第48話 二人だけの防衛会議… (48話)

 私たちは状況を整理して作戦を練ることにした。


 現状で敵の存在をしっかりと認識できているのはおそらく私たちだけであろう。

 サラス共和国はもちろん、世界中のどの国も、あのような非現実的な映像を見せられても理解の範疇を超えてしまい、人は本能的に楽天的な結論を選択する。

 まして、攻撃されていた街は私たち以外知らない街だ。

 架空の出来事だと結論づけたことは想像に難くない。


「カスミちゃん、今回の攻撃だけど、他の人たちは現実を認識していないと思うの」

「どういうこと?アリアちゃん」

「壊されたカスミちゃんの街を、この星の人は現実の映像ではないと思っているらしいのよ。

 あのレベルの建造物が惑星上に存在しないから、余計に架空の映像だという印象を与えているみたいなの」

「確かに日本の高層ビルをモデルにしたりしたからあり得る話ね」




 次に、敵の戦力だ。


 敵はおそらく外宇宙を航行するテクノロジーを持つ異星人だ。

 状況から考えるに転生前の世界より遙かに進んだ科学文明を持っていることは確定だ。

 更に、よほど近いところに母星があるのでない限り、ワープ技術などの光速を超える移動手段を持っているだろう。

 星間帝国と名乗っていたことからも、ワープ能力はほぼ確定だ。


 ビーム兵器は使っていなかったが、使う必要がないと判断したためか本当にないのかは定かでない。

 もしかしたら核に匹敵する兵器も存在するかも知れない。


 敵の規模は長さが2キロを超える宇宙船が25隻。

 一隻あたり何人乗っているかは分からないが、100人や200人ではないだろう。


 更に、56師団と名乗っていたことから、少なくともあと55の師団が存在していることになる。


 私たちのような超能力者はおそらくいないだろう。

 もし、強力な超能力者がいたのなら、消耗品のミサイルなど使わずに、超能力で攻撃した方が安上がりだからだ。

 仮に超能力者がいたとしても、それほど大きな力はないとみた。

 実際には、前世のように超能力そのものが一般に認知されていないレベルなのかも知れない。


 わずか数日であろう潜入調査から、こちらの言語を解読し、一斉にホログラム映像で降伏勧告してきた知力も侮れない。


「敵の技術力は前世の地球を遙かに上回っているみたいね」

 カスミちゃんもさすがに認識している。

「使用された兵器は通常兵器だけだけど、他にビーム兵器や核兵器を持っていても不思議じゃないわ」

 私は指摘する。

「ということは、相手にこちらが回避や防御ができない兵器を使われる前に決着をつけたいわね」

「そういうことね。

 今回は相手が先にカスミちゃんの街に手を出してきたのだから、次はこちらが報復する番よ。

 向こうの攻撃を待って反撃する必要はないと思うわ」

「賛成!! 先制あるのみ!」

 カスミちゃんのやる気はMAXのようだ。




 次は、こちらの戦力だ。


 現状、私とカスミちゃん以外は戦力外だろう。

 敵の存在を認識していないし、仮に認識できたとしても赤い月の裏側に攻撃出るものは存在しない。

 さらには、仮に攻撃できたとしても、剣や槍、一般の魔術師が使う魔法では、宇宙船の外壁に傷をつけることすら困難だろう。


 当てにできるのは私たちだけだ。


「私たちだけでやることになると思うけど、大丈夫?カスミちゃん」

「元からそのつもりよ!

 私の街への報復は私の手で行うのが筋でしょ!」




 次は作戦だ。


 私たちといえど肉弾戦では勝ち目がない。

 数の差は圧倒的だ。

 銃やビーム兵器の存在も考慮する必要がある。

 更に、異星人の肉体強度なども不明だ。


 今回の戦いは間違いなく超能力でやるしかない。

 考えてみれば、初の本格超能力バトルだ。


 超能力の欠点は明確に意識しないと発動しないことだ。

 そのため発動までに時間がかかり、不意打ちに弱い。


 こちらが超能力を発動する前に攻撃を食らえば終わってしまう。


 しかし、今回の場合は相手も兵器の発射までに判断や指示の伝達などで時間がかかる。

 事前に作戦を打ち合わせて決めておけば、敵の攻撃前に十分先制できる。


「カスミちゃんと私の超能力で勝負することになるけど大丈夫?」

「今の私たちならよほど無茶なことをしても魔力切れにはならないでしょ!

 大丈夫よ。一緒にがんばりましょう」




 そうと決まれば、実際の攻撃手段だ。


 あの規模の敵を殲滅するには、宇宙船の中に固まってくれているときに叩くしかない。

 下手に惑星に降下され、集団にまぎれ込まれたら、こちらにも被害が拡大する。

 攻撃は時間との勝負、早いほうがいい。


 手段は私たちの超能力による遠隔攻撃。

 相手に超能力による攻撃を防ぐ手立てがないことを祈るが、手段は複数あった方がいい。


 使えそうな能力はいくつかありそうだ。

 サイコキネシスによる破壊。

 サイコキネシスによる岩石などの衝突。

 テレポーテーションによる毒ガスの搬入および散布。

 成分抽出による宇宙船構造物の破壊。

 ブラックホール生成による現宇宙軸からの放逐。


 二人が使える手段は多いが、問題点も浮かび上がる。


「私たちが使える中で最も強力なブラックホールをつくって宇宙船を吸い込ませる手段は、残ったブラックホールが、この星系にどんな影響を与えるか分からないのでとてもハイリスクな作戦と言えるわね」

 カスミちゃんは自信の使える最も強力な攻撃のメリットとデメリットを正確に把握できているようだ。

「そうね、仮に使うとしても、すぐに蒸発するサイズの小型ブラックホールにとどめるべきだろうと思うわ。

 大型のブラックホールは私たちの魔力量なら造ることはできると思うけど、一旦造ってしまうと消し方が分からないから」

 私が引き継ぐ。


 そもそも全力でつくったブラックホールを消せるのだろうか?

