第34話 ランホリンクスのお値段は… (34話)
ヘンリー隊長たちに戦利品の見張りを頼み、受付に並ぼうとすると、騒ぎを聞きつけて最初に冒険者登録したときの受付のおじいちゃんが出てきてくれた。
「おや、アリアちゃんとそれから…、今日冒険者登録したばかりのカスミちゃんじゃないか。
何の騒ぎかの?」
「あっ、最初に冒険者登録したときのおじいちゃん。
こんにちは!
実は、これ、今日捕れたんで、ギルドで引き取ってもらおうと思って運んできたんです。」
私がランホリンクスを指さしながら言うと、受付のおじいちゃんは笑いながら指の先へと視線を移し、しばしの沈黙の後、目を大きく見開いた。
「はははっ、わしにもジルバ・ランザックという名前があるから、いつまでもおじいちゃんは勘弁……。
なっなっ!
これは飛竜じゃないか!
いったいどうやって捕まえたんだ?」
私とカスミちゃんは用意しておいた言い分けをよどみなくジルバさんに伝えた。
「という訳なんです。
ジルバさん、いくらで引き取ってもらえますか?」
私が引き取り金額を聞くと、ジルバさんは笑顔を引きつらせながら慌てて一緒に出てきていた受付のお姉さんに指示を出す。
「おい、ターシア。
急いでランバの奴を呼んできてくれ。」
「はい、おじいちゃん。」
「ばかもん!職場では主任と呼べと行っておるじゃろうが!」
「はい、主任。
すぐにお父さんを呼んできます。」
受付のお姉さんがギルドの扉を開けようとすると、厳つい40代の男性が扉を開けて中から出てきた。
「それには及ばんよターシア。
それに、職場ではギルドマスターと呼べと行っているだろうが。」
「すいません。ギルドマスター」
中から出てきた男性は、受付のターシアさんに注意すると私たちの方を向く。
「それで、とうさん。
いったい何があったんですか?
それに、その子たちは?」
「飛竜が生け捕りにされたんじゃ。
捕まえたのそこにいるアリアちゃんとカスミちゃんだ。」
「なっ!生け捕り!!」
今度はギルドマスターが硬直した。
私とカスミちゃん、それにヘンリー隊長とジョンさんはギルドのメンバーと挨拶を交わして、飛竜の価格交渉を進める。
「すまんが、生きた飛竜が捕獲されるなど前代未聞だ。
とりあえず大金貨20枚、1000万マールを手付け金として払うから、後はオークションに出して、売れた金額の8割を君たち、2割を手数料としてギルドがもらうと言うことでどうだろう。
先払いした1000万マールは君たちの取り分から天引きさせてもらう」
ギルドマスターのランバさんが提案する。
「はい、それでかまいません」
私が即答すると、カスミちゃんが引き取って続ける。
「売却金額が1000万マールを下回った場合はどうなるんですか?」
さすが、経済学部出身である。
お金に関してはしっかりと気がついてくれる。
「まずないと思うが、万一1000万マールを下回ったときは、その額に応じて返却してもらうことになる。」
ランバさんが説明すると、カスミちゃんは新たな提案を持ちかける。
「それでしたら、先払いなしで、オークションの売上高の8割ということでお願いできないでしょうか。」
「それは、かまわんが、君たちにとって不利なような気がするが…」
「いえ、もらった金額を返す可能性がある方がよくないと感じます。
万一、値段の決定までに使ってしまい、返金できない状態になると大変です。
それでいいよね、アイリちゃん」
カスミちゃんが同意を求めてくる。
「もちろんよ。
私たち、お金に苦労しているわけじゃないし今すぐ使う当てもないから、オークション後の受取で問題ないわ」
話は決まった。
結局、その5日後、ランホリンクスは共和国の動物園が大金貨100枚、5000万マールで買い取ることとなった。
最後まで競り合った首都一番の高級ステーキ店の店主は本当に残念さそうだ。
ランホリンクスにとっては、金持ちの食卓に素材として並ぶより、動物園で余生を全うした方が幸せだろう。
動物園の支払った購入費用は、飛留捕獲の知らせが入った3日後には、共和国議会の満場一致で国庫から拠出されることが決まっていたそうだ。
この件で、私たちは大金貨80枚、4000万マールを手に入れることとなるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます