第47話 カスミちゃん復讐を決意する… (47話)

 翌日、街は大騒ぎであった。


 サラス共和国の臨時国会が急遽招聘されて開催される。


 おそらくどこの国も同じような状況であろう。


 しかし、この星の文明レベルで現状を正確に理解できている国は果たしてあるのだろうか。


 突きつけられた選択はあまりにも過酷だ。

『降伏か死か』

 希望の見えない状況の中、現実逃避に走るのは人間の本能であるのかも知れない。


 スクリーンによる降伏勧告の翌日正午、サラス共和国首都サラセリアの至る所に、木の立て看板が設置された。


 内容は全て同一である。


「昨日、何者かが何らかの方法でまやかしを用い、我々を脅迫してきた。

 しかしながら、これは虚構の映像を投影したものであり、現実ではない。

 なぜならば、映像の中で破壊された都市は、我が国はもちろんこの世界のどこにも存在が確認されていない都市だからだ。

 よって、我が議会は昨日の映像を虚構だと断定した。

 国民は慌てることなく平常通りの日常を送ること。

 サラス共和国議会長 ビスマルク・シュミット」


 この発表を受けて街は平静を取り戻しつつある。

 私はこの看板をカスミちゃんのお見舞いに行く道すがら発見した。


 あの映像は虚構ではない。

 現実にあった建物が攻撃され破壊されたのだ。


 しかし、その事実を理解しているのはおそらく私とカスミちゃんの2人だけである。

 この星の人たちが見たことのない建物だというのは当然なのだ。


 カスミちゃんの粘土細工は地球の建築物を模倣したのだから、この惑星上には存在しない建築様式のものが多数あるのは当然だし、赤い月も青い月も絶えず同じ面を惑星に向けているのだから、裏面につくった建物を見ることができないのも道理である。


 カスミちゃんの家に着くと、今日は仕事を休んだジョーイさんが出迎えてくれた。


「こんにちは。

 カスミちゃんいますか?」

「アリアちゃん、いらっしゃい。

 カスミは目を覚ましてはいるけど、まだベッドから出てこないんだ」

「あの、お見舞いしてもいいですか」

「ああ、是非そうしてやってくれ」


 私はカスミちゃんの部屋をノックするが、応答がない。

 振り向いてジョーイさんを見ると、頷いて、目で入るように指示してくる。


 私は、意を決してドアを開け、中に入った。


 カスミちゃんはベッドで体育座りをして、どんよりとした空気を醸し出している。


 なんだか目が死んでいる。


 よく聞き取れない独り言もぶつぶつ言っている。

「私の街が…

 3年間の努力が…

 全部壊れて…」


 入ってきた私に気がつかないのか、気がついてもその余裕がないのか、カスミちゃんはふさぎ込んだままだ。

 黙っていても仕方ないので声をかける。


「カスミちゃん大丈夫?」


「あ、アリアちゃん…

 あれは夢だよね…」


 カスミちゃんはまだ、現実を受け入れていないようだ。


「さっきクレヤボヤンスで確認したけど、残念ながら現実よ」


「そう…現実…」


「……」


 しばらくの沈黙の後、カスミちゃんの纏う雰囲気が変化した。

 意気消沈した中に怒りのオーラが漏れはじめる。


 待つこと3分、カスミちゃんが再起動した。

「あいつら、許さない!

 絶対懲らしめてやるわ!!」


 どうやら絶望を怒りに変えて立ち上がったようだ。


「アリアちゃん、協力して!

 私の街の仇を討ちたいの!!」


「分かったわ。

 私にできることなら何でも手伝う!」


 私も、元々侵略者を放置するつもりはない。

 放っておけば次に狙われるのは私の月面コロニーかも知れない。

 惑星本体が狙われれば懇意にしている人たちに被害が出るおそれもある。


「アリアちゃん、まずは敵の位置を探して」


「分かった。

 カスミちゃんの街を攻撃できる位置を中心に透視してみるね」


 私はカスミちゃんのベッドの横に座ると、静かに集中し、クレヤボヤンスで遙か彼方に視線を移す。


 惑星と、4つの衛星を俯瞰できる位置まで視点を遠ざけると、徐々に赤い月の背面へと視点を近づけていく。


「見つけた…かも…」


 私はジョーイさんに気づかれないよう小声で告げた。


 赤い月の裏側、惑星からは決して発見されない位置に多くの浮遊物が漂っている。


 形状はラグビーボールのような楕円球が三つから五つほど縦につながっている。

 まるで楕円の串団子だ。


「どんな様子?」


 カスミちゃんが私ににじり寄ってくる。


「串団子みたいな形をした宇宙船らしき物体がおよそ25隻、赤い月の裏側にいるわ」


「それだけ?」


「十分多いと思うけど」


「けど、外宇宙からせめてくるには少なくない。」


「大きさが問題よ。

 たぶんあれ、相当大きいわよ。

 対象物がないからおおよそだけど、球体部分が直径500メートルくらいだとすると、お団子五つの串は2500メートルあることになるわよ」


「それは大きいわね。

 中に街がそのまま入りそうね」


「ええ、それにもっと大きい可能性もあるわ。

 ここからじゃ正確に分からないから…」


「わかった。

 ここじゃあ落ち着いて話せないから、アリアちゃんの部屋に移動しましょう」


 私たちはジョーイさんに遊びに行くことを告げて南門から出ると、目立たないところで青い月の私の部屋へテレポートした。

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