 消せなくなったブラックホールが全てを飲み込むのが怖くて、私もカスミちゃんもいままで一度も全力ブラックホールを造ったことがない。



「そうすると、最も現実的なのは岩石をぶつける方法ね」

 私の提案にカスミちゃんが疑問を述べる。

「石をサイコキネシスでぶつけるの?

 そのくらいじゃ宇宙船の外壁に跳ね返されるだけじゃないかしら?」

 私は腹案をカスミちゃんに説明する。

「回避行動が間に合わない程度に岩石の数を用意し、十分高速になるまで加速してやれば、効果は絶大だろうと思うわ。

 この方法なら、私たちがサイコキネシスで飛来途中の岩石を操作しない限り、自然現象と勘違いしてくれる確率も高いと思うの。

 できれば、私たちが超能力を使えることを敵に知られる前に決着をつけたいのよ」


 作戦実行上注意すべき点は、私たちの存在や能力が敵に知れることである。

 現状、ピンポイントで不意打ちされると私たちに防ぐ手段がないこともあり得る。


「そうね、今回撃退できても、私たちの能力が敵に解析されて、次の襲来で防ぎきれない攻撃を仕掛けられたら大変だものね…」

 カスミちゃんも理解してくれているようだ。


 そしてもう一つ。

 奴らに増援を出させないことも重要だ。

 この星系に来た56師団以外の敵が大量に押しかけられるとやっかいだ。

 救援要請や増援要請を出させる前にけりをつけたい。


「敵が他の船団に救援を要請する前にたたきたいわ」

 私が言うとカスミちゃんが同意する。

「56師団と言うことは、他にも55師団あると言うことだものね。」

「そうよ、57以降のナンバーを持つ師団もあるかも知れないから、もっと多いかも知れない」

 わたしは補足しながら続ける。

「理想は、こちらの存在が把握できないところから、できる限り自然現象に見せかけて敵を殲滅することね」


 私たちは作戦を確認して実行計画を練る。


「私はクレヤボヤンスによる遠隔透視で、こちらの姿を見せずに岩石をぶつける方法がいいと思うの」私は提案する。

 しかし、ここでまさかの反対をカスミちゃんからされてしまった。

「アリアちゃん。

 確かに安全を考えればそうだけど、私は私のこの手で街の仇を取りたいの!

 けど、私はクレヤボヤンスが使えないから、見えているところでしかサイコキネシスをコンとロースできないわ。

 お願い、アリアちゃん。

 中空玉で接近して、私にも攻撃させて!」



 ここで止めたら、カスミちゃんの怒りがどこに向かうか分からない。

 基本的に優しいカスミちゃんだが、今回の件では本当に怒っている。

 そもそも正義感が強い脳筋少女な私たちは、侵略とか大っ嫌いなのだ。


 私がカスミちゃんの立場でも、自分で敵討ちしたいと思うだろう。

 もし、攻撃されたのが私の青い月コロニーなら、後先考えずに巨大ブラックホールをぶちかますことすらためらわないかも知れない。


 私は少し考えて返事をした。

「危険が増すけどいいのね? カスミちゃん…」


「分かってるわ。

 それでも私はやりたいの!」

「分かった、協力する。

 まずは、発見された場合の偽装ね。

 私たちが超能力者だとばれない方が有利だと思うわ」

「そうね。戦いが今後もあった場合敵に渡す情報は少ない方がいいわね。

 で、具体的にどうするのアリアちゃん?」 

「私たちも科学的な兵器で攻撃しているように見せかけるのよ。

 その方がきっといいわ…」

「科学兵器?なんで?自然現象に見せかけるだけでもいいんじゃない?」

「それでもいいけど…

 人間は未知のものや抗(あらが)いがたいものに遭遇したらどうすると思う?」

「相手が圧倒的なら逃げると思うわ」

「では、自分より劣る既知のものなら?」

「戦うでしょうね」

「そういうことよ。

 相手は私たちのことを自分たちより劣った科学文明しか持っていないと思っている。

 つまり、科学兵器では自分たちが有利だと」

「なるほど、超能力だと悟られたり、どうしようもない未知の自然現象だと思われると撤退されて増援を呼ばれたり対策練られたりするかも知れないけど、科学兵器ならその場で殲滅しようとして撤退しない可能性が高いということね」

 カスミちゃんも私の言わんとすることを理解してくれたようだ。


 私は、敵に撤退されることなく殲滅したいのである。

 そのために、自分たちより私たちが弱いと思わせる。


 私たちは前世のSF映画を参考に、宇宙シャトルを造ることにした。

 もちろん中身は空の張りぼてで、動力は私とカスミちゃんのサイコキネシスやテレポーテーションである。


 素材は金属とプラスチックを併用し、透明部分にはクリスタルグラスとアクリル樹脂の合わせガラスを用意する。

 アラミド繊維の化学構造を覚えていたのは幸いだった。ボディー部分の強度が飛躍的に上がる。

 更に、全体をクリスタルグラスの中空玉で覆う。

 アクリル樹脂との合わせガラス使用だ。

 これで多少の衝撃なら耐えられるだろう。


 レーザー兵器を想定して、クリスタルグラスの内面に一定間隔で銀原子を配置し、短時間で全体を鏡面化できるように加工する。


 2時間後、私たちの宇宙シャトルは完成した。

 中身は張りぼてだけど…


 敵に動きが出る前に勝負をかけることにしよう。


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