアテレポートした。


 ここからが勝負だ。

 私たちは手分けして小石を高速回転させる。

 回転力が上がるほど貫通力が増し、敵にダメージを与えることができる。

 亜光速まで回転速度を上げることができれば見かけの質量を飛躍的に増やすことも可能なのだが、岩石の構成分子がたえられるか分からない。

 途中で分解しては意味がないのだ。


 小石の回転にサイコキネシスを発動し続けること10分、自らの回転速度にたえきれず、飛び散る石が出始めたところで回転力を増すための角加速度をゼロにし、その回転数を維持したまま敵船団に向けて石を移動させる。


 最初から全力でサイコキネシスを使い、全力で小石の一つ一つを加速する。

 すぐに目視することは不可能な速度へと到達した小石の群れは、適度に散らばりながら敵船団へと無差別に衝突する。

 敵船団は警戒していなかったのか、それともシールド技術は持たないのか、簡単に船体に穴が空き、機関部を打ち抜かれた船は漆黒の宇宙を彩る花火となって静かに飛散した。


 爆発を免れた船にも相当の被害を出すことができているようだ。


 私たちは敵船団を砕けずに貫通した石や船に当たらずに通過した石を、赤い衛星を周回する楕円軌道に乗せる。


 残った宇宙船はおよそ3分の1の8隻。

 70%近い船を最初の一撃で宇宙の藻屑とすることに成功している。


 残存艦隊は索敵を開始したようだが、自然現象か人為的な攻撃か判断できていないようだ。

 8隻の串団子型宇宙船は、散開しながら船首を別々の方向に向けて警戒している。


 そのとき、私たちのシャトルの眼前に例のスクリーンが展開すると船体を揺らす振動波として音声が伝わってきた。


「今のは貴様たちか!

 こちらは、お前たちを発見した。

 抵抗は無意味だ。

 ただちに降伏して、武装解除し、先ほどの攻撃兵器を渡せ!」


 スクリーンでは人物の背後から煙を上げている様子の艦橋内部が分かる。

 宇宙船の船内から、街の上空に現れた人物と同一と思われる男が憎々しげな表情で声を荒(あら)らげ、私たちを恫喝してきた。


 こちらから音声を伝えるにはテレポートして乗り込むしかないので、私たちが返答することはない。


 どう見ても混乱している敵に降伏する理由もないので、私たちは作戦の第二幕へと戦局を移行させる。



 発見された以上、影に隠れている意味は少ない。

 張りぼてシャトルを敵残存艦隊正面へと移動させ、予定のポジションを取る。

 移動の動力源はもちろんサイコキネシスだ。


 敵も宇宙船のハッチを開き、機動兵器を投入する構えだ。

 数が増えると面倒だ。


 私たちはハッチが開きそうな宇宙船の、まさに開きかけているハッチの中央に無数の小型ブラックホールを出現させる。


 前世の国民的アニメで見たようなフォルムの人型機動兵器が宇宙船の内壁とともに次々と黒い点に吸い込まれ消えていく。


 艦の中央部分をブラックホールに吸い込まれて大破した五隻の敵艦が沈黙し、役目を終えたブラックホールは蒸発する。


 残り3隻はハッチが壊れているのか起動兵器を投入する様子はないが、代わりに船首をこちらに向けてカスミちゃんの街を破壊したミサイルを大量に斉射してきた。

 サイコキネシスで回避を試みるが、あまりにも高密度に発射されたミサイル群に、回避空間は無い。


 やむなく、ぎりぎりまで引きつけて爆発の中心空間から少し離れた所にシャトルごとテレポートする。


 敵艦からはミサイルの爆発が邪魔になりこちらの存在は分からないだろう。

 退避した場所に爆発の衝撃波が届く直前に、再び爆発の中心だった地点へとテレポートする。


 これで、敵からは爆発に耐えて無傷だったように見えることだろう。


 敵は爆発の硝煙が薄れていく中から現れた私たちに驚愕したのか、出っぱなしのスクリーンに写る男の表情が大変なことになっている。

 目は見開かれ、だらしなく空いた口からはよだれまで見えているのだ。

 副司令と思われる後ろの男は鼻水まで垂らしている。


 しばしの沈黙の後、再起動したスクリーンの男がわめく。

「おのれ!

 あれに耐えるとは!!

 ただの野蛮人だと思っていたが…

 こうなったらエネルギーを消耗するがやむを得ん!

 これで貴様らも終わりだ!!

 フォトンレーザー発射準備!!!」


 やはり、光線兵器である高出力レーザーを持っているようだ。

 こちらも球状にシャトルを覆う強化クリスタルガラスの内面に銀を蒸着し鏡面化の準備を始める。


 多層構造を誇る強化クリスタルの各層ごとに鏡面化することで、1枚や2枚が熱で溶けても大丈夫なようにしてある。


「わっはっはっはっはっ

 これで終わりだ!

 レーザー発射!!」


 男が怒鳴ると一番大きい旗艦と思わしき宇宙船から赤い光が私たちの宇宙船へと伸びる。

 といっても光速なので一瞬だ。


 私は発射の声とともにカスミちゃんとテレポートし、万一シャトルが破壊されても大丈夫なように、青い月の自室へと退避した。


 クレヤボヤンスを発動し、私たちのシャトルの行く末を見守る。

 壊れても問題ないのだが、一生懸命造ったシャトルだ。できれば無事に回収したい。


「たのむ。

 鏡よ耐えて!」

 理論は完璧でも傷の一つから破綻することはあり得る。

 私は宇宙の神に祈る。


 まっすぐに私たちのシャトルに伸びてきた赤い光は、そのまままっすぐ跳ね返された。

 成功だ。

「カスミちゃん!

 うまくいったよ!!」

「ホント! すぐに戻ろう!! アリアちゃん」


 私たちは張りぼてシャトル内へとテレポートする。


 銀の蒸着を解き、鏡面を解除すると、彼方で敵の母艦が爆発していた。

 反射されたレーザー光で自滅したらしい。


 シャトル前のスクリーンも消失している。

 どうやらあの宇宙船から送信していたホログラムだったようだ。



 これで残り2隻。


 残存勢力は180度回頭して撤退行動に移ろうとしている。

「アリアちゃん!

 急がないと逃げちゃうよ!!」


 事前の打ち合わせで、他の艦隊の増援を一番警戒していたのを思い出し、カスミちゃんがサイコキネシスを発動しようとする。


「たぶん大丈夫よ、カスミちゃん」

「えっなんで?」

「そろそろのはずだから…」

「???」


 カスミちゃんの頭上にクエッションマークが見えたような気がしたとき、残りの2隻が突然火を噴き、沈黙した。


 楕円軌道を一周した岩石の集団が戻ってきたのだ。

「ねっ」

 ニコッと笑ってカスミちゃんを見ると、状況を理解したカスミちゃんが破顔した。

「やったね、アリアちゃん。

 私たちは街の仇を討ったのね!!」

「そうだね。」


 喜ぶお友達を見ながら、異星人の侵略から無事に私たちの大切な人々やペットたちを守れたことに安心し、いるのかどうか分からないこの世界の神様に感謝した。

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